2025年、訪日外国人旅行者が初めて4,000万人を超え、消費額も9.4兆円に達するなどインバウンド市場の高まりが続く中、株式会社Paykeが提供する訪日外国人向けショッピングアプリ『Payke(ペイク)』は、対話型AIエージェント「買い物コンシェルジュAI」のベータ版提供を開始しました。
『Payke』はもともと、訪日外国人が日本の商品を理解し、納得して購入できるよう支援をするショッピングサポートアプリです。今回の機能は、AIの急速な発展によって、その購買支援を一人ひとりの状況や関心により即した形へ進化させる取り組みです。
「越境ショッピングをなめらかにする」という目標に向かって、手段をどう進化させるのか。『Payke』が描く構想を同社代表取締役 CEOの古田奎輔氏に聞きました。
翻訳の先へ――550万ユーザーと11年分のデータでPaykeが挑むインバウンド購買体験の再設計
▼『Payke』とは?
バーコードをスキャンした商品の情報を7言語で表示できる訪日外国人向けショッピングアプリ。保有している商品データは約75万点。人気の商品を紹介したコラム配信のほか、商品ごとの口コミも掲載。2015年のサービス開始以来、累計550万人を超えるユーザーに利用されている。
公式サイト:https://payke.co.jp/
今回お話を伺った方
検索からAIへ――商品データを「対話できる購買支援」に変える
出典:PR TIMES
訪日外国人のショッピングをサポートするアプリとして 多くのユーザーに利用されてきた『Payke』が、エージェント機能「買い物コンシェルジュAI」を取り入れた背景には、大きく以下の2つがあります。
1つは、ユーザー行動そのものの変化です。
ユーザーが何かを調べるための手段として、これまではGoogleなどの検索エンジンが中心でしたが、AIに問いかけて情報を得る行動が広がっています。
『Payke』では、この大きな変化に対応したいという思いがありました。
もう1つは、汎用AIに対する自社データの優位性です。
『Payke』は商品情報や買い物という領域に特化したデータを、一次情報として11年間積み上げてきました。だからこそ、この分野に特化すれば汎用AIよりも価値の高い情報をユーザーに提供できるAIを作れると判断したと古田氏は話します。
こうした構想を後押ししたのが、AI技術の成熟です。古田氏は「私たちにとって、翻訳は最終目的でなく、『越境ショッピングをなめらかにする』という創業以来のミッションを実現するための手段でした」と話します。
AIの進化によって、これまで蓄積してきた商品データや行動データを、ユーザーとの対話を通じて買い物の意思決定に活かせるようになったことが、「買い物コンシェルジュAI」の開発につながりました。
最安値は最適解? 11年分のデータが支える購買判断の精度
▲日本国内の多数の商品のデータを保有している
では、『Payke』が強みとする「自社データ」とは具体的にどのようなものなのでしょうか。古田氏は、2つのデータの存在を明かします。
■独自の商品データベース
約75万点の商品情報を7言語で保有し、訪日客が手にとる商品の約90%をカバー
■ユーザー行動・嗜好データ
商品ごとのスキャン履歴やアンケートにもとづく定性データを蓄積し、比較されやすい商品や季節ごとの人気傾向、ユーザーの興味・嗜好を分析
このデータ基盤こそが、汎用AIと『Payke』独自の「買い物コンシェルジュAI」の差別化につながっています。汎用AIがパッケージ情報の翻訳や一般的な説明を行うのに対し、「買い物コンシェルジュAI」は長年蓄積した商品データを根拠として回答を生成するので、ユーザーが目の前の商品をより正確に理解できるのです。
価格比較の領域では、同社が保有する特許技術「免税商品購入支援システム及び方法、サーバ装置」も活用。価格だけでなく、現在地からの距離や移動時間、クーポンの有無、免税対応、店舗条件などが加味された「ユーザーにとって今最も合理的な購入先」を提示できます。
この技術の出発点にあるのは、「最安値が必ずしも最適解とは限らない」という考え方です。
たとえ10円安い店舗があっても、そこへ向かう時間や移動コスト、買い物にかかる労力など、ユーザーごとに負担の種類や量は異なります。それにもかかわらず、目に見えないコストを無視した「最安価格」ばかりが世の中にあふれています。
訪日客は限られた時間で買い物をしなければなりません。最安価格ばかりを提示するサイトやアプリが氾濫する中、あらゆるコストを含めて最適化した情報を提示することで、ユーザーの利便性向上につなげているのです。
法人展開の構想 ―― BtoC接点をBtoB支援に活用
「買い物コンシェルジュAI」は消費者向けサービスであるのと同時に、法人向け事業にも密接に関連しています。
インバウンド市場についてはこれまで、観光庁などが公表するマクロデータは存在するものの、「どの商品に関心を持ったユーザーが、ほかにどの商品に関心を示しているのか」といった細かな消費行動データは十分に蓄積されておらず、汎用的なAIに尋ねても答えを得られる状況ではなかったと古田氏は話します。そのため、メーカーや小売事業者がインバウンド対策を進めようとしても、有効な手を打つのは困難でした。
この課題に対し『Payke』は、「買い物コンシェルジュAI」で得られるユーザーの関心や課題の傾向を、個人を特定しない形で分析し、従来のスキャン履歴とあわせて複合的に活用する、法人向けAIの提供を進めています。
つまり、BtoC側で得られる購買支援の知見や個人を特定しない形で分析した傾向を、小売やメーカー、商業施設といったBtoB側の販促最適化、回遊促進、商品理解促進、継続購入支援などのサービスにも応用しようとしているのです。
今後、ベータ版で得られる実利用データをもとに、こうした法人向けAIの提供を業態に合わせて段階的に進めていく予定となっています。
旅マエ・旅ナカ・旅アトを一本につなぐサービス設計
こうしたデータ活用を可能にしているのが、旅行前から帰国後までユーザーとの接点を持ち続ける『Payke』独自のサービス設計です。
古田氏によると、旅行者が旅マエ・旅ナカ・旅アトのフェーズごとに求める情報や行動は異なる一方、それらを切り分けて捉えられているサービスはほとんど存在していないといいます。
その点、自社サービスとして直接ユーザーとの接点を持つ『Payke』は、アプリのダウンロード時期や利用地域、位置情報などから、ユーザーが現時点で旅行のどのフェーズにいるかを把握できているため、それぞれに最適なコンテンツ配信やプッシュ通知が可能になります。
例えば、自国にいる段階の「旅マエ」では、商品情報やウィッシュリスト機能を通じて「買いたい」という意欲を醸成します。来日中の「旅ナカ」では、商品の購入条件やまとめ買い時の注意点、購入後の手続きなどを多言語で案内し、店頭での不安解消を支援。さらに帰国後の「旅アト」で商品情報を確認できるようにするほか、越境ECへ誘導し継続的な購入につなげています。
一般的な翻訳・情報確認サービスでは接点が店頭に限られやすく、POSで把握できるのも店頭での購買結果が中心です。それに対し『Payke』は旅マエから旅アトまでを一連のユーザー行動として追える点に強みがあります。
翻訳アプリから購買体験を支えるインフラへの進化
最後に、『Payke』が「買い物コンシェルジュAI」の先に描く中長期のビジョンを尋ねました。
「私たちが本質的にやりたいのは、ユーザーにスキャンしてもらうことでも情報の翻訳でもありません。商品の価値を正しく届け、買い物をもっと楽しく、よりよい購買体験につなげること。それこそが『Payke』の本懐です」と古田氏は語ります。
また、『Payke』の購買支援がAIによってより個別化されつつあることについて、「11年かけて積み上げた多言語の商品理解という土台があったからこそ、訪日外国人の購買意思決定をより深く支えるサービスへと進化できる」と続けました。
『Payke』が目指すのは、自社で直接ユーザー接点を持つサービスとして、商品との出合いから販売までを担うこと。そして、そこで得られるデータをさらなるサービスに活かしていくという、インバウンド消費の全行程を支えるプラットフォームとなること。つまり、「旅マエ」での認知獲得から「旅ナカ」での購買、「旅アト」でのリピート購入までを一気通貫で支援する仕組みづくりです。
「買い物コンシェルジュAI」の搭載は、訪日客との継続的な関係を構築するための『Payke』の挑戦だといえるでしょう。もともとの購買支援という目的を、AIによってさらに進化させ、ユーザーにより合った価値を提供できるアプリになる。そのために、長年にわたって蓄積した経験とデータを活かすことの重要性を『Payke』の取り組みは示しています。