マッチングアプリが日本で誕生してから早12年が経ちました(2024年現在)。この12年の間に、マッチングアプリ界隈も状況が一変。特に、コロナ禍でリアルに人と会えない時期が続いたことは、若者の恋愛に大きな影響を与えました。
マッチングアプリの最大手として業界を牽引している『Pairs(ペアーズ)』に、今の若者の恋愛事情や、ユーザー動向から見えてくる課題についてインタビューを実施。
恋愛の若者離れは本当にあるのか、なぜ恋愛ができないのかなど、若者の恋愛事情に詳しい、ペアーズのリサーチディレクターである工藤彩乃さんに話を伺いました。
恋愛はしたいけど、「摩擦ゼロ」でいたい。若者の恋愛観を『ペアーズ』に聞いてみた
工藤彩乃氏
ペアーズリサーチディレクター。恋愛・結婚や人間関係・コミュニケーションにまつわる消費者インサイトを各種市場調査で明らかにし、事業戦略やUX戦略へアドバイスを行うディレクター。
ペアーズの親会社であるMatch Groupに所属し、これまで世界15ヵ国以上を対象に恋愛・結婚やマッチングアプリなどに関するリサーチを推進しているほか、恋愛心理学に基づき相手の人となりを感じることができる「ペアーズクエスチョン」プロジェクトにも関わる。
若者の「恋愛離れ」はホント?
――「若者の恋愛離れなんて本当はなかった」と、工藤さんがペアーズの公式noteでおっしゃっていましたが、その背景について詳しく伺えますか?
Match Groupの調査では「7割以上は異性と何らかの関係性を望んでいる」ことが明らかになっています。調査を開始した2016年から大きくは変わっていないので、若者の恋愛意欲が無くなっているわけではないんです。恋愛したくないわけではなく、「恋愛が難しい環境にいる」というのが正しいです。
若者にはお金も時間もない!
――恋愛が難しい環境とは、具体的にはどういったものでしょうか。
1つは「お金と時間がない」ことです。今の若者は「この人とのゴールは結婚なのか」をしっかり長期的に考えたい傾向があるんですが、今の自分が経済的に安定していないから、将来を思い描けないんです。
学生はアルバイトを2~3個やっていて、インターンにも行くのが当たり前。しかもゼミや大学の課題もあって非常に忙しい……といったように、自由になる時間があまりない環境です。
社会人になっても、残業禁止の会社が増えた影響もあり、一つの会社だけでは十分稼げない状況です。そこで自分で起業したり、副業を始めたりと、お金を稼ぐために時間もなくなっていくという。
――「お金がない」というと、いわゆる苦学生を想像してしまいますが、そういったわけでもないのでしょうか?
家庭環境として貧困というわけでもなく、別に直近のお金に困っているわけではないけれど、将来的にお金が足りなくなるんじゃないかなど、そこはかとない不安が付きまとっている印象ですね。ひたすら「スキルアップしなきゃ」とか「20代のうちに経験を積まなきゃ」みたいな。それが時間のなさにつながっています。
――先の見通しがわからないから、とにかくやれることは若いうちに全部やっておかなきゃいけない。だから、恋愛をしている暇がないということでしょうか。
そうですね。ちょっと上の世代だったら、不景気ではあったものの、バイトをしつつ普通に遊ぶ時間もあったし、社会人になってもそこまで切羽詰まってはいなかったと思うんです。
今の30歳以下の子たちにとっては「生まれたときから日本経済が真っ暗です」という状態が続いています。さらに親世代もバブルを知らなかったりするので、親子ともに楽観的には考えられないんです。
――なるほど、目の前の生活に一生懸命にならざるを得ないからこそ、恋愛の優先順位は下がり、それが「恋愛離れ」と見なされてしまうんですね。
そうなんです。自分でもこの先どうなるかわからない今の状態で恋愛しても、相手と将来どうなるかも考えられないし、そもそも自分が忙しくて恋愛なんて考えられないし……という状態で。恋愛をしたくないわけではないけれど、恋愛から離れざるを得ない状況に置かれているのが実情だと思います。
恋愛経験の不足が、恋愛をより難しくする
――コロナ禍の前後では、若者の恋愛の仕方はどう変わっていったと思いますか?
リアルでの出会いを制限されたこともあり、新しく恋愛を始める手段がほとんどマッチングアプリ一択という状況だったと思います。
ただ、マッチングアプリって、マッチング自体はアプリの中でできるんですけど、最終的には会ってデートやお話しをしないと、恋人になれるかどうかわからないじゃないですか。
「マッチングアプリで50人とマッチしてそれで満足」というよりは、一人でもいいから実際に会ってお話しして、「この人素敵」と思いたい。そして、そのままお付き合いに発展したいところですが、そもそも「会ってお話ししましょう」と言いづらかったと思うんです。コロナ禍に「そろそろ会いませんか」と伝えたら、非常識だと思われるかもしれないなと。
――恋愛したいのにリアルに会えない状況はつらいですよね。若い頃に恋愛経験が得られないと、後の人生にも影響が大きい気がします。
例えば日本人が、恋愛経験を最もしやすい機会って、おそらく高校生から大学生の頃だと思うんです。実は最近の調査でも判明したことですが、恋愛経験がまったくない方がすごく増えています。アメリカと日本で比較したMatch Groupの調査によると、
●「過去1年以内に付き合ったことがある方」が、アメリカでは4割、日本では2割弱。
●「今まで付き合ったことがない方」はアメリカでは2割、日本では5割。
と、真逆の結果だったんです。
――恋愛経験が得られなかった弊害として、どんなことが考えられるでしょうか。
この先のライフステージとして、結婚したいとか子供が欲しいとか、ふと将来設計を思い描く瞬間がくると思います。ですが、恋愛経験がないと、まず何をしたらいいかわからず迷子になる方が多いんです。
恋愛をほとんどしたことがないのに、いきなりマッチングアプリを使っても、何をどう振る舞ったらいいのかわからず怖い。けれど友達に紹介をお願いするにしても、恋愛経験がなさすぎて、友達に失礼なことをしてるかもしれないと思うと、なかなか動き出せない。
本当は恋愛をしたいのに、恋愛に向けた行動ができなくなってしまうのが弊害だと考えています。
――実際、マッチングアプリを使っていても、一度もうまくいかなかったという方も多くいますよね。恋愛経験がない方がマッチングアプリで恋人を作ることは難しいのでしょうか。
アプリの機能をうまく使えばマッチング自体はできると思うのですが、問題はそこではなく、自分がどんな人と出会いたいのかがよくわからないという、解像度の低さが課題なのだと思います。
若いうちから恋愛の経験があると、「こういう人がいい」「自分がこういう性格だからこういう人はダメ」のように自分の好みがはっきりしてきます。そういった恋愛の軸があると、マッチングアプリに限らず恋愛自体うまくいくと思うんです。ただ、恋愛の軸がないと、どういう相手を探せばいいか分からないし、そもそも「自分ってどんな恋愛がしたいの?」という自分探しから始まってしまいます。
――たしかに自分のことが分からないのに、どう恋愛をしたらいいかはイメージできないですね。恋愛初心者でも良い相手と出会えるような対策は、ペアーズで何か取られてますか?
「この人素敵かも」って思うポイントはあちこちにあるはずで、それをなるべくアプリ上でも感じられる工夫をしています。
例えば、趣味や好きなものを登録できる「マイタグ」という機能がありますが、やっぱり同じものが好きだったら「あ、素敵」と思える可能性が高いと思うんです。自分も同じものが好きということをわかっていれば、直接会った時にも気楽に話せますよね。
また「ペアーズクエスチョン」という機能では、何気ない質問に対して、その方がどういう反応をしているかで人柄を感じられるようになっています。
例えば「100万円あったら何に使う?」という質問に対し、シンプルに2文字で「投資」って書く方がいたとします。一方、「○○のために、ここは我慢して投資する」のように具体的に書く方もいますよね。
ほかにも、馬の絵文字で「競馬に全突っ込み」を書き表していた女性もいらっしゃって、豪快そうな人柄がわかるじゃないですか。
それらを見て「この人おもしろい」「この人素敵」のように心がウキウキするといいなという機能はいろいろ用意しています。
――ペアーズの画面を見ていると、以前はもっとユーザーを検索する機能が目立っていたと思うのですが、最近は目立たない位置に移動していますよね。これは意図的にやっているんですか?
実はそうなんです。検索が助けになるっていうユーザーさんもいらっしゃるので、検索機能をなくすことはないと思うんですが、検索機能を使うとどうしても顔や年収、身長などわかりやすいスペックだけで判断してしまいがちです。
ただ、最近のユーザーの傾向としても、自分で条件を設定して探すというより、「私はこういう人だから、それに合う人を提案して」っていう、AIから提案されたいニーズのほうが高いことがさまざまな調査でわかってきてました。
そのため今のペアーズでは、トップ画面にAIが選んだおすすめのユーザーが出てきます。みんなもう「探す」という行為に疲れているんですよね。
オンラインショッピングでも、商品を探すのに疲れているから、みんな一番上に来たものを選びがち。だからこそ、「あなたのことを教えてくれれば、おすすめを提案します」という機能が望まれているのかなと。
実際、検索から探したユーザーよりもAIが提案したユーザーのほうが、マッチング後にメッセージにつながりやすかったというデータもあります。自分が選ぶよりも、AIが選んだ相手のほうが相性が良かった場合もあるんだと思いますね。
恋愛はしたいけど、摩擦は絶対いや。若者の価値観・恋愛観とは
――昨今の若者たちは、人間関係の摩擦を嫌がる傾向があると感じています。ですが、恋愛では摩擦を避けて通れないですよね。「摩擦を嫌がるけれど恋愛はしたい」という矛盾について、どう考えていますか。
そうですね、恋愛に限らず、人間関係すべての摩擦を嫌がっています。今の子たちは物心ついたときからInstagramで友達の友達までつながっているし、スマホを持ち始めたらクラスのLINEグループがどんどん作られるので、小学校・中学・高校・大学とずっとコミュニティがオンラインで続いています。そのコミュニティは自分から抜けられないし、無くすことも難しいです。
ずっと続いているコミュニティに波風を立てて、自分のせいでその平和が乱れることが精神的に嫌だし、問題が起きたときに解決する気力もない。だから「摩擦が何もない」状態でいたいのだと思います。
恋愛においても同じで、自分のせいでコミュニティが壊れるのが嫌なので、身近な人との恋愛は避けるし、摩擦をなるべく起こさないで出会いたいという願望があります。
――たしかに、常にオンラインでつながっているからこそ、周りの目が気になって行動が制限されてしまうことはありそうです。
「この人となら摩擦を起こしてもいい」と思えるくらい好きになれる人じゃないと、恋愛をしたくないという声も聞きます。
大人世代だと、「あまり好きじゃないけど、付き合ったら好きになれるかもしれない」といって、とりあえず付き合ってみるケースもありましたよね。
でも大学生にそれを話すと、一様に「好きじゃない人と付き合うなんてあり得ない!」と言うんです。「何、その時間の無駄! そんなことするぐらいなら、別のことに自分の時間と気持ちを使う」といって(笑)。
――恋愛より優先したいことがあるから、とりあえず付き合うという感覚が理解できないんですね。ちなみに「別のことに時間を使う」とは具体的にはどんなことでしょうか。
推しの動画をひたすら見たり、休日には何もせず『無』の状態になっていたりする子もいましたね。日常では波風が立たないように非常に神経をすり減らしているので、「何も気にしなくていい摩擦ゼロの時間」というのがすごく大事なんです。
若者はタイパを大事にしているという話もありますが、何もしない時間も同様に大切にしています。
――疲れ切ったビジネスパーソンのような休日ですね……。
とはいえ、本人たちは割と満足はしていて、大変だけどコントロールができているんです。「今日ちょっと疲れた」となったら、遊びに行かず「無の時間」を作るんです。その時間自体は本人にとって楽しいことなので。
余暇時間に「無の時間」が必要だからこそ、そこに摩擦の大きな恋愛が入り込む余地がないのだと思います。
――工藤さんの話を聞いていると、若者には「モテたい」という気持ちがあまりないように思えますが、そういった価値観は持っていないのでしょうか?
30歳以下の子たちにインタビューをしたときに、印象に残った男性がいたんですが、「脱毛サロンに通っているが、モテるためにやっているわけではない」という話です。
身だしなみを整えると、その後の人生が良くなる。それは恋愛に限った話じゃなくて、いい生活につながるから脱毛サロンに通うという感覚だったんです。自分が自分として楽しく幸せに生きるために、興味があることに投資をする。その結果として、周りからモテたらそれはそれでラッキーという感覚だそうです。
大人世代はモテるために美容院に行ったり、メイクを変えたりといろいろなことをやったと思うけれど、若者はモテることはさほど意識していません。
ただ、2パターンあるのかなと思っていて、「心の底からモテることを意識してない」という場合と、「本音ではモテるためにやっているけど、周りには言えない」という場合です。
――周りに言えないのは「モテようとしていてダサい」と思われるのが嫌だからですか?
ダサいというよりは、いつもと違う自分を見せてしまうことが怖いという感覚ですかね。それが誰かにとっての地雷だったら嫌という。今までの人間関係が壊れるとか、誰かと距離を取られるとか、さざ波が立つ状態を起こしたくない。どちらかというと「いつもと違う自分」だと思われることが嫌なのだと思います。
ペアーズが提供する「摩擦の起きない出会い」
――本音をさらけ出すタイミングが本当にないのでしょうね。「摩擦の大きな恋愛はしたくない」と考える若者に対して、ペアーズはどういった対策をしているのでしょうか。
おそらく今年リリースしたペアーズの「本音マッチ」という機能が、今後よく使われるのではないかと考えています。本音マッチは普段言えないような本音を登録することで、同じ価値観を持った相手とマッチングできる機能です。
若者がマッチングアプリを使うときによくある話ですが、マッチングしてお付き合いがはじまったとしても、最後の最後で価値観が合わないことが発覚したらお別れするわけです。そうするとそれまでが本当に「時間の無駄だった」と若者は思ってしまうんです。
そして、もう一回探すところからやり直すなんて無理、もうそんなことに時間は割けないですってなるんですね。
お互いの譲れない本音の価値観を、先にマッチングできるというのが「本音マッチ」のいいところです。
――本音マッチにはどういった内容の「本音」があるのでしょうか。
簡単な例ですが、「ランチに1,000円も払わない」という点は一緒だけれど、「牛丼屋でオプションつけるのはOK」という話ができる……みたいな感じですね。
ほかにも、結婚後の話で、「スキンシップの有無」や「友達と遊びに行かせてもらえるか」など、自分のプロフィールには大っぴらに書けないような内容が多いです。
仮に付き合えても重要な本音の部分がすり合わなくて、摩擦が大きくなってやり直しということもありえるので、そういった将来的な時間の無駄を省ける「本音マッチ」は、今後も使ってもらえると思います。
ちなみに、「本音マッチ」で回答が3つ同じ相手に出会う確率は0.02%なのですが、仮に3つとも回答が一致していたら、「私たち相性良すぎじゃない?」と思いますよね。
本音マッチでマッチングした場合、メッセージのやりとりに進みやすいというデータもあります。最初に本音がすり合わさっているからこそ、心理的なバリアが外れ、意気投合しやすいのだと思います。
――最後に、これから恋愛を始めようとしている人に対して、アドバイスをいただけますか。
「コミュニティを壊したくない」や「なるべくさざ波を立てたくない」といった、身近な人と摩擦を起こさないで出会いたいというニーズであれば、マッチングアプリを使ってみるのもよいかもしれません。「大勢の知らない人たちがいる世界」に入っていくので、マッチングアプリはある意味しがらみがない世界です。
また、タイパ重視の若者へのアドバイスとして、最初のデートの目的を、「実際に会う」だけにしないというのがおすすめです。たとえば「美術館に行ってモネの作品を見る」といったゴールを別で置くと、それ自体は達成できますよね。
会ってみて「この人ちょっと違うかも?」と思ったとしても、美術館に行くという目標は達成できたので、「その時間は無駄じゃなかった」と言えると思うんです。
ペアーズを幸せ退会 (卒業) された方のお話を聞いていても、皆さんいい意味で型にはまらず、それぞれの幸せを得ています。自分らしく恋愛してもらえたら、ペアーズとしてはそれが何よりも嬉しいですね。
Pairs(ペアーズ) 恋活・婚活のためのマッチングアプリに関する記事