データはかつてないほど豊富になり、AIによって顧客理解の精度は大きく向上しました。しかし今、マーケターと消費者の間には、深い溝が横たわっています。
顧客エンゲージメントプラットフォームを提供するBraze(ブレイズ)が発表した、世界17ヵ国・2,200名のマーケティング幹部を対象とした最新のグローバル調査「カスタマーエンゲージメントレビュー2026」(以下、CER 2026)が明かしたのは、「インサイトの精度向上が、そのまま顧客体験の改善にはつながっていない」という課題でした。2026年4月14日に公表された日本市場向けのデータもまた、国内のアプリマーケティング現場が抱える構造的な停滞を色濃く映し出しています。
なぜ、顧客理解が顧客体験へ変換されないのでしょうか。本記事ではその背景をアプリマーケターの視点で読み解き、自社がどこで停滞しているのかを可視化していきます。
なぜAIで顧客理解は進んだのに、体験は良くならないのか――「成熟度75%停滞」の本当の意味
AIで顧客の「解像度」は上がった。それでも"伝わらない"理由
まず、ひとつの大きな数字を紹介しましょう。
CER 2026によると、93%のマーケティングリーダーが「AIによって顧客の好み・行動・将来のアクションをこれまでより正確に捉えられるようになった」と回答。マーケター側には、顧客の姿をかつてないほどクリアに把握できているという強い手応えがあることがわかります。
ところが、消費者側の受け止め方はまったく異なります。「ブランドは自分の希望やニーズを正確に予測してくれている」と答えた消費者は、わずか53%。実に40ポイントのギャップがあるのです。
このギャップが意味すること、それは、AIによる緻密なプロファイリングと、それを実際の顧客体験として届ける配信・体験設計との間に、大きな断絶があるということです。「頭では見えている。にもかかわらず、それが実際の施策に変換されていない」――これこそが、CER 2026が突きつけた構造的な課題です。
アプリマーケ現場で「つながっていない」のはどこか
では、なぜ体験に変換できないのでしょうか。データを整理すると、現場で足が止まっている具体的なボトルネックが見えてきます。
60%のマーケターがクロスチャネルのパーソナライゼーションにAIを使用していると答えている一方、48%は「統合されたクロスチャネル体験を構築するために必要なツールを持っていない」と明かしています。さらに、データストリーミングによってリアルタイムに情報を更新・活用できているマーケターは55%にとどまり、残り45%はAIのポテンシャルを活かせない環境(タイムラグのあるバッチ処理など)で戦っています。
アプリマーケティングの現場に引き当てると、この状況はより鮮明です。プッシュ通知、アプリ内メッセージ、メールといったそれぞれのチャネルは動いていても、裏側のデータが連携していない場合、ユーザーが「昨日カートに入れた商品」を、翌日のメールでもプッシュでも「新規ユーザー向け」の定型コピーで送ってしまうような事態が起こります。チャネル間のデータが分断されている以上、AIがいくら精度の高いインサイトを出しても、それが一貫性のある顧客体験として機能しないのです。
日本企業はなぜ特に停滞しているのか
▲日本の顧客エンゲージメント成熟度。75%が「アクティベート」「アクセラレート」の段階に留まっている
出典:Braze 2026年版「カスタマーエンゲージメント・レビュー(CER)」日本市場調査結果
Brazeが公表した国内データによると、オーケストレーション成熟度の下位グループ(Activate / Accelerate)に属する日本企業の割合は75%に達しており、グローバル平均の67%を8ポイント上回る結果となっています。
なぜ、日本では成熟度の低さが目立つのでしょうか。CER 2026のデータからは、AI時代に多くの企業が直面している共通課題が、日本市場では一段と浮き彫りになっていることがわかります。
1つは、「確実な過去のデータ」の偏重です。日本企業は過去の購買履歴や属性に基づくセグメンテーション(ターゲットの絞り込み)には強みを持つ一方、ユーザーの「今この瞬間」の行動を捉えるリアルタイムデータ活用への移行に課題を抱えるケースも少なくありません。
もう1つは、「ガバナンスの壁」です。AI活用に関しては、社内ルールの複雑さや個人情報の不適切な利用への懸念から、実際の導入判断が慎重になりやすい状況も見えてきます。AIへの期待やポテンシャルは高い反面、ガバナンス設計の慎重さが、結果として導入スピードに影響している側面もあります。
先進企業が越えた壁――ツールではなく「構造」の転換
では、日本において「停滞」を脱した上位25%の企業、あるいはグローバルの最上位層は何が違うのでしょうか。CER 2026は、最高成熟度グループである「エース(Ace)」ブランドの圧倒的な差を具体的な数値で提示しています。
▲最高成熟度である「エース」ブランドと下位グループではAI活用度に圧倒的な差がある
出典:Braze 2026年版 グローバル カスタマーエンゲージメントレビュー
エース企業は、下位グループと比較して以下の特徴を持っています。
- 顧客の解約や購買行動を予測するために予測型AIを活用する可能性が30%高い
- 顧客データに基づいてユーザージャーニーを自律的に最適化する可能性が39%高い
- 顧客セグメンテーション(ターゲティング)にAIを用いる可能性が31%高い
その成果は明確で、エースブランドの70%が2025年の収益目標以上を達成しています。
ここで重要なのは、この差が単なる「高機能なツールの有無」ではないという点です。Braze共同創業者兼CEOのビル・マグヌソン氏が「AIをエコシステムとして活用し、エージェント、強化学習、予測分析を組み合わせることが重要」と強調するように、先進企業が壁を越えて変えたのは、ツール単体ではなく、「データ」「リアルタイム性」「顧客接点」が連動する運用体制そのものです。
こうした接続が実現されて初めて、予測AIや自動最適化は成果へつながります。AIは単独で価値を生むのではなく、データを顧客体験へ変換する「増幅器」として機能するのです。
あなたのアプリはどこで止まるか――フェーズ別の自己診断
「顧客体験が良くならない」と悩むとき、ついツールの機能不足などを疑いがちです。しかし真の課題は、もっと深い「構造」のレイヤーにあります。日本企業の75%が下位・中位グループに滞留しているのも、自社がぶつかっている壁を正確に把握できていないことが原因かもしれません。
前進の起点は、現在地を正確に把握すること。Brazeの成熟度モデルは、データ・オーケストレーション・AI活用の3軸から、成長のボトルネックを浮き彫りにする「現在地の地図」です。
以下のチェックリストで自社の立ち位置を客観的に把握し、上位25%の「エース企業」へ移行するための具体的な「次の一歩」を見出してください。
Activate(低成熟度)に該当する場合
- メッセージングが単一チャネル、またはチャネル間が連携していない
- データは蓄積しているが、一斉配信(一斉プッシュなど)が中心
次の一歩:まずは「データの統合」です。チャネルを増やす前に、既存チャネルのデータを一元化し、顧客行動をリアルタイムで参照できる環境を整えることを優先します。
Accelerate(中成熟度)からAceへ移行(ステップアップ)を目指す場合
- 複数チャネルでのキャンペーンやシナリオ運用は実現できている
- パーソナライゼーションが「過去の属性セグメント」単位にとどまっている
- ガバナンスやルールが障壁となり、AIの自動最適化やリアルタイム活用に踏み込めていない
次の一歩:まさに日本企業の多くがぶつかる壁です。データストリーミングインフラへ投資し、AIにリアルタイムの「文脈」を与えます。同時に、ルールでAIを縛るのではなく、安全に活用できるプラットフォームの選定へと舵を切るフェーズです。
Ace(高成熟度)を維持・さらに進化させる場合
- リアルタイムデータとジャーニー単位での自動最適化が回っている
- 予測モデルを活用してユーザーの行動を先回りできている
次の一歩:消費者がブランドを自律的に探す「AI仲介(ChatGPTアプリ等)」の普及など、新たな顧客接点への対応(エージェンティックコマースへの備え)が問われる段階に入っています。ちなみに、年内にAI仲介を活用・予定している消費者は46%(前年比1.4倍)に急増する見込みです。
そろったデータを、顧客体験へ結実させるために
「成熟度75%停滞」というデータは、決して悲観論ではありません。むしろ、自社がこれから大きく飛躍するために成長のボトルネックを可視化するフレームワークです。
グローバル平均と比較したとき、日本のアプリマーケティングが抱えている課題は、オーケストレーションの構造転換とガバナンスの最適化という、ある意味「技術や組織設計の見直しによって改善可能な領域」にすぎません。
データはすでに目の前にそろっています。あとはそのデータを「適切なタイミング」「適切なチャネル」「適切な文脈」で届けられるかどうか。その一歩を踏み出すか否かが、2026年のアプリマーケティングにおける最大の分岐点になるでしょう。
Brazeとは
Brazeは、アプリやWeb、メール、プッシュ通知など複数チャネルを横断し、顧客ごとの文脈に応じたリアルタイムコミュニケーションを支援する顧客エンゲージメントプラットフォームです。
さらに、先進的なインテリジェンス機能「BrazeAI™」はリアルタイムデータをもとに顧客ニーズ予測や自動最適化を支援するAI機能群です。
日本国内では2020年の日本支社設立以来成長を続け、130社以上のお客様に導入いただいています。さらに2026年には「日本国内データセンター」を開設。高いセキュリティ要件が求められる金融機関をはじめとするお客様への支援体制もさらに強固なものとなりました。
公式サイト(日本語):https://www.braze.com/ja
▼申し込みや相談はこちらから
Brazeのサービス詳細や、自社のアプリマーケティングにおける構造課題(Activate/Accelerateフェーズからの脱却)に関する具体的なご相談は、こちらから可能です。導入時期・コスト・既存システムとの連携など、お気軽にお問い合わせください。
▼レポート完全版と、顧客エンゲージメントの具体事例
本記事のベースとなったグローバル調査レポート「Customer Engagement Review 2026」の完全版データや、1対1の顧客エンゲージメントを実現している企業の具体的な導入事例は、以下からご覧いただけます。
導入検討時によくある質問
Q. 既存のデータ基盤(DWHやCDP)やアプリと連携して、リアルタイムなクロスチャネル配信をすぐに始められますか?
A. 可能です。Brazeは柔軟なAPI/SDKに加え、クラウドデータウェアハウスとシームレスに連携できる「ゼロコピー型ツール」などに対応しています。既存のデータ資産をそのまま活かしながら、分断されていた各チャネルを統合。顧客の「今この瞬間」の文脈(コンテキスト)をAIに与えることで、リアルタイムなクロスチャネル配信基盤を最速で構築できます。
Q. 日本国内でのサポート体制や、ガバナンス・セキュリティ面への対応はどうなっていますか?
A. 日本国内では130社以上の豊富な導入実績があり、手厚い国内専任チームによるサポート体制を整えています。また、2026年に「日本国内データセンター」を開設したことにより、高いセキュリティ要件や厳格なコンプライアンスが求められる金融機関や大手企業でも、社内ルールの壁をクリアして安全・確実にデータとAIを活用可能です。
Q. 記事にあった「予測AI」や「ジャーニー自動最適化」は、専門知識がないマーケターでも使いこなせますか?
A. 直感的に操作できる設計になっています。例えば、AIツール「BrazeAI Operator™」は、まるで隣にいる専属アシスタントのような存在です。Brazeの機能について完全に学習しており、質問を投げかけたり、タスクを依頼したり、エージェントの構築を依頼するだけで、迅速かつ正確に応答します。
また、顧客行動に基づき自律実験を繰り返す「BrazeAI Decisioning™」を活用すれば、マーケターが複雑な機械学習の設定に頭を悩ませることなく、顧客ニーズの先回り予測や最も効果的なチャネル・配信タイミング、コンテンツの調整を顧客一人ひとりに対して、自動で実行できます。