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  • 【レポート】App Growth Annual Tokyo 2026 Global Track 後編|広告収益・最適化・サブスク・プロダクト設計――成長を加速させる実践知

App Growth Annual Tokyo 2026(RAGA)のGlobal Track後編では、収益化とプロダクト設計の最前線に立つ4社のセッションをレポート。

累計1億DLを突破した目覚ましアプリ『Alarmy』を運営するDelightroom、150本超のアプリ支援で5,000万ドルの増分売上を生んできたTangent、モバイル戦略を急速に進化させる『Notion』、そして「共同所有できる別荘」という独自路線を貫くNOT A HOTEL。

課金しない90%のユーザーをどう収益化するか、売上を伸ばす最適化フレームワーク、価格改定とプラン設計の意思決定、そしてプロダクト思想と技術の関係。世界と日本、それぞれの最前線から、次の成長を切り拓くヒントが共有されました。

セッション1|なぜ、課金する10%のユーザーだけを収益化するのか。100%を収益化できるのに。(Delightroom)

続いて登壇したのは、Delightroomのグッドウェイ・チョー氏。世界No.1目覚ましアプリ『Alarmy』は累計1億ダウンロード超、DAU400万人を擁し、広告収益はサブスク収益の2倍以上を稼ぎ出しています。

多くのアプリが課金意思のある一部ユーザーしか収益化できないなか、同社が10年以上かけて磨き上げた「残り90%の無料ユーザーを収益化する」実践論が語られました。

登壇者プロフィール

Goodway Cho|グッドウェイ・チョー氏(Delightroom Business Development Manager))

Goodwayは、世界No.1の目覚ましアプリ「Alarmy」を展開するDelightroomで、Business Development Managerを務めています。Alarmyは累計1億ダウンロード以上、日次アクティブユーザー数400万人を誇ります。Delightroomは、Alarmyにおける10年以上の広告マネタイズ最適化の知見をもとに、社内ツールをプロダクト化し、グローバルなアプリパブリッシャー向け広告マネタイズプラットフォーム「DARO」を開発しました。Goodwayは、DAROのパートナーシップ推進と事業成長を担っています。

課金は初日に決まる――だから「ソフトペイウォール+3セグメント」で考える

グッドウェイ氏はまず、戦略の出発点を明かします。ハードペイウォールはコンバージョン率を上げる一方、払わない90%を失う――課金意思の低いカテゴリでは致命的だと。同社はソフトペイウォールで無料ユーザーを定着させる道を選びました。

根拠はデータにあります。「サブスク転換は初日で決まり、24時間以内に誰が払い誰が払わないかは分かる」。ならばユーザーは、支払う10%、迷う5%(3日以内に割引提示で転換)、絶対に課金しない85%の3つに分けて考えればいい。

広告を見せるのは最後の85%だけであり、サブスク利用者と広告視聴者は重ならないためカニバリは発生しない――グッドウェイ氏はそう言い切ります。

ユーザーフレンドリーな広告とは「目立たない広告」ではない

広告導入時の「ユーザーが離れるのでは」という不安に対し、グッドウェイ氏は「見えない広告=良い広告」という通念を真っ向から否定。目立たない広告はeCPMが低く、収益を犠牲にする"悪い広告"にすぎないと断じます。

重要なのは隠すことではなく、自然な瞬間とフローに統合すること。『Alarmy』ではアラームを止めた直後、ユーザーの注意が最大化し「アプリから価値を受け取った」瞬間に広告を配置。だからこそ公平な取引として受け入れられるのだといいます。

DAU400万規模では、ARPU0.7セントの改善が月8.4万ドルの増収をもたらす――小さな最適化の積み上げが収益に直結する規模感です。

「なぜ、課金する10%のユーザーだけを収益化するのか。100%を収益化できるのに。(Delightroom)」登壇者

▲グッドウェイ・チョー氏(Delightroom ,Business Development Manager)

eCPMではなくLTVで決める――5年の試行錯誤から得た3ステップ

実は2020年、アラーム解除直後に広告を入れ収益は倍増しましたが、ユーザーの反発で撤去。そこから5年かけて導き出したのが次の3ステップだと、グッドウェイ氏は紹介しました。

STEP1:コア体験には触れず、周辺機能から広告を導入してユーザー反応を学ぶ

STEP2:制御不能なeCPMではなく、セッション×ARPDAUで算出するLTVで意思決定する

STEP3:周辺で手応えを得た上で、コア体験に組み込む

STEP2の判断基準はシンプル。リテンションが3pt下がってもARPDAUが10%上がればLTVは増える――ならば継続、そうでなければ撤去。これが意思決定フレームワークのすべてだといいます。

STEP3の鍵はフォーマット選び。「コアに広告を入れる=悪」ではなく「間違ったフォーマットで入れる=悪」という視点こそ、2020年の失敗から得た教訓です。

実際、2025年導入の「アラーム解除後の軽量ポップアップ広告」は、リテンション低下ゼロ・広告収益+30%・広告収益全体の15%を生む主力に成長。

「なぜ、課金する10%のユーザーだけを収益化するのか。100%を収益化できるのに。(Delightroom)」登壇者

▲グッドウェイ・チョー氏(Delightroom ,Business Development Manager)

「低い支払い意欲は、低い収益性を意味しない。まだ正しいアプローチに出会っていないだけだ」――グッドウェイ氏の言葉は、無料ユーザーを抱えるすべてのアプリマーケターへの力強い問いかけとなりました。

発表を終えた最後には、「なぜ名前が"Goodway"なのか気になる方は、ぜひ話しかけてください」と呼びかけ、会場を和ませる一幕も。

セッション2|いま最も成長しているアプリを支えるマネタイズ実践論(Tangent)

続いて登壇したのは、モバイルアプリの収益化コンサルティング会社Tangentの創業者兼CEO、バヘ・バグダサリヤン氏。同社はニューヨークを拠点に、これまで150本以上の消費者向けアプリを支援し、累計5,000万ドル超の増分売上を生み出してきました。

本セッションでは、実際の事例を交えながら、売上を伸ばすための実践的な最適化フレームワークが共有されました。

登壇者プロフィール

Vahe Baghdasaryan|バヘ バグダサリヤン氏(Tangent CEO)

Tangentの創業者兼CEO。Tangentはニューヨークを拠点とする、サブスクリプション型モバイルアプリ向けの収益化コンサルティング会社です。これまでに150本以上のアプリを支援し、累計5,000万ドル超の増分売上創出に貢献してきました。主な顧客には、ReciMe、Hallow、Elevate、Balance、BetterSleep、Cal AIなどがあります。Tangent創業前は、世界で最もダウンロードされている女性向けヘルスケアアプリ Flo Health にて、グロース、収益化、ライフサイクルマーケティングに携わっていました。また、Growth Mentorを務めたほか、CoinStatsやSoloLearnでシニアクラスのグロースおよびプロダクトマーケティング職を歴任しています。アプリグロース関連のカンファレンスにもたびたび登壇しており、ユーザー成長をどのように売上につなげるかについて、実践的な知見を発信しています。

収益化最適化を支える「4つのレイヤー」

バヘ氏はまず、Tangentがクライアントと伴走する際の基本プロセスを紹介。

「ペイウォール」「プレースメント(配置)」「価格設定」「プロモーション」の4つのレイヤーに分けて現状を監査し、それぞれに対する実験ロードマップを設計していく流れです。

ボタンの色やレイアウトを変えるだけの単発テストではなく、4つのレイヤーを掛け合わせて検証することが最大の成果を生むといいます。実際に顧客企業では、3カ月で平均20%以上のARPU(ユーザー1人あたりの平均収益)向上を実現してきたそうです。

ペイウォール設計とアップセル配置

コンバージョンを高めるために、ペイウォールレイヤーで推奨されたのが次の3点。

1つ目は年間プランへのデフォルト誘導。キャッシュフローを前倒しで確保でき、広告費の原資になるため、有料広告を積極投下するアプリほど恩恵が大きい施策です。

RAGA Tokyo_Tangentスライド

▲RAGA Tokyo_Tangentスライド01

2つ目はマルチステート(複数画面)ペイウォールの活用。いきなり価格を提示するのではなく、複数の画面で価値を丁寧に伝え、「無料トライアルの解約忘れで課金されるのでは」というユーザーの不安を先回りして解消する設計が効果的だといいます。「トライアル終了2日前にプッシュ通知を送ります」と明示するだけで、安心感が生まれCVRが上がるとのこと。

RAGA Tokyo_Tangentスライド02

▲RAGA Tokyo_Tangentスライド02

3つ目はソーシャルプルーフ(社会的証明)。ユーザーレビューやメディア掲載実績を積極的に配置することで、機能訴求以上にコンバージョンへ貢献する例が数多く見られるといいます。

配置レイヤーで「過小評価されている機会」として強調されたのが、既存有料ユーザーへのアップセルです。週額プラン利用者に年間プランへの切り替えを促したり、年間プラン利用者にファミリープランを提案したりすることで、新規獲得に頼らず既存課金ユーザーから追加収益を生み出せます。

価格とプロモーションの掛け合わせで効く

価格設定レイヤーでは、ダイナミックプライシング(無料トライアルの有無で価格を変える手法)や、1ドル程度を前払いさせる有料トライアルが紹介されました。少額でも支払い意思を示したユーザーは、トライアル後の課金転換率が大きく上がるといいます。

RAGA Tokyo_Tangentスライド03

▲RAGA Tokyo_Tangentスライド03

印象的だったのは、レイヤーを組み合わせた実験事例です。ペイウォールのデザイン刷新とダイナミックプライシングを同時に導入したケースでは、CVRが20%以上、ARPU(14日時点)が14%向上。

プロモーションレイヤーの離脱ユーザー向けWin-backオファーでは、割引単体ではなく無料トライアルも重ねることで参入障壁をさらに下げ、プレミアム体験を経て継続につなげる導線を設計したといいます。

「単一施策の改善ではなく、レイヤーを横断する組み合わせの妙が、収益を大きく動かす」というバヘ氏の言葉は、マネタイズ設計の解像度を確実に引き上げるものでした。

セッション3|Notionのモバイル向けプロダクト提供を進化させる中で得た学び(Notion)

続いて登壇したのは、NotionのiOSソフトウェアエンジニア、ジョセフ・バーグマン氏。Notionはモバイル側のサブスクリプション提供をこの2年で大きく進化させ、iOS単体の1プランからiOS・Android両対応、さらにAIプランの展開へと拡張してきました。

本セッションでは、価格改定・プラン設計・アプリ間共有という3つの局面で下された、その意思決定の舞台裏が共有されました。

登壇者プロフィール

Joseph Bergman|ジョセフ・バーグマン氏(Notion iOSソフトウェアエンジニア)

Notionのソフトウェアエンジニアとして、モバイルネイティブかつエージェントファーストな体験の構築に取り組んでいる。直近では、iOSおよびAndroid向けに刷新されたNotion AI体験のリリースに貢献。現在は、モバイルにおけるAI体験をエンドツーエンドで改善することに注力しており、パフォーマンスや信頼性からプロダクトの磨き込みまで幅広く担当している。以前はNotionのモバイルアプリにおけるアプリ内課金の改善にも携わった。主にSwiftUIとThe Composable Architectureを用いて開発している。

既存ユーザーへの敬意を貫く価格改定

『Notion』はブランドリニューアルに伴い、旧プラン「Personal Pro」を「Plus」へと刷新し、価格を月額$11.99/年額$119.99に引き上げました。ただし、長年支えてくれた既存ユーザーへの感謝として、旧料金を維持する方針を選択したといいます。

検討段階では、旧プランを販売停止にし、新プランを別途追加する案もありましたが、価格改定の反映には24時間のタイムラグがあり、その間ユーザーが新旧プランを混在して見るリスクがありました。

生涯続く運用負荷か、24時間の痛みかを天秤にかけ、採用したのがAppleの「Preserve Pricing」機能です。App Store Connect上で設定するだけで、コード変更なしに新旧価格の並行運用を実現。新価格への同意取得もApple側が代行してくれるため、「価格変更はAppleに任せるのが得策」とジョセフ氏は振り返ります。

「Notionのモバイル向けプロダクト提供を進化させる中で得た学び(Notion)」登壇者

▲ジョセフ・バーグマン氏(Notion iOSソフトウェアエンジニア)

「単一サブスクグループで設計する」という判断基準

サブスクリプション設計ではプランを分割しがちですが、ジョセフ氏は「ほとんどのアプリは単一サブスクリプショングループで十分」と言います。

実際、『Notion』における設計について、AIに相談すると「標準的には別グループで設計すべき」と返ってきました。しかし『Notion』には、メンバー単位課金不可・プロバイダー混在不可・請求日統一といった制約があり、単一グループ内で設計せざるを得なかったのです。

採用したのは、単一グループ内に「Notion AI」「Plus with Notion AI」を並列配置する設計。ここで判断の軸となるのがアップグレード/ダウングレード/クロスグレードの動線です。Appleは3つの遷移をレベル設計に応じて自動処理します。アップグレードは日割り返金で即時切替、ダウングレードは現プラン満了まで維持、クロスグレードは同期間なら即時、異期間なら次周期から。

これらが自社のプロダクト体験と噛み合うかが、単一グループで済むかの判断基準になるといいます。

副次効果もありました。Appleは継続1年超で開発者取り分を70%→85%に引き上げる仕組みがあり、同一グループ内のプラン変更では継続期間が引き継がれます。

後にAIアドオンを廃止しPlus/Businessへ再編した際も、ユーザーの継続年数がリセットされず高い分配率を維持できました。ジョセフ氏は「見込んでいなかった利益だが、類似のサブスク設計を検討する際は意識する価値がある」と述べています。

「Notionのモバイル向けプロダクト提供を進化させる中で得た学び(Notion)」登壇者

▲ジョセフ・バーグマン氏(Notion iOSソフトウェアエンジニア)

複数アプリ間でのサブスクリプション共有

ベータ開発中のiOS 26専用AIアプリ『Notion AI』では、既存アプリとのサブスクリプション共有が必要でした。Appleの公式ドキュメントには「App Bundleを使えば」との記述があり共有が自動化されるように読めますが、実際はマーケティング用途に留まり、共有には独自のバックエンド実装が必要です。

NotionはRevenueCatに問い合わせ、複数アプリ間でサブスクリプションを正しく共有する方法について助言を受けたといいます。同ツールで「エンタイトルメント」に権限を紐づけることで、クライアント側のコード変更なしに共有を実現しました。公式ドキュメントの表現を鵜呑みにせず、実装の裏側まで確認する姿勢が求められる事例といえます。

「Notionのモバイル向けプロダクト提供を進化させる中で得た学び(Notion)」登壇者

▲ジョセフ・バーグマン氏(Notion iOSソフトウェアエンジニア)

既存ユーザーへの敬意、シンプルな設計思想、公式情報への健全な疑い——ジョセフ氏の語るNotionの2年間の軌跡は、サブスクリプション型アプリのマネタイズに向き合う実務者にとって、自社の判断軸を見直すヒントに満ちていました。

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