アプリ市場には、先行サービスが強固なユーザー基盤を築いている領域が数多くあります。そうした環境に後発のサービスが参入し、ユーザーに選ばれる立ち位置を確立するのは簡単ではありません。レシピアプリ市場もそのひとつです。
このような中、AILIFE TECHNOLOGY PTE. LTD.(以降、AILIFE TECHNOLOGY社)のレシピ保存アプリ『CookGo』は高い評価を獲得し、2026年5月末時点で国内で10万ダウンロードを突破しています。
なぜAILIFE TECHNOLOGY社は、レシピ領域の中であえて「保存」を選んだのでしょうか。そして、どのように認知を広げていったのでしょうか。
本記事では、同社に行った取材の回答をもとに『CookGo』成功の背景にあるアプリ開発の狙いやユーザー獲得戦略、今後の展望を紐解きます。
日本で10万DL達成!『CookGo』のプロダクト設計と急成長の裏側
▼『CookGo』とは?
写真やSNSのリンクからのレシピを取り込んで保存できる機能やレシピ提案機能を搭載したレシピ保存アプリ。献立の相談や買い物リストの作成などが可能。公式サイトもあり、アプリでサイト上のレシピ閲覧もできる。
公式サイト:https://cookgo.life/ja
課題解決への着目と市場の好機が支えた 急成長
画像提供:AILIFE TECHNOLOGY社
『CookGo』では、ウェブサイトやSNSに掲載された写真・動画から、材料や調理手順を整理したレシピカードを作成・保存できます。
AILIFE TECHNOLOGY社がこうした機能を持つアプリをリリースしたのには、ユーザーの課題と、それを事業として成立させられる市場・タイミングがそろったという背景がありました。
「レシピが消える」というユーザー課題の把握
レシピ保存機能を持つアプリに着目したのは、ある開発メンバーに起きた出来事がきっかけでした。
それは、スマートフォンに保存しておいたレシピでパスタを作ろうと思いリンクを開いたところ、投稿が削除されていて作れなかったというものです。
このように、SNSやウェブサイトで見つけたレシピが「投稿が削除される」「アカウントが非公開になる」「多数の投稿で埋もれてしまう」などの理由から閲覧できなくなることは珍しくありません。ですが、同社はこれを一部の人だけが感じる不便ではなく、SNSで料理を学ぶ方すべてに共通する課題だと捉え、開発に乗り出したのです。
ニーズの高まりとAI技術成熟のタイミングが一致
『CookGo』が2026年春に大きく注目を集めたのには、明確な理由があります。
パンデミックをきっかけに自宅で料理をする方が増え、レシピアプリへのニーズは近年高まっていました。
一方で、SNSでは「投稿主の削除によりコンテンツが見られなくなる」「プラットフォーム側の仕様変更で使い勝手が変わる」などの問題を抱えており、利便性に不満を持つユーザーも増えていたのです。
そしてその頃、AILIFE TECHNOLOGY社ではレシピ解析用のAIの精度が実用レベルに到達。需要面と技術面が重なったこのタイミングでアプリは大きな成長を遂げました。
なぜ大手は「SNSレシピの保存」に踏み込めないのか
レシピアプリ市場には『クックパッド』『クラシル』『デリッシュキッチン』などの大手サービスが存在し、コンテンツプラットフォームとして膨大なレシピを発信しています。
一見、入り込む余地のないこの分野に、『CookGo』は、空白を見つけることに成功しました。
大手プラットフォームが抱える構造上の問題
当初、AILIFE TECHNOLOGY社も大手レシピサイト同様、レシピコンテンツの制作を検討しました。しかし、各社が10年以上かけて築いたコンテンツとユーザー基盤に正面から挑むのは難しいと、早い段階で判断したといいます。
ここで次の手を探るために同社が着目したのが、大手のビジネスモデルそのものでした。
コンテンツプラットフォームは、自社が用意したレシピを見てもらうことで成り立つビジネスモデルです。ユーザーをサイト内にとどめることが前提である以上、外部で見つけたコンテンツを持ち込む動きはこのモデルと相性が悪いといえます。つまり、『クックパッド』や『クラシル』が「SNSのレシピを保存する」機能を持たないのは、技術的な問題ではなく構造的な問題です。
言い換えると、「SNSで見つけたレシピを保存したい」という需要は確かにあるのに、大手にはそこをカバーできない事情がある。これにより生まれるニッチな分野を『CookGo』は狙いました。
「保存・整理」というニッチな分野に着目
大手サービスのユーザーの多くは、ほかのサイトや外部SNSでレシピを探したうえで、手間をかけて保存することはありません。一方で、大手サイトを使用せず、SNSなどでレシピを検索・保存する方も確かに存在します。
『CookGo』では、このようにSNSでレシピを探すユーザーの不便に着目し、レシピの保存・整理に特化したサービスに絞りました。
プラットフォームとしてコンテンツを自社で抱え込むのではなく、ユーザーが外部で見つけたレシピを置ける場所を提供するという役割に舵を切ったのです。
小規模かつサービス開始後間もないチームにとって、大手と正面から競合しないニッチな市場はサービスを展開していくうえで理想的であったと同社は振り返ります。
シンプルな操作と高精度AIが支える保存機能
ニーズやタイミングが合致し、市場に見通しが立っても、実際にユーザーに使ってもらえるかどうかはプロダクトの品質次第です。完成度を高めるため『CookGo』は、操作の手間とデータの精度の2点に特に力を注いでいます。
保存操作を可能な限りシンプルに設計
▲ワンタップでレシピが『CookGo』に保存される
画像提供(左):AILIFE TECHNOLOGY社
レシピが突然見られなくなる課題を解決するには、レシピを手元に残せる仕組みが必要です。
しかし、従来のレシピアプリでは、保存の際、材料や手順を手動で入力したり、スクリーンショットで料理の写真を撮影する必要があるなど、ユーザーに一定の手間が生じるという別の問題が生じていました。
そこで『CookGo』が重視したのは、ユーザーにレシピ保存の手間をできるだけ感じさせない設計です。『CookGo』では、ユーザーが作りたい料理を保存・共有ボタンから取り込むだけでレシピを保存できるようにしました。
AIの精度指標として「初回成功率」を設定
サイトやSNSのレシピの解析にはAIを使用しています。レシピの正確さはアプリの信頼性を左右するため、AI精度の適切な測定・改善が欠かせません。
このための社内指標として、『CookGo』では「初回成功率」を設定しました。もともと『CookGo』にはAIによるレシピ生成後、ユーザーがレシピを修正できる機能が搭載されています。そこで、ユーザーがレシピの修正をしなかった割合、つまり最初の出力だけで期待どおりのレシピを生成できた割合を「初回成功率」として示し、指標に加えたのです。
初期バージョンのAIは、材料を見落としたり、「適量」を具体的な数値だと誤って解釈したりするケースが少なくありませんでした。現在は、複数のAIモデルによる検証に加え、ユーザーからのフィードバックを継続的に活用することで、初回成功率95%以上を実現しています。
AIで料理に関するあらゆる負担を削減
『CookGo』には、レシピ保存のほかにもAIを使用したさまざまな機能が搭載されています。
アプリのメインユーザーは35歳前後の女性で、ペルソナとしては「平日の深夜にチョコレートケーキのレシピを見つけて保存したのに、いざ週末に作ろうとしたら材料が足りずデリバリーを頼む」といった行動を取っている方々としています。
『CookGo』の機能はいずれも、このようなユーザーが抱える料理に関する手間を減らすもの。食材の準備から調理までを含む料理の一連の工程がスムーズに進むことを同社が重視していることがうかがえます。
タグ付け:管理コストを抑えつつ検索性を確保
一般的にレシピアプリでは、保存件数が増えるほど目的のレシピが見つけにくくなります。『CookGo』でも、テストユーザーから「保存したパスタレシピが見つからない」といった声が寄せられていました。
しかし、保存のたびにレシピを分類させる仕組みは、かえってユーザーの負担になります。
その解決策として用意したのは、AIがレシピを見て自動で付与するタグ付け機能です。このタグは「今週末に作りたい」「ダイエット中の食事」など、ユーザーが自由に追加することも可能で、管理コストを抑えながら、検索性を確保する設計となっています。
買い物リスト機能:食材の準備からサポート
買い物リストの自動生成機能は、ユーザーからの要望が最も多かったものです。
大抵の方は、保存したレシピを参考に食材を買いそろえます。その際、必要な食材を手作業で買い物リストに入力しなければならないのは面倒です。
『CookGo』ではAIが材料を解析し、チェックボックス形式の買い物リストを自動で作成します。ユーザーは買い物時、必要な食材にチェックを入れていけば、買い忘れの心配はありません。
レシピの保存だけで終わらせず、買い物から調理までをシームレスにつなぐことで、料理という日常的な行動にかかる手間が最小限になります。
AIアシスタント:献立の相談相手として機能
出典:@Press
『CookGo』は、もともとレシピを保存するためのツールとして設計されました。ところがユーザーが増えるにつれ、アプリに搭載されたAIアシスタントを献立の相談相手として使う方が増えていました。
例えば「冷蔵庫に卵とベーコン、レタス半玉がある。これで何が作れる?」というように、手元の食材を入力し、AIと相談しながらその日の献立を決めたり、『CookGo』をまるで自分専用の料理開発チームのように使ったりしていたというのです。
これは開発側が想定していなかった使い方です。ユーザーによって新たな使用方法が見いだされ、アプリの価値が拡大したケースだといえるでしょう。
ユーザーの口コミが急成長をけん引
『CookGo』はSNSで話題を呼び、リリースから短期間でダウンロード数が10万件を超えています。このような急速な成長は、広告やSNSマーケティングの施策による成果だと思いがちですが、実際はリリース当初から順調に数字を伸ばしたわけではありません。
運営チームがSNSでコンテンツを発信をしても最初はうまくいかず、獲得した「いいね」数は非常に少ないものでした。
この経験からAILIFE TECHNOLOGY社は、ユーザーフレンドリーな製品とバズを生み出すようなSNSマーケティングはまったく別物だということを強く認識したといいます。
ただ「アプリが本当に便利であれば、ユーザーが口コミで広めてくれる」という強い確信が同社にはありました。
やがて、その確信を裏付ける動きが起こります。
『CookGo』に保存したレシピ画像に、「『Instagram』で見つけたレシピを簡単に保存できる」「スクリーンショットを撮ったり、アルバムを探し回ったりする必要がなくなった」というコメントを付けた投稿をユーザーが行うようになり、新規ユーザーが次第に増えていったのです。
さらに、料理やガジェットの情報を発信するインフルエンサーが『CookGo』を自発的に紹介してくれたことも、認知拡大に貢献しました。
インフルエンサーのフォロワーは、料理動画を見るのは好きだけれど、レシピの入力・整理は面倒だと感じている層が多く、同社の想定ユーザーに見事に合致。
「自分の気持ちに寄り添うツールがやっと現れた!」という共感が、さらなる口コミにつながりました。
食のアシスタントへの進化――『CookGo』の将来展望
AILIFE TECHNOLOGY社は、『CookGo』が保存から調理までの料理のプロセス全体を支えられるようなアプリになることを見据えています。
現在は「調理モード」の開発が進められており、調理中にスマートフォンの画面で工程を確認できるようなステップ表示や音声操作によるナビゲーションの機能など、両手がふさがりがちなキッチンでの利用を前提としたインターフェースの強化が行われています。
技術面では、SNSやウェブサイトなど、さまざまな形式で公開されているレシピへの対応が当面の目標。取り込み対象を順次拡大するとともに、レシピ解析の精度向上にも継続的に取り組む方針とのことです。
さらに長期的な展望として同社は、『CookGo』を単なるレシピ管理やデータベースのためのツールではなく、ユーザーの嗜好や調理履歴を踏まえて最適な提案を行う「パーソナルな食のアシスタント」へと進化させたいと考えています。
食にまつわるあらゆる体験をサポートするアプリへの進化を続ける『CookGo』。その成長の起点は、誰かに話したくなるようなユーザー体験を地道に積み上げていったことです。それが口コミを呼び、次のステージへの扉が開く。このような連鎖が『CookGo』の歩みを支える土台となっています。
AILIFE TECHNOLOGY PTE. LTD.