広告を展開し、インフルエンサーマーケティングを行えば短期間で商品の露出は拡大します。しかし、その効果の持続力に悩むマーケターも多いのではないでしょうか。
エンターテインメントコンテンツをメインとしたマーケティング企業のGAMIES株式会社(以下、GAMIES)は、それらの課題を解決した施策を生み出し、アプリ業界からの注目を集めています。
同社は、ヘルスケアゲームアプリ『HEALTHREE(ヘルスリー)』のコミュニティ施策において、広告・インフルエンサー依存モデルとは異なるアプローチでUGCを従来の3倍にまで高め、ユーザー主導型の新たな広告モデルを構築。ファンを「クリエイター(仲間)」として迎え入れるコミュニティモデルを設計した結果、SNS口コミ投稿数は約3倍に急増しただけでなく、新規クリエイター応募者の85%が既存ユーザーからの紹介経由という、自走する口コミ構造を実現しました。
このファンコミュニティモデルはどのように設計されたのか。同社の代表取締役である「のろいちゃん」氏に詳しく聞きました。
広告費に頼らずUGC3倍!GAMIESが実現させた、口コミが自走し続けるファンコミュニティモデルとは?
今回お話を伺った方
▼『HEALTHREE(ヘルスリー)|歩いて進める運動型RPG』とは?
プレイヤーが歩き、走ることでゲームが進行するロールプレイングゲームアプリ。位置情報を気にせず、通勤・通学・散歩など、いつもの道で起動するだけでゲームの世界に没頭できる。
公式サイト:https://heal3.com/
認知は取れるが、熱量が蓄積しない――インフルエンサー施策の限界
▲左・中:『HEALTHREE』では現実の街並みと連動した体験を得られる/右:ゲーム内で服や靴などの「装備服」を集め、キャラクターの見た目をカスタマイズして楽しめる
『HEALTHREE』は、「歩く」という日常行動にインセンティブを付与し、健康習慣を楽しく継続できるアプリ。GAMIESがマーケティングに取り組み始めた当初は認知拡大・新規ユーザー獲得を目的としたインフルエンサー施策を実施し、一定の成果を上げたそうです。しかし、施策を重ねるうちに、GAMIESは業界共通のある課題に向き合うことになりました。
インフルエンサー施策の実施後、のろいちゃん氏は『HEALTHREE』のビジョンをあらためて整理。同アプリが追求しているのは、単なるインストール数の増加ではなく、「歩くことを楽しむ文化」を作ることでは? そのためには、企業からユーザーへの一方向の情報発信ではなく、ユーザー自身が発信者になる仕組みが必要だ――のろいちゃん氏はそう判断したといいます。
広告やインフルエンサー施策は非常に有効ですが、基本的には企業などからの発信です。一方で、本当に強い口コミは、実際にサービスを利用しているユーザー自身の発信から生まれます。ユーザーが実際にプレイし、その体験を発信する。さらに、その発信を見た新しいユーザーが参加する。この循環を生み出すことで、広告やインフルエンサー施策だけでは作りにくい継続的な盛り上がりを実現できると考えました。
こうして生まれたのが、コミュニティ内の熱量の高いユーザーを「クリエイター」として運営者が支援するクリエイター制度です。
クリエイター制度の柱は「承認」「資産化」「新陳代謝」
GAMIESがクリエイター制度の柱に据えたのは、下記の3つの環境設計でした。
① 承認欲求を刺激するステージング
「人は評価されることで行動を継続しやすくなる」という前提に立ち、毎月の表彰制度・ランキング・優秀クリエイター紹介を実施。
このステージングのポイントは、評価基準をフォロワー数やインプレッションだけに限定しない点にあります。初心者向けの発信やコミュニティへの貢献も評価対象に含まれることで、「誰もが活躍できるステージ」ができあがり、裾野の広い継続参加につながりました。
② 活動が資産になるエコシステム
広告もインフルエンサーマーケティングも、露出の掲載終了とともに効果が薄れる一過性に課題があります。そこでGAMIESが重視したのは、クリエイターの活動がプロジェクトの「資産」として積み上がる設計でした。
「ユーザーが生み出したYouTubeのコンテンツ、noteやブログの記事などは、新規ユーザーの検索時にプロジェクトの資産として機能します。これは広告やインフルエンサーマーケティングでは得られない、プロジェクト独自の蓄積資産です」
口コミが消費されるコンテンツではなく、検索にヒットし続けるストック資産になることで、施策の費用対効果は時間とともに高まっていきました。
③ 新陳代謝の仕組み化
コミュニティ運営で最も難しい課題のひとつが、熱量の維持です。時間が経てば活動量が落ちるメンバーが出てくるのは避けられません。
GAMIESはこの課題に対して、定期的な新規募集やテーマ企画、コンテスト、表彰制度を通じて、常に新しいクリエイターが挑戦できる環境を用意しました。既存メンバーの離脱をゼロにしようとするのではなく、新規流入の仕組みを制度として組み込むことで、コミュニティ全体の活力を維持しているのです。
利用継続を生むのは金銭よりも「情緒的インセンティブ」
▲X公式アカウントが毎月結果を表彰する
GAMIESは運用前、参加者を集めるには表彰報酬、トークン、限定特典といったインセンティブを充実させることが重要だと考えていました。しかし運用を続ける中で見えてきたのは、「評価されること」「仲間ができること」「実績が積み上がること」といった情緒的なインセンティブが継続の大きな動機になっていることでした。
「公式アカウントに取り上げられる」「コミュニティメンバーから反応をもらう」「継続して複数回表彰される」――こうした体験が、想像を超えた継続動機へとつながっていたのです。
振り返ってみると、多くのユーザーは最初から報酬目的で参加しているわけではありませんでした。『HEALTHREE』が好きだから発信したい、同じ趣味・価値観を持つ人と交流したい、自分が見つけた魅力を誰かに伝えたい。そうした純粋な動機が出発点になっています。
この発見を経て、GAMIESは現在、賞金や景品だけでなく、「好き」という気持ちを表現し、それが認められる環境設計をより重視するようになったそうです。
最低10人程度の熱量の高いファンがいれば、ファンコミュニティは拡大できる
ここまで紹介してきたクリエイター制度や、新規クリエイターの85%が紹介経由という実績は、アプリ事業者にとって魅力的に映るかもしれません。しかし、この施策はあらゆるアプリで機能するわけではありません。
最も機能しないのは、ファンがまだ存在しないアプリです。リリース直後で認知がほとんどなく、まず知ってもらうことが最優先のフェーズでは、クリエイター制度だけで成果を出すことは難しい。この制度はゼロからファンを生み出す仕組みではなく、すでに存在しているファンの熱量を可視化し、さらに大きくしていく仕組みだからです。
GAMIESが目安として挙げるのは、「最低でも10人程度の熱量の高いファンがいること」です。熱量の高いファンに対して、クリエイター制度が果たす役割は大きく2つあります。
1つ目は、既存ファンの熱量を可視化し、より深いファンへと成長してもらうこと。
2つ目は、より深いファンに発信者として活躍してもらうことです。
日常的にアプリについて語り、SNSで感想を投稿している人や、友人にアプリをおすすめしている人がいる。そうしたユーザーが存在して初めて、認知拡大の火種は熱く大きくなっていきます。
実際、「紹介経由85%」という数字も、意図的な「紹介を促す仕掛け」によるものではなく、紹介が自然に生まれやすいコミュニティ状態をつくった結果だと、のろいちゃん氏はいいます。
コミュニティの中にいる熱量の高いユーザーは、いわば『マイクロインフルエンサーの原石』です。実際にサービスを利用し、本当に好きだからこそ発信しているユーザーの言葉は、広告や一般的なPRよりも強い説得力を持つと実感しています。数値は公表できませんが、広告費を投下し続けるモデルと比較すると、ファンコミュニティモデルは長期的にUGCや口コミが循環するため、継続的な資産形成につながりやすいと考えています。
実際にこの施策では、SNS上の関連投稿数が103件から338件へと約3倍に増加。関連投稿のインプレッションも約8万回から約25万回へと、同じく約3倍に伸長し、過去最高のパフォーマンスを記録しました。
見つけた「熱量の芽」を、自走する仕組みへ
GAMIESでは、この一連の取り組みは認知獲得施策の代替ではなく、ファンマーケティングやコミュニティマーケティングを「次の段階」へ進めるための施策だと位置づけています。
このモデルのスタートにおいて重要なのは、すでに存在している熱量の芽を見つけることです。
ファンの熱量を可視化し、発信につなげ、さらに新しいファンを生み出す循環を作ることができれば、ファンコミュニティはその後も自走していきます。
広告費をかけ続けなければ止まってしまう施策ではなく、ファンの活動そのものがコンテンツ資産として積み上がり、さらに新たなファンを呼び込む。GAMIESが描く「ファンを仲間に変える仕組みづくり」は、アプリマーケターが次の打ち手を考える上でのひとつの実践例といえそうです。
のろいちゃん氏
アプリマーケティングの現場でよく耳にするのは、『認知は取れるが、熱量が蓄積しない』という課題です。広告やインフルエンサー施策は短期間で大きな露出を生み出せる反面、その効果は一時的になりやすく、数日から数週間で話題が落ち着いてしまうこともあります。継続的に認知を維持するためには、同じ施策を繰り返し実施し続けなければなりません。