コネヒト株式会社は、ママ向けコミュニティアプリ『ママリ』で一部ユーザーを対象に新機能「AI概要まとめ」をテスト提供し、検証を実施しました。
現在検証は終了し、機能はクローズしたものの、この取り組みには、UGCを持つプラットフォームがAIを活用するうえで直面する課題への向き合い方が凝縮されています。
なぜ検証を行ったのか、検証結果からどのような知見が得られたのか、AI活用の可能性などをコネヒト株式会社 CTO 野澤 哲照氏に伺いました。
数百万件の投稿を要約――『ママリ』が挑むUGCコミュニティでのAI活用
今回お話を伺った方
▼『ママリ』とは
「あなたの今と未来をともに」をブランドステートメントに掲げる、妊活・妊娠・出産・子育てに寄り添うコミュニティブランド。アプリ、情報サイト、各種SNSを展開。アプリではユーザー同士が質問・回答を投稿する「しつもん」や、共通点を持つ人が集う「サークル」などの機能を搭載。ママの3人に1人*が利用し、月間約110万件の投稿、月間400万回の検索が行われている(2025年12月時点)。
10年間分の知の宝庫が抱えた「届かない問題」
『ママリ』では、10年以上にわたってママ同士が質問や回答、アドバイスを寄せ合ってきました。その結果、他ユーザーに役立つ「経験者の声」が数多く蓄積されています。
一方で、膨大なQ&Aが蓄積されるにつれユーザーが自分に最適な情報へとたどり着きにくくなるという、「構造的な課題」も生じていました。
「特に、初めて『ママリ』を利用するユーザーでこの問題が顕著になっており、『検索→Q&A閲覧』の体験自体が継続利用のハードルになっていたのです」(野澤氏)
同じ悩みを過去に抱えた先輩ママの声はQ&Aに存在しているはずなのに、新しいユーザーになかなか届かない。そこで、UGCコミュニティが構造的に抱える「データの蓄積」と「活用」の非対称性を解消するために「AI概要まとめ」の導入検討を始めました。
検索機能でAI要約を検証した理由
画像提供:コネヒト株式会社
検証の対象となった「AI概要まとめ」は、『ママリ』に蓄積された数百万件のQ&Aデータを、LLM(大規模言語モデル)によって要約・提示する機能です。
野澤氏は、今回の取り組みの主目的を単なる機能開発ではなく「有料でも利用したいと思える価値があるかの検証」であると説明。この検証を高精度で行うために、利用頻度が高い検索機能を対象に選定したと語りました。
検証でAIを活用するにあたっては、チャット型AIやレコメンド機能ではなく、「AIによる要約」を選択。その主な理由として、野澤氏は以下の3点を挙げます。
①ユーザーが慣れ親しんだ操作性がある
検証の精度を高めるには、多くのユーザーが使い慣れた機能やUIであることが欠かせません。
ユーザーが新たに使い方を覚える必要が少なければ、それだけ検証に必要なデータも集まりやすくなります。
AIを使った要約は、Googleの「AIによる概要」などを通じて多くのユーザーがすでに見慣れたものとなっており、検証に適していました。
②ハルシネーションリスクを抑えやすい
生成AIを使う以上、ハルシネーションへの対策も欠かせません。
「AI概要まとめ」は、アプリ内の投稿から検索クエリに対する回答を生成します。出典元となるQ&Aを併記できるため、ハルシネーションリスクを抑える設計と相性がよかったのです。
③ユーザー行動を変えずに検証できる
新機能をリリースしたことでユーザー行動が大きく変わると、結果の解釈が複雑になってしまいます。
『ママリ』ユーザーの大多数が日常的に行うのは、「検索からのQ&A閲覧」です。本検証は、この行動と地続きであり、これまでのユーザー行動を大きく変えずに価値検証ができるメリットもありました。
一次情報である「当事者の声」を活かす
AI機能を搭載するにあたって、汎用AIの情報ではなく『ママリ』のQ&Aデータを基盤に設計したのはなぜでしょうか。
背景には、『ママリ』に蓄積された独自のデータを使えば、ママたちの悩みに最も寄り添った回答を生み出せるという確信がありました。
妊娠・出産・育児など、人生の中でも特にセンシティブで個別性の高い悩みに対しては、
●同じ時期・同じ地域で実際に経験した先輩ママのリアルなQ&A
●数値や正論ではなく、共感や「うちも同じだったよ」という温度感
●「〇〇市の〇〇病院では……」のような、汎用AIでは到達しづらい固有名詞レベルの情報
といった、『ママリ』にしかない一次情報こそが価値の源泉になっています。
汎用AIは網羅性と即時性に優れる一方で、当事者性のある経験を一次ソースとして扱うのは現段階では難しい状況です。
そこでコネヒト株式会社は、『ママリ』のUGCをコンテキストとしてLLMに与えるアプローチを選択。これは、「人間の温かみのある共感」という『ママリ』の独自性と、「即時に整理された回答が得られる」という生成AIの良さを掛け合わせる発想でした。
さらに、生成された要約に対して必ず出典となるQ&Aを提示でき、透明性の担保にもつなげることができたのです。
設計・運用・計測の三段構えで信頼性を担保
生成AIを活用するうえで避けて通れないのが、ハルシネーションへの対策です。
特に『ママリ』では、子育てに関する悩みが多く共有されています。中には健康や医療に関わる質問もあり、誤った情報がユーザーに与える影響は小さくありません。
これに対しコネヒト株式会社では、「設計」「運用」「計測」の三段構えで信頼性を担保しているといいます。
①設計:出典併記&対象範囲の限定
「AI概要まとめ」では、AIが回答生成に用いた『ママリ』内のQ&Aを「出典」として併記し、ユーザーが一次情報までたどれる構造に設計しました。
また、表示対象をすべての検索キーワードに広げるのではなく、事前に定めた特定のキーワードに限定。AIが要約する範囲を絞ることで、品質を管理しやすくしています。
②運用:人間による事前チェック
対象キーワードを限定したことで、生成結果を人間が事前に確認できる規模に抑えることができました。これにより、ハルシネーションや不適切な表現がユーザーに表示されるリスクを減らしています。
③計測:定量・定性の両面から評価
「もっと見る」ボタンのタップや出典リンクへの遷移数、「いいね」ボタンによるフィードバックなどを、あらかじめ計測対象に組み込みました。
これにより、ユーザーがAI要約をどのように受け止め、次の行動につながったのかを、定量・定性の両面から評価できるようにしました。
「いきなり完璧に作る」のではなく、「人間が責任を持てる範囲で展開し、計測しながら学ぶ」というスタンスで臨んだのが今回の検証だと、野澤氏は語ります。
期待とのギャップから見えた新たな問い
検証結果について野澤氏は、「正直なところ、当初期待していたほどの結果には至らなかった」と振り返ります。
今回の主目的は、「AI概要まとめ」が有料機能として成立するほどの価値を持つのかを見極めることでした。しかし、KPIとして設定していた課金導線への遷移は、通常の検索経由でのベースラインと比較して、期待していた水準には届きませんでした。
一方で、検証を通じて見えてきたこともあります。
「もっと見る」ボタンのタップは一定数発生していたものの、その後の出典リンクへの遷移や課金導線のクリックには十分につながっていませんでした。
つまり、AIによる要約はユーザーの関心を引きましたが、そこから次の行動へ進む理由や導線には、まだ改善の余地があったということです。
「要約として返すだけでは十分でないことと、AIとコミュニティの接続の仕方そのものを設計し直す必要があることがわかってきました」と野澤氏は続けます。
期待を下回る結果ではあったものの、検証によって何が足りないかという具体的な問いが見えてきたことは、次の一手を考えるうえで大きな前進といえます。
これらを踏まえ、『ママリ』では現在「AI概要まとめ」の提供を終了し、機能の位置づけや体験設計を再検討しているそうです。
今後のAI活用の可能性――橋渡し役と増幅装置
『ママリ』では、蓄積された大量のQ&Aデータ(非構造化データ)を用いて、それぞれの家族に寄り添った情報提供を目指しています。
同社は、今後のAI活用の可能性として以下2つの役割を期待しているといいます。
①橋渡し役としてのAI
1つは、ユーザーと情報、そしてユーザー同士をつなぐ役割です。
悩みを抱えたユーザーに、過去に同じような悩みを経験した先輩ママの声を届ける。検索やレコメンデーション、AIとの対話を通じて、これまで埋もれていた当事者の声と出合いやすくする。それによって、「自分と同じ経験をした人がいるんだ」「こんなことを質問していいんだ」という体験を創出することを目指しています。
②増幅装置としてのAI
もう1つは、ユーザーが自身の経験を活かして回答できる質問に出合いやすくすることです。自分が答えられそうな質問が届けば回答のハードルは下がり、結果として回答が増え、コミュニティの中で経験や知見が循環しやすくなります。
また、これまで数回しか見られていなかったQ&Aであっても、必要としているユーザーに適切なタイミングで届けられれば、その価値は再び引き出されます。
AIを活用することで、蓄積されたQ&Aを眠らせたままにせず、必要な人に届けられるようになると考えています。
『ママリ』が10年以上かけて育んできたUGCは、それ自体が膨大な集合知です。AIを人間の代替にするのではなく、集合知との「出合い方」、必要な人への「届け方」を再設計するために活用する。そうすることで、プラットフォームとしての価値をさらに高められるのではないかと、野澤氏は述べます。
自社データの独自性を起点に、AI機能の価値検証に取り組むコネヒト株式会社の姿勢は、蓄積されたUGCをどう活かすかという問いに対する、ひとつの具体的な答えを示しています。
10年分の集合知を持つプラットフォームが、AIを通じて何を実現できるのか。今回の検証はその問いに向き合う最初の一歩であり、『ママリ』の挑戦はまだ続いています。
【お知らせ】
コネヒト株式会社では現在、機械学習エンジニアやシニアプロダクトマネージャー(PdM)を募集しています。
家族の課題をテクノロジーとデータで解決する事業に関心のある方は、以下の採用情報をご確認ください。
機械学習エンジニア(CTO直下)
https://herp.careers/v1/connehito/q5ZCtEPtUde1
シニアプロダクトマネージャー
https://herp.careers/v1/connehito/iTP_jm8n1Dga
Connehito, inc.