クーポンの値引き率を上げれば利用は増えますが、その分売上は減り、割引が終われば顧客との関係も途切れてしまいます。これは、多くの外食アプリが抱えるジレンマです。
ウェンディーズ・ジャパン株式会社とファーストキッチン株式会社は2026年5月21日、『ウェンディーズ・ファーストキッチン 公式アプリ』を刷新し、会計額に応じてランクが上がるロイヤルティプログラム「First Wendy's Passport」を導入しました。
クーポンだけに頼らず、継続利用につながる仕組みをどのように設計したのか、ウェンディーズ・ジャパン株式会社/ファーストキッチン株式会社の菊池愛稀沙氏に伺いました。
「クーポンの次」をどう設計するか――ウェンディーズ・ファーストキッチン公式アプリが仕掛けるロイヤルティ戦略
今回お話を伺った方
▼『ウェンディーズ・ファーストキッチン 公式アプリ』とは?
ハンバーガーチェーン「ウェンディーズ・ファーストキッチン」と「ファーストキッチン」の2ブランドで利用できる共通の公式アプリ。ステージポイントを貯めるとランクアップに応じたクーポンや特典が手に入る「First Wendy's Passport」のほか、会員限定クーポンの配信や、事前注文・決済ができるモバイルオーダーなどの機能を搭載。
なぜランク型ロイヤルティを選んだのか――クーポンの抱える課題
出典:PR TIMES
『ウェンディーズ・ファーストキッチン公式アプリ』が初めてリリースされたのは2016年。対象は「ファーストキッチン」のみで、クーポンやメールでの情報配信、クーポンが当たるスクラッチ機能が中心でした。2020年リリースの2代目からは2ブランド共通となり、モバイルオーダーと自社プリペイドカードとの連携機能が新たに搭載されました。
今回のリニューアルでアプリは3代目。主役となるのがランク型ロイヤルティプログラム「First Wendy's Passport」です。
――3代目となる今回、ランク型ロイヤルティプログラムを主役に据えました。導入の背景をお聞かせください。
菊池:最も大きな理由は、クーポンを軸にした販促には限界があることです。値引き率を上げればクーポン利用は増えますが、売上への影響はその分大きくなります。顧客に還元しつつも企業として利益を維持することを考えると、割引だけに頼り続けることはできません。
また、購入履歴を顧客への還元につなげたかったという狙いもあります。クーポンはその場限りの値引きで終わるため、継続利用をしていても顧客がメリットを受けられる仕組みにはなっていません。
購入履歴に応じてランクが上がる仕組みであれば、継続利用を目に見える形で顧客に示せますし、ポイントが蓄積されていく楽しさも感じてもらえると考え、この形を採用しました。
――リニューアルが今回のタイミングになったのは、どのような経緯からでしょうか。
菊池:一時的な割引中心の施策から脱却しようという議論は、実は4~5年前から社内でずっと続けていました。ただ、フランチャイズ店舗との調整や、アプリのリニューアル費用の検討も必要なので、同業他社や小売り店のアプリなどを幅広く調査しながら調整を進め、導入に向けた環境が整ったのが今回のタイミングでした。
――リニューアルに際し、開発や運用面で苦労した点はありましたか。
菊池:ロイヤルティプログラムの導入によって表示するコンテンツが増える中、アプリを開いた際に必要な内容がひと目で確認できるよう、1画面に表示する情報の量や配置を細かく調整しました。
今回のリニューアルでは、モバイルオーダーなど既存機能も刷新したため、アプリとPOS、モバイルオーダーの連携も多くの調整が必要でしたね。ここは、ベンダー各社と連携しながら進めました。
ランク制度は現実的に達成可能なレベルを設定
「First Wendy's Passport」は、税込100円ごとに10ステージポイントが貯まり、累計ポイントに応じてランクが上がります。ランクは0~10の全11段階で、ランクに応じてユーザーはクーポンなどの特典を受けることが可能です。ランク設計の考え方について伺いました。
――ランク数や特典内容はどのように決定したのでしょうか。
菊池:当初はランク数を5段階や20段階とする案もありましたが、ユーザー分析や、店長経験のあるマーケティングメンバーの知見も交え、多くのユーザーが「がんばれば届く」と感じられる水準を検討した結果、11段階となりました。
特典内容は、顧客還元を優先しつつ、事業とのバランスを踏まえたものになっています。
ちなみに、全11段階ランクのうち、特典を公開しているのは7ランクまでです。ランクアップの楽しみをユーザーに感じていただけるよう、8~10ランクの特典はあえて公開していません。
――アプリのリニューアルから約1ヵ月半が経過しました。今、どのような手応えを感じているか教えてください。
菊池:まだ十分なデータが取れているわけではありませんが、設計した仕組みが早くもユーザーに刺さっている手応えがあります。すでにランク5に到達した方が7、8人いらっしゃるんです。ランク5には5,000ステージポイント分(税込50,000円)が必要で、端数は切り捨てられることを考えると、実際の利用額はさらに多いはず。少なくとも一定のユーザーには狙いどおりの効果があったと感じています。
一方で、特典クーポンはユーザー情報を紐づけたバーコード方式を採用しましたが、「読み取りにくい」という声がユーザーから聞かれます。決済QRコードと同じ要領で読み取れると思っていたので、そこは想定と違った部分でした。現在、改善を進めているところです。
購入履歴の可視化と有効期限でユーザー行動を最適化
「First Wendy's Passport」のようなランクアップ制度の効果を最大化するには、条件やポイント有効期限をどう設定するかが重要です。どのような考えでこれらを決定したのかを聞きました。
――ランク制度によって、どのようなユーザー行動の変化を期待していますか。
菊池:ランクアップ制度は、ユーザーにワクワク感を届けることを大切にしたものです。そのうえで、これまで2〜3ヵ月に1回だった来店が、1ヵ月に1回へと増えるといった、来店頻度の増加を期待しています。
このために重要なのは、購入履歴が記録として残り、可視化されることです。いつ、どの店舗を利用したかという記録が残り、「1ヵ月行っていないから、そろそろ行こうかな」とユーザーが思い出すきっかけになればいいと考えています。
そこに有効期限のあるポイント制度が加わることで、「貯めたポイントを失いたくない」という心理が働き、来店につなげる狙いです。
――アプリのダウンロードを促すのが、特典の「ポテトM半額クーポン」かと思います。まずアプリを使ってもらうことに非常に力を入れられている印象ですが、そこから継続利用につなげるための工夫についてお聞かせください。
菊池:最初のランクアップである、ランク0から1までのハードルを低く設定することを意識しました。
ランク0から1に上がるには200ステージポイント分(税込2,000円)の購入が必要です。これは顧客単価を分析したうえで、利用額と特典のバランスから無理なく目指せる水準だと考えました。
――継続利用の観点でいうと、ステージポイントの有効期限を「最終利用日から6ヵ月」に設定されていますよね。この期間にしたのはどのような理由からでしょうか。
菊池:「ファストフード業界なら、月に1回来店してくれればロイヤルカスタマー」だと弊社では認識していますが、さすがにポイントの有効期限が1ヵ月だと短すぎます。
他社アプリの有効期限の多くは最終利用日から3ヵ月でしたが、意識していないとあっという間に期限を迎えてしまうおそれがあります。逆に、最終利用日から2年間というアプリも存在しますが、2年に1回の利用ではロイヤルカスタマーと位置づけにくい実情もあり、短すぎず長すぎない期間として6ヵ月に設定しました。
2ブランド共通アプリでユーザー体験を統一
▲「ウェンディーズ・ファーストキッチン」(左)と「ファーストキッチン」(右)のコンテンツをタブで切り替えて表示
『ウェンディーズ・ファーストキッチン 公式アプリ』は、2代目のアプリから2ブランド共通となっています。このようなアプリ運用の狙いを聞きました。
――ブランドごとにアプリを分ける選択肢もある中、2ブランド共通としている理由を教えてください。
菊池:「ウェンディーズ・ファーストキッチン」と「ファーストキッチン」は、ハンバーガーこそ異なるものの、パスタやポテト、デザート、ドリンクは共通のメニューで、クーポンの対象商品も多くの場合同じです。つまり、ユーザーに届ける情報や特典の多くが共通であるため、同一アプリで運用しています。
このほか、「ウェンディーズ・ファーストキッチン」の店舗の多くが、「ファーストキッチン」からブランド転換した店舗であるため、そのような店舗でも顧客の利用体験を大きく変えないようにすることも理由のひとつです。
――共通化のメリットがある一方で、1つにまとめる難しさもありそうですね。どのような課題があり、それにどう対応していますか。
菊池:難しいのは、ブランドごとの商品ラインアップをユーザーに正しく伝えることです。すべての商品を共通化することはできませんが、顧客からの要望や注文状況などを踏まえ、需要の高い商品についてはブランドをまたいで販売するなど、商品ラインアップを調整しています。
例えば、秋季限定バーガー「月見もっち」は、一昨年まで「ファーストキッチン」のみの販売であるにもかかわらず「ウェンディーズ・ファーストキッチン」の店舗でも注文される方が多く、その場で購入いただけないことがありました。このような機会損失を招かないよう、昨年から「ウェンディーズ・ファーストキッチン」でも「月見もっち」の販売を開始しています。
新規顧客の獲得から継続利用までを担うアプリへ
同社は「First Wendy's Passport」によって蓄積される利用データを、今後どのような形で活用していくのか、アプリ活用の展望とあわせて尋ねました。
――将来的に、どのような顧客体験の実現を目指しているのでしょうか。
菊池:アプリでは「お気に入り店舗」を登録できますが、実際によく利用する店舗であるとは限りません。「お気に入り店舗」と実際の利用店舗の違いを把握できれば、利用実態に合わせた情報発信やクーポン配信など、新たなマーケティング施策につながる可能性があります。
ほかには、購買履歴そのものをもっと楽しめる形で提供できないかと考えています。直近では、来店や購入の条件を満たすとフレーバーポテトのデジタルバッジが手に入る「ポテトCLUBコレクション」を実装予定です。
――新規顧客の獲得にも力を入れていますよね。最後に、アプリを通じた接点づくりも含めた今後の展望を伺えればと思います。
菊池:最も重視しているのは、数ある飲食店の中から「今日はウェンディーズにしよう」と選んでいただける存在になることです。そのためにはまず、認知拡大が欠かせません。
弊社はテレビCMを打てる規模ではないため、アプリを認知拡大の入口と位置づけました。中心となる施策は先ほども話に出た「ポテトM半額クーポン」の配布で、既存顧客への還元であると同時に、新規顧客に「アプリをダウンロードしてみようかな」と思っていただくきっかけになると考えています。一度アプリを使ってもらえれば、次は「ポイントを貯めてみようかな」と自然につながっていくという考えです。
新規顧客との接点は、アプリだけではありません。毎月実施しているアイドルやアニメ作品とのコラボ商品は来店のきっかけを狙ってのもので、そこで初めて来店した方がその場でアプリをダウンロードしてくださるケースも生まれています。新規顧客をアプリで受け止め、そこから「First Wendy's Passport」を通じて継続利用につなげていきたいですね。
「First Wendy's Passport」は、短期的な利用促進から継続して来店することの価値をユーザーに感じてもらえるような関係づくりへと、アプリの役割を広げる取り組みといえます。新規顧客との接点づくりと継続利用の両立は、外食分野における大きなテーマの1つです。来店や購入の積み重ねを、次の利用につながる楽しさや価値へどう変えていくかが、今後のロイヤルティ形成のカギになっていくでしょう。
ファーストキッチン株式会社