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  • オープンハウス・アーキテクトの『TATETA』、社内データ開放が生んだパラダイムシフト

社内開発の施工管理アプリ『Architect Jump』によって工期13%短縮、出戻り(工事のやり直し)コスト80%削減という成果を積み上げてきた株式会社オープンハウス・アーキテクト。同社は2026年4月、その知見を施主向けに開発した新アプリ『TATETA』をリリースしました。同アプリは、元々社内に閉じていたデータを外部に開放することで、施主体験の向上だけでなく、他の不動産事業者の新たな事業展開にまでつながっている点が特徴です。

同社DX推進部の田中健次氏への取材から、社内データを開放した理由と、建築の専門知識がない顧客でも「わかる・楽しい」と感じさせるアプリのUX設計の狙いを尋ねます。

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今回お話を伺った方

株式会社オープンハウス・アーキテクト DX推進部 次長
田中 健次氏

2020年、大手銀行系システム会社を経て、株式会社オープンハウス・アーキテクトへ入社。施工管理アプリ『Architect Jump』を開発し「2022年度グッドデザイン賞」を受賞。Architect Jumpをベースとした『Architect Jumpシリーズ』を中心に木造系システムの責任者として現場DXを推進中。

▼『TATETA(タテタ)』とは?
株式会社オープンハウス・アーキテクトが自社開発した施工管理アプリ『Architect Jump』で培った高いIT技術を、一般の施主に向けて転換したアプリ。アプリ内で建築状況をリアルタイムに反映し、我が家が育つ様子をSNS感覚のアニメーションで楽しめる。 現場のデジタル化によって生成される正確な進捗データを、親しみやすいアニメーションで可視化することで、建築プロセスにおける透明性を高め、多忙な施主にも「安心」と「楽しさ」を提供している点が特徴。

『TATETA』紹介動画:https://youtu.be/MciRXh7VEcE

『TATETA』発想のきっかけはリアルタイム更新率99%にまで利用定着した社内アプリにあった

田中健次氏

▲株式会社オープンハウス・アーキテクト DX推進部 次長 田中健次氏

toC向けアプリである『TATETA』が生まれた背景には、同社オリジナルの施工管理アプリ『Architect Jump』が大きく影響しています。『Architect Jump』は2021年、職人不足や業務の属人化といった建設現場の課題を解決するために開発がスタートしました。とはいえ最初から建設現場に利用が浸透したわけではありません。

田中氏

『Architect Jump』をリリースした最初期は、社内利用率10%未満でした。「今まで普通にできていた業務に対して、なぜアプリを使わないといけないのか?」という現場側とのギャップがあったためです。建設業界は文字通り現場主義ですので、そこは苦労した点でした。

言葉だけの説明で現場を納得させるのではなく、「使いたい」と思わせる体験を先に作る。田中氏はそう発想を切り替え、みずから建設現場に足を運びました。

「現場にはどういった課題感があるのかを聞くために、おおよそ200現場ぐらいに足を運びました。そこで職人さんの不満点や現場監督の仕事の動きを見て、ときには一緒に意見を壁打ちし、お互いが納得いくように『こんなアプリだったらめちゃくちゃいいですよ』という要望を具現化していったことで、次第に賛同を得ることができたのだと思います」

Architect Jump

▲『Architect Jump』によって、建築現場のあらゆる情報はシームレスに共有できる
出典:PR TIMES

現場視点を盛り込んだ『Architect Jump』には賛同者が集まり、工期を大幅に縮めた成功モデルの拠点も次々に誕生。『Architect Jump』が生み出した現場の成功体験は、急速に横展開されていきました。

賛同した現場から次の現場へと、田中氏は施行中の現場や職人の事務所に足を運んで意見交換を重ねていきます。名古屋で得られた成功事例は関西へ、そして関東へと横展開され、工期の短縮も目に見える形で広がっていきました。こうした地道な積み重ねが、現在のリアルタイム更新率99%につながったのです。

「現場に行けない施主」の不安にこそニーズがある

社内での『Architect Jump』利用定着が進むにつれ、現場から集まる情報量そのものも変化していきました。現場の入退場管理はデジタルでリアルタイムに共有され、すべての関係者が工程表を事前に確認できることで電話連絡の無駄が減り、現場のあらゆる情報が自動的につながるシームレスな環境となったそうです。

象徴的な情報変化は写真枚数です。アプリ導入前は、現場監督が現場写真をデジカメやスマートフォンで撮影してメールで送っていたため、1日にやりとりできる写真は多くても10枚程度でした。アプリ導入後は、600枚ほどの現場写真がリアルタイムに共有されるようになったといいます。

この変化が、施主向け体験型アプリ『TATETA』への発展を後押ししました。共働き世帯の増加によって数多くの施主は「建設現場の様子を見にいきたくても行けない」という課題を抱えています。田中氏自身も注文住宅を建てた経験から、この課題を強く実感していました。

田中氏

実際に僕も注文住宅を建ててみて工程確認の手間を実感しました。LINEやメールで「今どうなっていますか?」と聞いたら写真を送ってくれたりしますが、あくまでお客さんが能動的に動かないと情報を取れなかったんです。であるならば、弊社はお客様がノンストレスに写真を共有できる体制を目指そうと思って『TATETA』の開発を進めました

この原体験は、『TATETA』という新しいアプリの出発点になります。

建築知識ゼロでも「わかる・ワクワクする」アプリの誕生背景

『TATETA』の開発でもっとも印象的な出来事は、一度リリース直前まで進めた同企画を、ゼロから作り直した経験だったと田中氏はいいます。

最初の仕様はアニメーションも何もなく、建築が進んでいる情報をできるだけ見せる仕様でした。しかし「これではダメだ」という判断のもと、いったんリリースを延期。エンタメ要素を追加して、施主にワクワクしてもらえるアプリにするべく、すべてをひっくり返して練り直したというのです。

この方針転換のきっかけは、社内での指摘と、田中氏の知人の施主に見せたデモ版への率直な反応でした。

田中氏

経営陣へのプレゼンでは「確かに内容はいい。ただお客様のことを考えてみると、本当にこのアプリは心に刺さるのか?」といった意見が出てきました。念のため、ちょうど僕の友人が注文住宅を建てていたので、実際にアプリのデモを見せて意見を聞いたんです。返ってきたのは「情報が多すぎてわからない」という声でした。そこでハッとして、確かに自分は情報にとらわれていたなと気づきました。

TATETA画面例

▲「着工」や「木工事」などのシーンに遷移すると職人が動くアニメーションが現れる
出典:PR TIMES

そこで田中氏がひらめいたのは、社内で磨いてきた「データの量」ではなく、施主が「今どうなっているか」を直感的につかめる「情報の質」への転換でした。開発途中のアプリを、あえて引き算するという決断です。

そうして工程を絞り込み、建築中の住宅をイラストとアニメーションでイキイキとした様子に可視化。着工から引き渡しまでの過程を直感的に把握できる形に作り直しました。

季節を彩るアニメーションが、記憶を色鮮やかに残す

引き算によって情報を絞り込む一方で、田中氏があえて足したのが、季節感と「振り返り」の体験です。『TATETA』は単に工事の進捗を伝えるだけでなく、施主にとっての思い出そのものを蓄積する仕組みとして設計されています。

基礎工事をした日が冬なら雪が降り、春なら桜が舞う。施工時期の季節に合わせてアニメーションの背景が変わる仕掛けを施し、施主が「あのときはこんな季節だったよね」と振り返ることができるものです。

TATETA完成後の画面例

この仕掛けは、家が完成した後にこそ真価を発揮します。『TATETA』は、建設工程が終わればアプリの役目も終わる、という設計にはせず、家の完成後も、工事の過程を振り返れるよう、アルバムの見せ方を工夫しました。通常なら「家ができました」というタイムライン表示で終わるところを、土地の状態から始まり、基礎ができ、家の形が見えてくるまでのプロセスをフローで振り返れるようにしています。

田中氏

例えばお子さんが生まれたりしたときに、この家がどうやって建ったのかが、すべて写真とアニメーションで残っている。お子さんが大きくなってからも見返しても楽しめるようなコンテンツにしたいと思って作りました。

進捗を伝える機能に季節感や振り返りという「エンタメ要素」を掛け合わせたことで『TATETA』は単なる工程通知ツールではなく、施主の人生に長く寄り添う記録装置としての価値を持つに至りました。

情報開示というリスクを、あえて取りにいく

現場の生データをそのまま施主に見せることには、当然リスクも伴います。建築になじみのない施主に工事写真をそのまま送れば、かえって不安にさせてしまう――だからこそ情報共有に踏み込まない会社がほとんどの中、オープンハウス・アーキテクト社内でも同様の議論があったと田中氏は明かします。

議論の末にたどり着いたのは、すべてを自動で送るのではなく、社内チェックを挟んでから届けるという解決策でした。

田中氏

現場写真をお客様に見せる際は、現場監督の上長がダブルチェックし、ときには営業も交えてトリプルチェックします。これはアナログな工程ですが、お客様にワクワクしてもらいたい、安心を届けたいという核を守るための判断です。

建設工程の様子

▲建設工程の様子は毎日確認できるため、顧客との信頼構築が強まる

自動化と顧客への安心感の両立が難しいシーンでは、顧客接点に人間の判断を残す。建築現場の情報開示を「リスク」ではなく「顧客との信頼構築の手段」と捉える発想は、建築業界にパラダイムシフトをもたらしました。

「建築業界は現場主義であり、デジタルに拒否感を抱く人が多いのも事実ですが、現場の声から拾った課題を踏まえてシステムを作れば、結果的に成果も上がるという成功体験を得られたのは大きな収穫でした。土台となる社内システムが定着し、高い水準で情報を共有できていれば、むやみに情報開示を不安がる必要はないと思います」

今後、オープンハウス・アーキテクト社は、同社が建築を請け負う不動産事業者向けにも『TATETA』の展開を予定しています。田中氏は建売住宅であっても『TATETA』の価値は充分に提供できると考えています。

「建売は完成した家を買うものなので、家が建築されてきた情報が残っていないケースが多いでしょう。しかし、どのように施工されていたのか不安を抱く顧客に対して『TATETA』を利用すれば、建築過程の情報を提供できます

施主向けに磨いたこれらの仕組みが、今度は不動産事業者にとっても強みとなる販売営業ツールになろうとしています。

社内の蓄積データを、顧客の"ワクワク"に変える思考

田中氏

『Architect Jump』から『TATETA』までの歩みを振り返ると、根底にあるのは一貫した姿勢です。田中氏は絶えず現場の声を聞き、小さな成功体験を積み重ね、その成果を次の対象へと開放していっています。

また、社内業務の効率化のために蓄積していたデータを、施主に開放し、次には協業する不動産事業者にまで開放していく。自社で磨いた技術やデータを、どこまで・誰に開放していくかという線引きを緻密に設計することは、事業のネクスト・ステージを切り拓くカギとなるのかもしれません。
社内の情報資産を外部プロダクト化しようとする企業にとって、オープンハウス・アーキテクト社の大胆な施策は、業種を超えて共有できる貴重な実践知といえるでしょう。

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