投稿数や滞在時間を伸ばすことが重視されるSNS市場で、常識とは異なるアプローチをとるアプリがあります。
株式会社Tecrest(テクレスト)が運営する『am(アム)』は、「無料投稿は1日1回」「リアクションにアプリ内通貨(コイン)が必要」など、従来のSNSの常識をくつがえす日本産SNSアプリです。
『am』はリリース2ヵ月後に実装したAI「Echo」により、連続投稿率が19.3%から48.4%へと2.5倍に向上しました*。ルールをあえて敷いた設計と、投稿に寄り添うAI。この組み合わせはどのような考えから生まれたのでしょうか。
本記事では、同社の永田祐太郎氏と石田洋輔氏に『am』の設計思想や「Echo」の狙いなどを伺いました。
連続投稿率2.5倍!1日1回の無料投稿ルールとAIコメント機能「Echo」から読み解く『am』の設計思想
今回お話を伺った方々
▼『am(アム)』とは?
2025年12月26日にリリースされた日本産SNSアプリ。過剰な情報量や無責任な言動を抑制するため、無料投稿は1日1回で、リアクションにはアプリ内コインを消費する設計となっている。質の高い投稿に限定したタイムラインやコイン制度、AIレコメンドシステムなどが特徴。
既存SNSへの違和感――炎上と誤情報を生む構造
『am』の設計の背景には、永田氏が現在のSNSに対して抱いていた2つの課題意識があります。
①炎上・誹謗中傷時のユーザーの意識
複数の企業で事業に携わる永田氏は、他社でインフルエンサー施策を担当した際、発信者が炎上する場面を何度も見てきたといいます。それに心を痛める一方で、永田氏は炎上が生まれるメカニズムそのものに違和感がありました。
SNSは本来、自分の意見を発信するためのツールです。しかし実際は、意思のない投稿や拡散によって他者を傷つける場面も少なくありません。永田氏は、そうしたSNSの在り方に疑問を抱くようになりました。
②検索ツールとしての不信感
検索の際、若い世代の方の多くはGoogleなどの検索エンジンだけでなくSNSを使うことが一般化しています。しかし、SNSにはフェイクや誤情報に触れてしまうという懸念があります。
このようなSNSに対して永田氏は、信頼できる情報を得る場として機能しにくくなっていると感じていました。
見られている意識がユーザー行動を変える
炎上も誤情報も、発信・拡散のハードルの低さに起因していると永田氏は考えます。だとしたら、それらを生み出す構造を変えれば、問題は起こりにくくなるのではないか。このような思想をアプリ上で体現するために、『am』では「リアクションにはコインが必要」「無料投稿は1日1回のみ」というルールを敷くことにしました。
現実世界の他人の目を代替するコイン
投稿・反応にコインが必要――つまり、行動にわずかなコストを課すという発想は、有料化により投稿が減る結果、炎上も少なくなるという単純な理由のためではありません。
投稿にコインが必要になると、「あの人、コインを使ってまでこの投稿をリポストしたんだ」といった見られ方をするようになるため、自分の行動が周囲にどう映るかを結果的にユーザーは意識します。
「リアルの世界同様、自制をアプリの中でも働かせられるのではないか」、そのような考えからこの仕組みが導入されました。
質の高い発信を促すための投稿ルール
『am』の無料投稿は「1日1回」です。ただし、コインを使えば2回目以降も投稿でき、コインを無料で獲得できる機会もアプリ内に多く用意されています。つまり、課金をしなくても複数回の投稿は可能です。
実は、この「1日1回」というルールは後付けだったといいます。
永田氏が最初に関心を持っていたのは、ルールや周囲の目がある環境で、人は何を投稿し、どのような投稿に「いいね」を送るのかということでした。そのために重要だったのは、「1日1回しか無料で投稿できない」という認識をユーザーに持ってもらうことです。
「コインを使わせようとしている」とユーザーに受け取られるのは、意図するところではありません。そうならないために、「1日1回、本当に思っていることを投稿しよう」というコンセプトを打ち出せば、新しいユーザー行動が見えるのではないかと考えました。
『am』の設計は、無意識の投稿を制限する状態を人為的に作り出したとき、ユーザーはどのような動きをするかという、社会実験的な面も含んだものだったといえるでしょう。
ポジティブなリアクションの増加
資料提供:株式会社Tecrest
このコンセプトのもとでアプリを運用してみると、投稿内容やユーザーのリアクションに変化が見られるようになったといいます。
『am』は10代の利用が多く、学校での出来事や悩みなどを投稿するユーザーも少なくありません。ネガティブな内容で共感を集めたい投稿には比較的リアクションが少ない一方、近況報告に対する祝福のコメントや悩みを打ち明ける投稿に対する励ましのコメントが寄せられるケースが目立つそうです。
ネガティブな投稿よりもポジティブな投稿に反応するユーザーが多い印象です。面白いのは、ユーザーはログインボーナスなど、課金せずに入手したコインであっても「ポジティブなことに使おう」と判断していることです。SNS疲れを感じる10代が多く利用しているのも、そうした特徴と関係があるのではないのかと考えています。
『am』の投稿ハードルが高くなった結果、投稿内容やリアクションの傾向が投稿ルールのないSNSとは異なる結果となったのです。
「Echo」はなぜ伴走者なのか ―― 設計の狙い
一般的なSNSでは、文章作成をサポートしたり、ユーザーに投稿を促したりするなど、コンテンツを作るためのサポート機能としてAIが搭載されています。それに対し『am』では、コメントを返すAI「Echo」は伴走者と位置づけられています。
「Echo」がコメントのきっかけに
1日1回しか無料で投稿できないと、1回あたりの投稿内容は推敲を重ねたものになりがちです。その結果、閲覧側は「素敵だな」と感じつつも、どのようにリアクションをすればいいかわからずに少しばかり緊張してしまい、「いいね」を送るだけで止まってしまうことがあります。
ここに1つレスポンスが付いていれば、2人目以降の方が「自分はこうだよ」とコメントを返しやすくなると考え、「Echo」は設計されました。いわば、他ユーザーがコメントを返すためのファーストペンギンとしての役割です。
余白を生む「寄り添いすぎない距離感」
「Echo」の着想は、1つのニュースに対して賛否両面からコメントを返す番組企画を目にしたことにありました。立場や発言内容が異なっていても、相手を否定せずに受け止め、寄り添うような返しであれば受け入れられるのではないか。そう考えたことが、共感を軸にコメントを返すAIの発想につながったといいます。
実装にあたって、共感レベルの調整にはこだわりました。ユーザーの過去の投稿を分析すれば、AIが性格や考えを踏まえたコメントを返すことが技術的に可能です。
実際、本音を言い当てるコメントを「Echo」が行うようチューニングをした時期もあったといいます。しかし、投稿者は「見透かされている」という気味の悪さを感じやすくなってしまいました。
そこで『am』では、ユーザーの気持ちを正確に言い当てるのでなく、投稿を少し代弁したり合いの手を入れたりするなど、本音にかする程度にとどめるよう「Echo」に対する調整を繰り返しました。
投稿者が親しみを感じられるとともに、あえて解釈の余白を残し、閲覧者が自分の考えや思いを言葉にしやすくする狙いです。
伴走者といっても、完全に中立ではなく、どのくらいユーザーの感情に寄せるかがポイントでした。リリース初期は軽い突っ込みを返すように調整していたこともありましたが、ユーザーが本当に傷ついてしまってはいけません。狙った出力にするためのプロンプトチューニングは、かなり細かく行いました。
便利なAIはこれからどんどん出てきます。しかしSNSの中にあるAIは、人と人をつなぐサポート役にとどめるのがいいと思ったんです。
『am』で重要なのはあくまで人と人の対話であり、「Echo」はそれを隣で支える存在となっています。
「記録投稿」と「選べる設計」が連続投稿を後押し
「Echo」導入により増加した連続投稿率は、リリース直後に急上昇したわけではありません。数字が動き始めたのは、以下の2つの要因により「Echo」自体の利用が徐々に広がっていったからでした。
①「記録投稿」をするライトユーザーのニーズに合致
「Echo」のリリース当初、新規ユーザーが増えたこともあってか、「Echo」の使い方をユーザー自身が探っている時期があったといいます。
このタイミングで『am』は、「Echo」の出力を変更。頑張りに対して「すごいね」「がんばったね」といった寄り添うコメントを返すよう調整をしました。この出力が、勉強など日々の記録を付けたいユーザーと相性が良く、継続利用に発展。さらにそれを見たヘビーユーザーが投稿に反応し、会話が盛り上がるようになったのです。
②「Echo」の利用をユーザーに委ねる仕様
▲投稿ごとに「Echo」のオン・オフを変更できる
「Echo」の初期設定はオフで、オン・オフを切り替えるためのチェックボックスは、設定画面でなく投稿場面に設置されています。つまり、「Echo」に反応してほしいかどうかを投稿時に毎回選べる設計です。
「AIに勝手に話しかけられる」のではなく、「自分が反応してほしいタイミングで応えてくれる」というのがユーザーにとって重要ではないかと分析しています。
さらに、このチェックボックスには前回のオン・オフ状態が引き継がれます。つまり、一度オンにしたユーザーがオフに変えた場合、それは「Echo」の出力が期待に沿わなかったサインです。
『am』はこの切り替えをユーザーからのフィードバックとして活用し、オンにし続けてもらえるようチューニングを重ねました。
自分の意思で使い始められる設計がユーザーのAIに対する受け入れを促し、切り替えの自由がAIを磨くフィードバックを生む。この循環が「Echo」の利用者を増やし、連続投稿率の向上につながりました。
コインは収益源でなく意思を表す仕組み
『am』では現在、100コイン、1,000コインなどの単位でコインを購入できるほか、月額のサブスクリプションで広告非表示などの機能を利用できます。
マネタイズに関して『am』では、サブスクリプションをメインに置く方針だと話しますが、それにもかかわらずコインの購入が可能なのは、コインの価値を保つためです。
無料配布だけになると、コインの価値はなくなってしまいます。ユーザーが「何を投稿し、それにどう反応するか」ということを見るためにコインを用意しており、だからこそ他ユーザーへのリアクション率に応じて無料配布量を慎重に調整していくことが必要です。
「他ユーザーの投稿に対してコインを払っている」という感覚と「他ユーザーから『あの人、コインを払っているんだ』と思われる」ことを自覚できるバランスをキープしたいと考えています。このバランスさえうまく調整できれば、後はサブスクリプションで収益化していくイメージです。
コインの配布は販促施策ではなく、投稿を意識化するための手段という発想です。無自覚な行動が炎上を生むと考える『am』にとって、この仕組みはユーザーが自分の行為を自覚するための生命線となっています。
AIへの向き合い方と安心感が導くSNSの未来
投稿ルールや「Echo」、コインの位置づけなど、ここまで見てきた『am』の設計はいずれもユーザーに「意思」を取り戻させるための仕掛けだといえます。
こうした積み重ねの先に、『am』が見据えているのは、AIが台頭してもなお人が発信する意味を失わず、安心して感情を交わせるSNSの姿です。
AI時代に人が発信することの価値
AIによるコンテンツ生成が急速に高速化・効率化する中、投稿数や拡散数といった量で人間がAIと競うことは現実的ではありません。
永田氏はこの点に対して、人によるコンテンツの価値を以下のように捉えます。
AIが大量のコンテンツを生み出せるようになるほど、人による発信の価値はむしろ高まっていくと考えています。価値の源泉が「人によるものである」という点にあるなら、人間は量を追う必要がありません。言い換えると、少しの関わりでも人間は人にしか生み出せない価値を十分に発揮できるということです。
この考え方は、「Echo」を人間の代わりに発信する存在でなく、人と人とのコミュニケーションを後押しする役割に位置づけた『am』の設計にも表れています。
現在は、AIを人間に寄せようとしている段階であるため、人によるコンテンツに価値がある状態です。AIがより進化し、将来的に人間の価値とAIの価値が入り乱れていけば、AIであることが評価されるタイミングも来るのではないかと永田氏は予想します。
AIがどこまで人間に近づき、何を代替できるようになるのか――その進み方次第で、人が人に求める価値と、人がAIに求める価値も変わっていきます。『am』は、この境界線を固定することなく、時代に合わせて調整していく方針です。
安心して発信できる場としての存在感
『am』には『X』などで多数投稿をしているタイプのユーザーはあまりいないといいます。多くは「1日1回の投稿なら」と使用しているユーザーで、彼らの心理的背景には「Echo」の存在が影響しています。
ほかのSNS同様、『am』のユーザーの根本にあるのも承認欲求です。投稿すれば必ず反応してくれる「Echo」の存在がこの承認欲求に響いていると考えます。
ただし、否定・非難に対する不安があると、ユーザーは投稿をためらいます。承認欲求が投稿に結びつくためには、心理的安全性が必要です。
この安全性を裏付けるエピソードとして、永田氏は次のようなエピソードを紹介してくれました。
あるインフルエンサーの方が、『am』は投稿に対してネガティブなリアクションを返しづらいから、安心感があるといってくれました。ほかのSNSで多くのフォロワーを抱えている方なので、多数のリアクションが届くことに慣れていると思うのですが、否定される心配のない場でもらえるコメントには価値があるのか、「Echo」からのコメントでもうれしく感じるのだそうです。
「炎上を踏まえて設計されていることをユーザーが知っているからこそ、その安心感が伝わり、そしてそれを応援するために『am』を選んでいるのだと思います。SNSでは、投稿や反応を通じて人が傷ついたり喜んだりしています。その感情を大切にすることを『am』では大切にしていきたいです」と永田氏は続けます。
投稿ルールやコイン、「Echo」を通じて、ユーザーに「意思」を取り戻させる設計を『am』は積み重ねてきました。AIの時代にあっても人が発信する意味を守り、安心して感情を交わせる場を作り続けることが、『am』の目指す未来です。
【お知らせ】「習慣化」を軸にした協業パートナーの募集
株式会社Tecrestでは、10代・20代ユーザーの「日々の継続・習慣化」を支援したいヘルスケア、教育、クリエイティブ、美容・ファッションなどの協業パートナーを募集しています。
「1日1回投×AIによる伴走×習慣化」をベースに、共同キャンペーン、クロスプロモーション、テストマーケティングなどが可能です。
関心のある方は、以下にお問い合わせください。
【問い合わせ先】
株式会社Tecrest 広報担当
連絡先:contact@tecrest.co.jp
Tecrest Co., Ltd.
永田氏
炎上させる側に、あまり意思がなさそうだと感じていました。「みんながリポストする。だから自分もリポストする」という集団心理で燃えていて、「この人/このニュースが本当に許せない」という思いで投稿している方は多くないように見えたんです。