ファインディ株式会社が主催するイベント「Product Management Summit」が、2026年4月28日にJPタワーホール&カンファレンス(東京・丸の内)にて開催。「AI時代の顧客価値を生み続けるプロダクトマネジメントとは」をテーマに掲げ、PdMやCPO、プロダクトエンジニアなど多くのプロダクト開発従事者が集う場となりました。
本記事では、累計500万ダウンロードを超えるAI英会話アプリ『スピークバディ』を運営する株式会社スピークバディの池田氏と、プロダクト分析プラットフォームを提供するMixpanelの松尾氏によるセッション「プロダクトはデータと実験で進化する - AI英会話アプリ『スピークバディ』のプロダクト改善」の模様をお届けします。
【レポート】Mixpanel活用で1年でLTV2倍。スピークバディが実践する"データと実験"によるプロダクト改善とは(Product Management Summit)
登壇者紹介
池田 開 氏
株式会社スピークバディ
Growth Marketing Division Head
AI英会話スピークバディのLTV最大化がミッション。AI関連企業で新規事業開発やプロジェクトマネジャー、執行役員CMOを経て、2021年12月に入社。Marketing/Business Division Headを経て現在はGrowth Divisionを統括する。
松尾 達也 氏
Mixpanel
日本事業責任者
AWS、Pivotalなどでエンタープライズ企業のデータ活用の支援やクラウドネイティブ/アジャイル開発・内製化支援を通じ、大手企業のDXと開発文化変革を推進。シリコンバレー発スタートアップの日本市場立ち上げを経て、現在はMixpanel日本事業責任者としてプロダクト分析を軸に企業の成長戦略と組織構築。
スピークバディのグロースチームが追う「LTV改善率」というKGI
セッションの冒頭、Mixpanelの松尾氏は自社プロダクトについて紹介。『Mixpanel』は、モバイル・Web上で「誰が、どんな行動を、どれぐらいの頻度で、なぜ行っているのか」をリアルタイムに可視化するプロダクト分析プラットフォームです。
▲松尾 氏(Mixpanel 日本事業責任者)
松尾氏は特徴として以下の4点を挙げました。
「継続的改善のためのエンジン」として、SQL専門知識不要のシンプルなUIによるデータの民主化、サンプリングに頼らない信頼性の高いリアルタイムデータ、ABテスト・ヒートマップ・セッションリプレイなどを統合した改善サイクルの高速化、そしてMCPサーバー対応によるAI連携の高度化という4つの特徴があると言います。
現在、世界で約2万9000社が『Mixpanel』を活用してプロダクト改善に取り組んでおり、スピークバディもその一社です。
▲『Mixpanel』の特徴について(登壇資料より)
2016年にリリースされたAI英会話アプリ『スピークバディ』は、AIキャラクターとの対話を通じて英語力を伸ばすサービスとして、累計500万ダウンロードを超え、法人導入も累計300社以上に拡大しています。
▲『スピークバディ』について(登壇資料より)
池田氏が率いるチームは、外部マーケティング施策ではなく「プロダクト内でいかにグロース施策を打つか」をミッションとする部署です。KGIにはLTV改善率を据え、ABテストの勝率と改善インパクトの積み上げで事業成長への貢献を測っています。
「LTVは計算が複雑なため、ABテストごとに毎回算出するのは大変な作業。『Mixpanel』を使えばそれが容易にできる点が非常に便利ですね。」と池田氏は語ります。
なぜ『Mixpanel』か――非エンジニアが自走できる分析環境
導入以前、スピークバディではFirebaseとGoogle AnalyticsでKPIを追っていましたが、表面的なデータは見られるものの「なぜその数字になっているのか」を深掘りする際にカスタマイズ性が不足し、次の打ち手になかなかつなげられないという課題を抱えていました。
池田氏が挙げる『Mixpanel』活用のメリットは以下の3点です。
『Mixpanel』活用のメリット
- 非エンジニアが自分でダッシュボードを作れる: チームの非エンジニアが日々自分でダッシュボードを構築し、分析を回している
- 主要な分析フォーマットが標準装備: ファネル分析・リテンション分析などがデフォルトでそろっており、すぐに使い始められる
- ユーザーセグメントを自由に切れる: ABテストでLTVが無風や負けの結果でも、ファネル単位での勝ち負けが見えるため、改善の方向性を見失わない
1年で施策数2倍超、LTV大幅改善――数字で見るチームの進化
スピークバディのグロースチームは、『Mixpanel』と独自の実験フレームを武器に、わずか1年で大きな成果を上げました。
▲『スピークバディ』の実績【2024年/2025年の比較】(登壇資料より)
施策数は2024年の16個から2025年には37個へと倍以上に拡大。LTV改善率(各ABテストの改善率を累積で掛け合わせた値)も+78%から+535%へと飛躍的に伸長し、結果としてLTVは1年で約2倍に向上しました。
「改善の実験フレームを磨き、チームメンバーが使いこなせるようになったことで、施策数も改善率も大きく伸ばすことができました」と池田氏は振り返ります。
“Plan”と“Check”に時間をかける、スピークバディ流PDCAフレーム
スピークバディの実験フレームの根幹には、PDCAサイクルにおける「PlanとCheckにこそ時間をかける」という思想があります。
実装にあたるDo・Actionはスピード重視で素早く回す一方、課題発見から仮説構築までのPlan・Checkには重点的に工数を投下します。
▲PDCAサイクル分解(登壇資料より)
ポイントは、Plan工程の中で「データ」と「非データ(推論)」を交互に往復させる点です。課題の確定はデータで裏付け、原因仮説の発散はプランナー同士で議論し、最後にデータで語れる仮説に絞り込む――この行き来が企画の精度を支えています。
「データだけだとファクトはわかりますが、アイデアにつなげるにはジャンプアップが必要です。一方で感覚だけだと施策の当たり外れが大きくなる。だからこそ、データと非データを往復することで仮説の精度を上げていく必要があるんです」と池田氏は語ります。
他社事例から学び、自社の使えるアイデアへと昇華するプロセス
仮説をアイデアに変換する段階で、池田氏が重視するのは「競合や他社のアイデアを積極的に取り入れる」姿勢です。
ただし、そのまま転用するのではなく、仮説と紐づけて自社で使える形に昇華させることが重要だといいます。
▲アイデアリストの作り方(登壇資料より)
例として池田氏が紹介したのが、カラオケアプリで「歌唱中に“全国〇位!”とインサートで表示される演出」からの着想です。「これを見るとテンションが上がって、最後まで歌いたくなる。心理学でいう『即時強化』、つまり行動直後にすぐ報酬が得られると人はその行動を続けたくなる心理が働いています」と池田氏は続けます。
この心理効果は、レッスン中の途中離脱防止に応用できると池田氏は分析。行動価値とスコアの可視化というアイデアとして、現在検討リストに加えられているそうです。
ドメイン知識・競合の動向・心理効果――これら3つを推論の軸に据えることが、チームメンバー全員に徹底されていると池田氏は語ります。
実例:連続学習記録画面のリニューアル失敗からのリカバリー
実際にこのフレームで成果を出した事例として、連続学習記録画面の改善が紹介されました。
デザインを刷新したところ、リテンションレートとLTVがいずれも下落するという結果に陥り、ここから実験フレームを使ったリカバリーが始まったといいます。
データ分析結果:
- 新規ユーザーのリテンションレートは下落
- しかし、既存課金ユーザーのリテンションレートは改善
- SNSへの投稿数は増加していた
推論による仮説:
- 既存ユーザー(画面に慣れている)と新規ユーザー(慣れていない)では、画面を見たときの認知負荷に差が出ているのではないか
- 既存ユーザーで成果が出ている以上、画面の方向性自体は間違っていない
- 新規ユーザーにとっては画面の意味がわかりにくく、ノイズとなって記憶に残らなくなっている
▲「連続学習」画面のリニューアル改善事例(登壇資料より)
次の挑戦は「AIグロースハック」へ
セッション終盤、松尾氏から「継続的な改善は終わりがなく続いていくもの。今後どういった取り組みをしていきたいか」と問いかけられた池田氏は、今後の展望としてAI活用の本格化を挙げました。
スピード・質ともに改善するためには、プランナー個々のスキル差や時間制約による分析・企画精度のばらつきが課題となっています。これを解消するため、企画書のドラフト作成や原因仮説に対するデータ抽出など、すでにClaudeなどのAIに任せる試みを開始しているとのこと。
「ドキュメント作成は人間が担う必要がどんどん減っていくと感じています。それを進めていくと、いずれ“AIグロース班”のような体制が実現できるのではないか。しっかり時間をかけてチャレンジしていきたい」と池田氏は語ります。
▲池田 氏(株式会社スピークバディ Growth Marketing Division Head)
『Mixpanel』に対する期待としては、セッションリプレイのAIによる自動分析が挙げられました。2025年11月にリリースされた「AI Summary Session Replay」機能は、リプレイ動画を1件ずつ確認することなく、AIがセッション内のキーモーメントを自動でハイライト・要約し、ユーザー行動の「なぜ」を瞬時に把握できるようにするもの。
「ユーザーの行動動画を1人あたり1分ずつ確認するのは現実的ではありませんが、AIが寝ている間に全件見てくれて『ここで離脱が多い』と教えてくれるーそうした活用を通じて、 これまでアプリでは難しかったヒートマップ的な分析も実現できるようになります。こうした連携がさらに進むことで、プロダクト改善の新たな可能性が広がっていくと考えています」と松尾氏は締めくくりました。
データと非データを往復させる仮説構築、PlanとCheckに時間を投下するPDCA、非エンジニアが自走できる分析環境――この3つを組み合わせ、1年でLTV改善率を約2倍に伸ばしたスピークバディの取り組みは、AI時代のプロダクトマネジメントを考えるうえで多くの示唆を与えるものとなりました。
イベント「Product Management Summit 」概要
開催日時:2026年4月28日(火)
主催:ファインディ株式会社
イベント公式サイト:https://product-management-summit.findy-tools.io/2026
AI時代の顧客価値を生み続けるプロダクトマネジメントとは
技術の進化により、プロダクトを取り巻く環境は大きく変化しています。データ活用や自然言語インターフェース、サービス連携が進む中で、顧客価値の届け方やマネタイズの設計も再定義が求められています。同時に、PdM・デザイナー・エンジニアが職能を越えて協働するなど、価値創出のための組織やチームの形も変わり始めています。AI時代に、顧客価値を継続的に生み続けるプロダクトマネジメントとは何か。
各社の実践と試行錯誤を共有し、次の一歩を考える場として開催されました。