• アプリブ BizJournal
  • なぜ今、学校市場か――Mantra株式会社が明かすLangakuの3軸設計と教育参入の論理

集英社、小学館、KADOKAWA、スクウェア・エニックスHDという大手出版社4社を株主に持つMantra株式会社が、マンガ×英語多読アプリ『Langaku(ランガク)』の教育機関向け正式導入を発表しました。都立高校で272名に行った150日間の実証実験では、90.1%の生徒が英語との接触時間の増加を実感したといいます。

翻訳SaaS「Mantra Engine」を持ちながらなぜ英語学習アプリを開発し、なぜ今、学校市場へ踏み出すのか。また、BtoC・教育BtoBtoC・翻訳SaaSという3つの収益軸をどの順番でどう育てているのか。
代表取締役の石渡祥之佑氏と『Langaku』事業責任者の山中武氏に話を聞きました。

このページはアフィリエイト広告を利用しています。

今回お話を伺った方々

Mantra株式会社 代表取締役/共同創業者
石渡 祥之佑氏

東京大学情報理工学系研究科修了。博士(情報理工学)。日本学術振興会特別研究員(DC2)、東京大学生産技術研究所特任研究員等を経て、2020年 Mantra株式会社を設立。

Mantra株式会社『Langaku』事業責任者
山中 武氏

編集者、マーケティングプランナーを経て、2019年よりMantraに合流。現在はマンガ×英語学習アプリ『Langaku』の事業責任者とプロダクトマネージャーを兼務。継続的なユーザーヒアリングなどを通じて、プロダクト開発の方針決定を行う他、実務としてUX・UIデザインも担当。

『Langaku』とは?
人気マンガで「英語多読」を実践できる学習アプリ。コマをタップするだけの日英切替や、レベルに応じた英語割合の調整、音声読み上げ、AIによる詳しい解説機能を搭載している。マンガを楽しむ延長で自然に英語に慣れることができ、学習の心理的ハードルを下げて「英語脳」を育てることができる。

マンガ翻訳AIから『Langaku』へ 仮説起点が生んだ新事業と技術転用

Langaku画面例

出典:PR TIMES

コマや吹き出しのレイアウトを解析し、原版の構造を保ったまま訳文を自動で流し込む――Mantra株式会社が誇る、マンガに特化したAI翻訳技術「Mantra Engine」です。この技術基盤は、出版社や翻訳事業者への導入実績を通じ、長年かけて磨かれてきたもの。このSaaSを持つ同社が英語多読アプリという別軸の事業を立ち上げたきっかけは何だったのでしょうか。

石渡氏

『Langaku』の出発点は、マンガで英語を学んだら学習がもっと楽しくなるのではないか、というシンプルな仮説です

そのスタートは2020年。集英社が運営するスタートアップアクセラレータープログラム「マンガテック」にこのアイディアを応募し、採択されたことが開発を本格化させる契機となったと石渡氏は話します。

ここで注目したいのは、立ち上げの論理です。
石渡氏によると、『Langaku』は「Mantra Engineで培った技術資産をどう転用するか」という発想からではなく、「マンガが持つ可能性をどこまで広げられるか」という問いから生まれたとのこと。つまり、技術起点ではなく仮説起点で立ち上げた事業であるため、「翻訳SaaSの資産を別事業に転用するべきか」という葛藤自体がほとんどなかったというのです。

結果的に、「コマをタップして英語と日本語を切り替える機能」「読みやすさに応じてフォントを差し替える機能」のような「Mantra Engine」で蓄積したマンガ特化の画像処理技術が、『Langaku』のUXを直接支える要素技術となりました。

272名、150日の実証設計で「続く」を証明するまでのプロセス

教育機関向けの正式導入を発表するにあたって、Mantra株式会社が背景として持っていたのが都立高校での実証実験です。対象は2年生全員272名、期間は150日間。この実証で証明したものを紐解いてみましょう。

山中氏

今回の実証で確認したかったのは、学校という環境下、先生主導のもとで『Langaku』が提供されたときに、英語学習に対する意識や行動がどのように変化するのかという点でした

個人が自発的に使うBtoCアプリとして効果があることは、すでに証明されていました。そのため、「組織的に導入された場合でも同様の効果が生まれるか」「BtoCで成立しているものが学校という環境でも続くかどうか」ということを検証したかったのだと、山中氏は振り返ります。

Langaku調査データ_英語をもっと勉強したい
Langaku調査データ_英語に苦手意識がある

出典:PR TIMES

加を実感し、英語をもっと勉強したいという学習意欲は利用前後で27.6ポイント向上。英語に苦手意識がある生徒では苦手意識が18.7ポイント低下したのです。

これらの数字から、『Langaku』が単なる楽しく読める英語教材にとどまらず、英語に向き合う心理的なハードルを下げ、学習行動そのものを増やす可能性があることを強く感じたという山中氏。続けて、「数字の外側にある行動変容」にも言及しました。

「『英語を見たときに嫌な気持ちにならなくなった』『模試やテストで英語の長文が読めること自体が楽しくなった』という声が生徒から出てきたのは印象的でした。また、覚えた英語表現を日常会話で使ったり、マンガの英語セリフの意味をクイズ形式でやりとりしている様子が見られたりしたのは思わぬ変化でしたね」(山中氏)

ほかにも、2026年4月に放送された「WBS(ワールドビジネスサテライト)」(テレビ東京)の取材でも、偏差値が10上がったという生徒の声が紹介されるなど、「学校というコミュニティの中で、英語に触れる機会が授業外にも自然に広がっていく点は、当初の想定を超えた成果だった」と、驚きの声を明かしました。

なぜ今、学校に入ると決めたか――WBS放送後の反響とGIGAスクール構想第2期

Langakuワークショップ

▲大成高等学校(東京都三鷹市)での『Langaku』を活用した英語とDXへの関心を高めるワークショップの様子
出典:PR TIMES

山中氏

今回のタイミングで教育機関向けの正式導入を発表した大きな理由は、都立高校での実証実験を通じて、教育現場での活用可能性を具体的なデータと事例の両面から確認できたことです

参入タイミングの判断には、実証データの蓄積以外にも複数の要因が重なったといいます。ひとつは、都立高校での導入事例が進んでいたタイミングで「WBS」の取材を受けたこと。放送後には教育機関を含む多方面からの問い合わせが増加し、学校現場における英語学習への課題感や、『Langaku』のような教材への関心の高まりも見えてきました

さらに、外部環境の読みも重要な判断材料となりました。GIGAスクール構想*¹ によって1人1台端末の活用が定着しつつある中、教育の現場は「端末をどう学習成果につなげるか」というフェーズに入りつつあるからです。

「特にGIGAスクール構想第2期を見据えると、単にICT環境を整備するだけでなく、生徒が主体的に学びたくなるコンテンツや、日常的に使い続けられるEdTechサービスの重要性がより高まっていくのでは」と山中氏は見ており、こうした環境変化も教育機関向け展開を後押しした要因のひとつと捉えています。

また、学生向けワークショップを提供する株式会社BYDとの探究学習プログラム*² も、同じ時期に検討を進めていた取り組みです。『Langaku』を英語学習アプリとしてだけでなく、マンガやエンタメを入口に学びへの興味を広げる教育サービスとして展開していく可能性が、この連携を通じて浮かび上がってきました。

*¹ 1人1台端末や高速大容量の通信ネットワーク等の学校ICT環境を整備・活用することによって、教育の質を向上させ、全ての子供たちの可能性を引き出す「個別最適な学び」と「協働的な学び」を実現することを目的とした構想
参考:GIGAスクール構想について|文部科学省
マンガで英語多読を楽しめる『Langaku』、学校教育向け探究学習プログラムを始動(2026年5月8日)|PR TIMES

翻訳と教育が互いを加速させる Mantra株式会社が描く2ドメインの行き先

最後に、BtoCアプリと教育機関向けBtoBtoC、そしてMantra Engine(翻訳SaaS)について、今後の成長をどのように描いているかを尋ねました。

Mantra株式会社では、BtoC・教育BtoBtoC・翻訳SaaSという3つの収益軸を、大きく2つのドメインとして整理しています。ひとつは「Mantra Engine」およびそれを基盤としたエンタメ翻訳サービスを扱う「エンタメから言語の壁をなくすことを目指す翻訳ドメイン」。
もうひとつは『Langaku』のBtoCアプリと教育機関向けBtoBtoC展開を扱う「エンタメで言語の壁をなくすことを目指す教育ドメイン」です。

石渡氏

この2ドメインを独立して別々に伸ばすというよりも、相互に接続されたエコシステムとして成長させていきたいと考えています

その動きはすでに始まっています。まだ英訳されていないマンガをMantra株式会社の翻訳技術や翻訳サービスで多言語化し、その翻訳済み作品を『Langaku』上で学習コンテンツとして活用するという流れです。翻訳ドメインで広がるコンテンツが教育ドメインの学習素材を豊かにし、教育ドメインで蓄積されるユーザーの反応が翻訳品質の向上に寄与する循環設計です。

「将来的にどの軸が事業の中心になるのか」という問いに対し、石渡氏は「いずれか一方に収れんさせる構想は持っていません。両事業は中心やサブの関係ではなく、相互に補完しあい、互いの成長を加速させる関係にあると考えています」と話します。

複数の収益軸を持つスタートアップがよく直面する「どこに集中するか」というプレッシャーに対して、Mantra株式会社が提示するのは「互いを補完できるドメイン設計があれば、一本化する必要はない」という考え方です。

2つのドメインが独立した事業としてではなく、エコシステムの構成要素として機能するとき、分散は弱点ではなく競争優位の源泉になります。
翻訳と教育。一見異なるこの2つの軸が、マンガという共通の素材と、言語の壁をなくすという共通の目的によって結ばれているからこそ、「どちらを選ぶか」ではなく「どう接続するか」という問いが生まれる。その問いが2つのドメインを動かし続けるエンジンになっています。

TAG