美容家電のなかでも、美顔器は「続けること」が効果の前提となる製品です。それだけに、購入後に使わなくなるユーザーをいかに減らすかは、メーカーにとって長年の課題でした。
その課題に、ひとつの答えを示したアプリがあります。
パナソニック株式会社が展開する美顔器専用アプリ『with Panasonic Beauty』は、ユーザーを対象にした調査で継続利用意向94.2%を記録。この数値の背景には、AI美容テクノロジーを手がけるパーフェクト株式会社のAI肌診断技術がありました。どのような設計思想が、この結果を生み出したのでしょうか。両社の担当者に話を伺いました。
美顔器の「続かない」をどう支えるか――継続利用意向94.2%の背景にあるパナソニック×パーフェクト社の設計思想
お話を伺った方々
▼『with Panasonic Beauty』とは?
パナソニック株式会社が提供する美顔器専用のスマートフォンアプリ。AI肌診断機能により肌の7項目をスコア化し、独自定義した7種類の肌タイプをもとに最適な美顔器モードを自動提案。使い方のガイドやカレンダー記録など複数の機能を備え、パーフェクト株式会社のAI技術を採用している。
美顔器が「続かない」のは業界共通の課題だった
▲パーフェクト株式会社が提供する「AI肌診断」
出典:PR TIMES
パナソニック株式会社(以下、パナソニック社)がビューティ・パーソナルケア領域で向き合ってきた課題のひとつが、美顔器の継続使用です。高機能な製品であっても、使い方がわからない、効果を実感できないといった理由で、使わなくなってしまうユーザーが一定数存在していました。
この問題は、美顔器カテゴリに限らず、美容家電や美容ブランド全体に共通する構造的な課題でもあります。
そうした業界全体の状況を、多様なクライアントとの連携を通じて見続けてきたのがパーフェクト株式会社(以下、パーフェクト社)です。AI美容テクノロジーを手がける同社には、家電メーカーから美容ブランド、サプリメーカーまで多様な業態から相談が集まります。
「ユーザーが自分の肌の状態を客観的にとらえ、どの商品をどう使うべきかを自分で判断しきれていないところにコミュニケーション面での共通課題があると考えています。それに対し、サービス提供側が最適な使い方を的確に伝えられれば、ユーザーが自信を持って使い続けられるだろうという期待があります」と、パーフェクト社の磯崎氏は話します。
美顔器に限らず、美容ブランドが抱える根本的な問題は「個々に合った使い方の見つけにくさ」と「効果実感までの距離」です。自分に合った使い方がわからないまま続けるか、そのまま使わなくなるか――この「途中離脱」の問題は、業界共通の壁となっています。
誰が目的を問い、誰がユーザーと向き合うのか
こうした課題を背景に、AI機能をアプリに組み込む事例が広がっていますが、導入を成功させるには、ベンダーとブランドがそれぞれ異なる問いを持つ必要があります。
パーフェクト社とパナソニック社の連携は、その役割分担を具体的に示しています。
ベンダーが担うこと:目的を問い直す
ブランド側のプロジェクト担当者は「やりたいこと」を抱えてプロジェクトに臨みますが、パーフェクト社はそれをそのまま実装はせず、ユーザビリティの観点から軌道修正を依頼することも多いのだとか。この対話のプロセス自体が、BtoB連携の設計上の重要な工程です。
磯崎氏はさらに、技術を前面に出して「すごい」「おもしろい」という反応を狙うと、一時的な効果はあっても「一度体験したらおしまい」になりがちだと解説。その反面、ユーザーのショッピングジャーニーにさりげなく組み込み、診断からレコメンデーション・商品選択・購入までをストレスなく使えるUXは、「便利」「助かる」「楽」という反応を引き出し、繰り返し使われる体験になると続けました。
「EC、アプリ、店頭等、どのような形態であっても、目的に合わせて両方を同時に使い分け、初動とその後のエンゲージメントを最大化するのが理想的です。使い勝手とエンタメ性のバランスが重要なカギになります」(同氏)
ブランドが担うこと:技術とユーザーの橋渡し
目的が定まったとしても、ブランドの仕事はそこでは終わりません。AIが届けた技術を、ユーザーが使える体験に変えるのはブランド側の設計です。
「私たちが提供するAIは物差しのようなもので、『80点』というスコアの意味は各ブランドや商品によって異なるべきです。技術パートナーである私たちはその領域には入り込まず、各ブランドの既存の美容理念に組み込んでいただけるよう、検証をサポートしています」(パーフェクト社 磯崎氏)
パーフェクト社がAIで肌スコアを算出し、パナソニック社がそのスコアを「ごきげん肌」などの言葉と商品レコメンドに変換、アプリUXがユーザーを迷わせない画面設計で届ける。それぞれの役割が明確だったことも、プロジェクトをスムーズに動かした要因のひとつです。
AI肌診断が解くべき問いは、肌の状態だけではなかった
▲『with Panasonic Beauty』画面例
出典:PR TIMES
本プロジェクトが次に向き合ったのが、分析アルゴリズムの設計です。
クライアントであるパナソニック社は、パーフェクト社のAI肌診断技術を活用し、肌の7項目を計測・スコア化。そのスコアをもとに「ごきげん肌」「ほめられ肌」「ハリ美肌」といった7つの肌タイプを独自に定義し、タイプに応じた商品やモードをおすすめする仕組みを作りました。
しかし、この分類に至るまでの道のりは容易なものではなかったといいます。多数のモニターから肌スコアのデータを収集し、季節変動も考慮しながら複数回の検証を経てアルゴリズムを構築・調整するという、根気のいる作業が続きました。
特に難しかった点として、パナソニック社の辻氏は複数の美顔器への対応を挙げます。
オーバーケアを防ぐため、肌タイプと使用履歴を組み合わせたアルゴリズムを構築し、今日使えるおすすめのモードを提案できるようにしました。
また、複数の美顔器を持っていても対応できるよう、登録されたすべての機器の使用履歴をふまえるようにしていますが、機器ごとに条件が異なるため、実装には苦労しました。
美顔器はそれぞれ、推奨される使用頻度や使い始めの条件が異なります。「どのモードを、どのくらいの頻度で使えばいいのかわからない」というユーザーの不安を解消するために、肌の状態だけでなく「今日はどのモードが使えるのか」という視点もアルゴリズムに実装。単なる肌分析にとどまらず、使用行動のデータと組み合わせることで、より実用的な提案が可能になっています。
「続けたい」を引き出す、きめ細やかな体験設計
肌状態の数値化と肌タイプの言語化が整ったところで、そのデータをユーザーが「続けたい」と思える体験にどうつなげるかという、新たな問いが生まれます。
『with Panasonic Beauty』の開発で中心に置かれたのは、アプリが「使い方の案内係」にとどまらず「続けることを支援する存在」になれるかどうかです。
「だからこそ、私たちが推奨する正しい使い方で効果を実感していただき、長く使い続けてほしい。そのための『相棒的な存在』としてアプリが必要だと考えました」と、辻氏は話します。
カスタマージャーニーを検討するなかで浮かび上がったのは、「わかっていてもできない」というユーザーの現実でした。そこで開発チームが目指したのは、正しい使い方を一方的に求めるのではなく、できないときも含めて寄り添い、結果として継続できる体験です。
カレンダー記録機能はその設計のひとつで、日々のケアを積み重ねている実感と「この使い方で大丈夫」という安心感を持ちやすくする仕組みとして機能します。ホームケアだからこそ、継続していること自体を可視化することが重要という判断でした。
出典:PR TIMES
美肌フィルターの採用にも独自の考え方があります。エイジングケアを必要とする方の中には、素肌の状態を見ることに心理的な抵抗感を持つ場合も少なくありません。しかし、肌分析の機能を活かすには、ユーザー自身が肌を撮影する必要があります。一方で、分析結果の画面に素肌の状態がそのまま表示されることに抵抗を感じる人もいます。
そこで、分析結果の写真に美肌フィルターを用いて素肌と向き合う負担をやわらげ、肌分析を続けやすい体験にしました。
診断系UXに共通する示唆がここにあります。AIの精度を高めることと、ユーザーが結果を受け入れやすい形で体験させることは、別の設計課題です。肌分析に限らず、「見たくない現実」を可視化する体験では、精度とともに「どうすれば受け入れてもらえるか」の設計が必要になります。
こうした設計の積み重ねを経て、2026年1月にパナソニック株式会社が実施したユーザー調査(アプリ利用者261人を対象にアプリ内で実施、2026年1月8〜21日)では、継続利用意向94.2%(「使い続けたい」69.3%、「やや使い続けたい」24.9%の合計)、AI肌分析利用率86.0%という結果が出ました。
※回答者属性(パナソニック提供調査資料より)
【性別】女性 約90%、男性 約10% 【年代】10~60代
この数値は実際の継続率や導入前後の改善率を示すものではありませんが、アプリを利用したユーザーの受容性を示すデータとして注目に値します。
「させたい」が口癖のチームはなぜ失敗するか
アプリ開発には、技術力も予算も欠かせません。ただ、パーフェクト社が数多くのBtoB案件で見てきた「うまくいくプロジェクト」と「そうでないプロジェクト」の差は、もっとシンプルなところにありました。
明らかな分かれ目があるんです。それは『ユーザー体験先行型』であるかどうかです。目新しい技術や、ブランディングが先行してしまうとユーザビリティを損ねる可能性が高くなります。
そして、ユーザー体験が後退している状態を見分けるサインは、開発チームの言葉遣いに表れるといいます。
「ユーザーに『~させたい』『~してもらいたい』という表現が頻発する場合は注意信号です。作る側・提供する側に立つと、意外なほどにユーザー視点が見えなくなることが多いのです」(同氏)
ブランド愛の強さゆえに伝えたいことを盛り込むあまり、ユーザーの操作ステップや読む量を不用意に増やしてしまうケースもよくあるそうで、「一度面倒だと思われると離脱が激増し、リピートが激減します。その結果、エンゲージメントが少なくなり、目的を果たせなくなります」と続けます。
「まずは質の高いユーザー体験を担保したうえで、こだわりやブランド愛をどのように載せられるか。この設計思想で向き合えているかどうかが、プロジェクトの行方を決めます」(同氏)
ユーザーのための設計が、使い続けたい理由になる
『with Panasonic Beauty』の事例が示しているのは、AI肌診断の価値が「肌状態を数値化すること」にとどまらないという点です。重要なのは、分析結果をブランド独自の意味に変換し、ユーザーが次に取るべき行動まで迷わず進める体験を設計すること。高い継続利用意向の背景には、肌分析・レコメンド・使用履歴・カレンダー記録・心理的配慮を一連の体験としてつないだ設計があります。ハードウェア連携アプリにおいてAIは、話題化のための機能ではなく、ユーザーが「あ、これいいな」と感じる瞬間を積み重ねながら、購入後の不安を減らし、継続利用を支える接点になり得ます。
「この体験は、ユーザーのために設計されているか」――その問いに立ち返れるかどうかが、長期的なエンゲージメントと事業成果を決定づけます。
PANASONIC ENTERTAINMENT & COMMUNICATION CO., LTD.
▼パーフェクト社のAI肌診断とは
7万枚以上の肌写真を学習したAIが、年齢・人種を問わず、シミ・しわ・毛穴などの肌状態を高精度に解析。化粧品ブランドや小売店、サロン、クリニックなど、世界中の幅広い業界で導入・活用されています。
AI肌診断:
https://www.perfectcorp.com/ja/business/products/ai-skin-diagnostic
パーフェクト社 磯崎氏
短期プロモーションで賑やかしとして使うのか、ユーザーのショッピングジャーニーに継続的に組み込んでCVRやLTVを高めるツールとして使うのかなど、目的によってUXの設計は大きく変わります。