世界最大級のモバイルアプリハッカソン「Shipaton 2026」の開幕から数日。渋谷PARCO に、AI駆動開発の最前線にいるエンジニアや有識者、グローバル市場に挑む日本人起業家が集う、期間限定のカフェ&バー「Shipaton Catfe」がオープンしました。昼はカフェ、夜はバーとして営業し、連日セッションが行われています。
DAY2にあたる8月4日には、モバイル計測ツールのAdjustによる「Adjust Night」が開催され、会場には多くのバイブコーダーが集まり、盛り上がりを見せました。本記事では、トークセッションの模様のほか、主催するRevenueCatでDeveloper Advocateを務め、来日中のCharlie Chapman氏へのインタビューも併せてお届けします。
審査の壁からグロース戦略まで――バイブコーダーが語りつくした個人開発のリアル【Shipaton Catfe 2026 Day2】
『Shipaton(シパトン)』とは
『Shipaton 2026』は、モバイルサブスクリプション決済インフラを手がけるRevenueCatが主催する、世界最大級のアプリ開発ハッカソンです。コンセプトは「Build. Ship. Get paid.(作る、世に出す、収益化する)」。
参加条件は、8月1日から9月30日までの2ヵ月間に、iOS・Android向け(今年からはGalaxy Storeも対象)の新作アプリを実際にストアへリリースすること。10以上の受賞カテゴリーが用意されており、参加者はどんな切り口でアプリを伸ばすかを競います。
前回記事のとおり、世界5万人超が参加した実績を持ち、賞金総額は100万ドルを超えます。上位入賞者には約10社のグローバルベンチャーキャピタルによる投資機会の提供、ニューヨークでの表彰式への招待、タイムズスクエアの巨大ビルボードでのアプリ広告掲載といった特典も用意されており、個人開発者から学生、スタートアップまで幅広い層が「作ったその先」を目指して腕を競う場となっています。
日本からの事前登録はすでに1,600人を超え、昨年の6倍以上のペースで伸びており、テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』でも取り上げられるなど注目度が高まっています。
今回の「Shipaton Catfe」は、Shipaton 2026 日本アンバサダーやAI駆動開発勉強会の運営協力のもとオープンしました。これから挑戦する人とすでにアプリを世に出した人が集まり、その熱量をリアルに感じられる場となっています。
Adjust Night「バイブコーダー・Qちゃんが語る個人開発のリアル」
登壇者プロフィール
2017年楽天グループ株式会社に新卒入社、ECコンサルタントとして200社以上の事業者を伴走支援。個人事業主として、メディア運営、プロの占い師を経てノバセル株式会社でマーケティング責任者を務める。その後、ソーシャルECアプリのマーケティング/グロースを担当し、2023年11月にReproに参画。趣味はポケカ。個人開発者としてこれまでに60本以上のアプリをリリースしており、この日はバイブコーダー・Qちゃんとして登壇。
「自分のアプリ、面白くない」、アプリマーケのプロが個人開発に挑戦
中野氏は普段、Repro株式会社でアプリマーケティングのコンサルティングを担当する立場ですが、この日はバイブコーダーのQちゃんとして登壇しました。個人開発者としてリリースしたアプリは60以上。冒頭の自己紹介では収益について「大体月4万円ぐらいって先日テレビで言ったのですが、今多分6万円ぐらいまで来たかな」と明かしました。
企業のアプリマーケティング支援を本業とする立場から個人開発を始めたことで、新しく見えてきた視点について聞かれると、「僕はクライアントのアプリに対して、『面白くないですね、ここを直しましょう。そうすればもっとよくなりそうです』とはっきり指摘するタイプなんです。ところが、いざ自分で開発してみると、自分のアプリが全然面白くなかった……。
指摘してきた側なのに、いざやってみると全然できていませんでした」と苦笑いを浮かべながら振り返りました。ユーザーが増えるまでのコールドスタートの大変さも、身をもって痛感したそうです。
ストア審査に落ち続けてわかったこと
続いて高橋氏から「開発を始めて、初めて『へえ』と思ったことは?」と問われると、「審査は本当に大変」と切り出しました。同時にエンジニアへの尊敬の気持ちが強まったといい、「エンジニアの方とマーケって、意外と会話をしていないんだなと改めて気づきました。エンジニアが言っていることと、マーケが言っていることは全然違う。開発してみたからこそ、マーケ側の伝え方がまずかったんだとわかるようになりました」と語りました。
元々アプリの知識はあった中野氏ですが、個人開発を始めてストアの審査基準にはさらに詳しくなったといいます。「審査に落ちまくるので、詳しくなるんです。『このパターンか』というのをAIにひたすら学習させても、3回くらいは失敗しますが、最近はだいぶマシになってきました。特に課金機能を実装すると、審査の通過率が下がりやすいですね」と回答しました。
その理由を尋ねられると、「そもそも購入できない不具合があったり、App Store Connect側でアプリ内課金をきちんと紐づける必要があったりと、いろいろとややこしくて苦労しました」と説明しました。
こうした審査の苦労を経て、話題は「商用SDKはもう不要なのではないか」という議論へと移りました。中野氏は「自分でコーディングしていると、ソースコードを読まれて審査でバレてしまいますが、SDKがちゃんとしているところを使っていれば、意外と何をしていてもそこまで言われません。最近そのことに気づいて、いいなと思っています」と話します。
さらに、「世の中にあるツールで『自分でもできる』と思ったものはだいたいダメなんです。お金をかけてでも使う理由になる最適化の蓄積が、やっぱり違う。ツール同士の連携をどう作るかという点でも、1つのアプリを単発で作るだけなら個人実装でもいいですが、いろんなサービスを駆使して売上を上げていくなら、商用SDKは必要だと思います」と続けました。
個人開発者のアプリマーケ、何から始める?
▲左から中野 竜太郎氏(Repro株式会社 App Evangelist)、高橋 将平氏(adjust株式会社 Sales Lead Japan)
最も実践的だったのが、普段は企業のアプリマーケティング支援を手がける中野氏が「自分にアドバイスするなら」という切り口で語った、個人開発者向けの成長戦略です。
まず、最初に導入すべきツールについて、実際に中野氏が真っ先に導入をすすめたのはRevenueCatでした。「課金まわりを自作するのはハードルが高い。ペイウォールのABテスト機能を使ったら、買い切りプランのほうが売れた実績もある」と話します。
「先ほどの話にも重複するところもありますが、RevenueCatのような商用SDKまで自分で開発しようとすると莫大な時間と工数がかかる上に、マイクロアップデートなど自分1人でやっていくのは不可能なので、そういうことを考えている時間がストレスになる。ケチって自分でなんとかしようとするのではなく、こういったツールにはきちんとお金を払って導入していくのが良い」と続けました。
「Reproのツールに関しても、普段から触っているからというのもあるのが、あんなに使いやすいツールはやっぱり作れません」と本音をのぞかせました。
高橋氏も、「広告配信の際に必要になるAdjust SDKに関していえば、そもそも一般的に解放されていない広告媒体のAPIなどと接続しているため、こうした部分はどう頑張っても投資していかないと無理ですよね」と補足しました。
次に大切なのが、アプリを「誰のために作るか」という視点です。「対象ユーザーの1人がイメージできていることが前提。その人に『つまらない』と言われたらアップデートをやめて、次のアプリに切り替えます」と話しました。
その上で、広告予算をかけられない個人開発者が最初にすべきこととして紹介したのが「初めの100人」の集め方。フォロワー1万人未満のナノ/マイクロインフルエンサーに、有料プランを無料開放する代わりにPR投稿を依頼するDMを送るという手法です。
フォロワー1万人未満を狙う理由について、中野氏は「まだ企業案件をそれほどこなしていない層なので、個人開発者からの依頼にも協力してくれる可能性が高いんです」と説明します。選ぶ基準はフォロワー数だけでなく、投稿内容やエンゲージメントの高さも見ているといいます。
さらに、アプリストアのフィーチャー枠の分析も有効だと語りました。「よく見ていると、短期間でアプリが入れ替わる枠と、ずっと同じアプリが掲載され続ける枠があるので、フィーチャーされ続けているジャンルをデータで分析し、競合が少ないジャンルを狙うのも手段だと思います」
最後に、SNS運用についてはTikTok一択だと断言しました。「Xはバズった割にダウンロードは伸びない。TikTokは1投稿目からバズる可能性がありますが、アカウントごとの相性がある」といい、約1,000個のアカウントを試した体感として「作った瞬間からバズりやすい素質を持つアカウントは1割程だった」と明かしました。まねしたくなるフォーマットかどうかがUGCの波及を左右するといいます。
ツール選び、ターゲット設定、初期ユーザー獲得、ストア対策、SNS運用――いずれも、その道のプロだからこそ磨き上げてきた実践知です。何から手をつければいいか迷っているバイブコーダーにとっては、参考になるひとつの道筋といえそうです。
RevenueCat Charlie氏へのインタビュー
▲左から中野氏、Charlie Chapman氏(RevenueCat Developer Advocate)、上田善行氏(RevenueCat 日本事業責任者)
RevenueCatでDeveloper Advocateを務めるCharlie Chapman氏へのインタビュー。同氏の来日は今回で2回目。この日登壇した中野氏も交え、Shipatonへの想いや、日本のコミュニティを通じて感じたことを聞きました。
Charlie:去年は同じイベントを六本木ヒルズで開催したんだけど、今回のほうがずっとクールな会場だと思うよ。
中野:確かに、この空気感は独特ですよね。
Charlie:本当に。それに、ここの人たちは情熱がすごい。OpenAIやAnthropicなど、最近参加した他のイベントについても話してくれる人が多くて、とても活気のあるコミュニティだと感じるよ。日本では、かつてないほど多くの人がアプリを作っている。
中野:僕も、そのうちのひとりです。自分の開発したアプリが、プロモーションを一切していないのに、7日間で中国から1,000件のダウンロードがあったんです。 中国の人たちが私のアプリをダウンロードしてくれるなんて思ってもみませんでした。
Charlie:1,000人も!? それはすごいね。
中野:僕もすごく驚きました。でも、マネタイズの仕組みを入れていなかったので、お金は稼げていません(笑)。今後は広告削除とアプリ内課金、買い切りのライフタイムプランを検討しています。
Charlie:すばらしいね。開発中はどうしても「自分だけの世界」にこもりがちだけど、一度世に出せば、知らない誰かの生活の助けになっている。僕の場合、ユーザーから不具合報告が届いたときでさえ、実はちょっとワクワクするんだ。それは、生身の人間が実際にアプリを使っている証拠だから。
筆者:実は私もまさに今、初めてのアプリを開発しているところです。最後に、Shipaton 2026に参加している皆さんや、これからエントリー予定の方々へメッセージをください。
Charlie:それはすばらしいね! 特に初心者の方に伝えたいのは、このハッカソンが終わる頃には、何がどうあれ「自分のアプリがストアに並んでいる」という事実にワクワクしてほしい、ということ。それだけでも信じられないくらいエキサイティングなことなんだ。
そして一度ストアにアプリが出れば、世界中の本物のユーザーたちがそれを使い始めるかもしれない。さらに、お金を稼げるようになるかもしれない。コンペティションの勝ち負け以外に、そういう体験ができること自体が本当にクールなんだ。
僕も同じような経験をしてきたからわかるけど、自分で何かを作り上げて、それをほかの人に使ってもらう、しかも「すべて自分が作ったんだ」と実感することには、とても特別な価値がある。本当に、最高の気分だよ。だから、とにかく最後までやり遂げてリリースしてほしい。
『Shipaton 2026』に参加しよう
「Shipaton 2026」は9月30日まで参加受付中です。
公式ブログでは、長年温めてきたアプリのアイディアを形にする、あるいはまったく新しいものを作ってみる絶好のきっかけだと呼びかけ、「AIツールの後押しもあって、アプリ開発はかつてないほど身近になっている」と参加を後押ししています。
学生は有料の開発者アカウントなしで参加できる新カテゴリーもあります。まだエントリーしていない方も、公式サイトから登録内容を確認してみましょう。
adjust株式会社 Sales Lead Japan 高橋 将平氏
株式会社アドウェイズに新卒で入社し、同社の主力アフィリエイト広告領域を担当。最速で新人王を獲得。その後、英・Performance Horizon Groupの日本支社立ち上げに参画し、外資系サラリーマン人生をスタート。アプリとウェブを横断したグローバルなアフィリエイトマーケティングに従事し、国内シェア拡大のために尽力。Adjustへは2020年に参画して以来、一貫して新規セールスに注力。現在はSales Leadとして、新規顧客を中心にAdjustの導入〜活用までを支援。