2025年11月13日、Braze主催のビジネスカンファレンス「Braze City x City Tokyo」がウェスティンホテル東京で開催されました。
サイト閲覧やメール開封、クリック、チャットの応答といった“デジタル・ボディランゲージ”をどう活かすかに関心が高まる中、Opening Keynote から会場には多くの関係者が集結。Brazeが示す今後のプロダクト戦略やパートナー戦略に熱い視線が注がれました。本記事では、Braze Keynote の模様をレポートします。
【イベントレポート】Braze City x City Tokyo ─ デジタル・ボディランゲージ × AI が拓く次世代CXの最前線
Opening Keynote
イベント冒頭のOpening Keynoteでは、Braze共同創業者兼CEOのビル・マグヌソン氏が登壇し、AIによるリアルタイム通訳システムを用いた挨拶からセッションがスタート。
今年で4回目となる日本でのイベント開催にあたり、アジア各国のBraze顧客を訪ねてきた旅路のなかで、大谷選手、山本選手、佐々木選手がロサンゼルス・ドジャースと共にワールドシリーズで歴史的な勝利を収めた直後に日本にいたという体験、大好きな自転車をChatGPTと日本メーカーのパーツでアップグレードしたエピソード を交えながら、「情熱と好奇心を、つながりと投資に変える」物語であると語り、会場の空気を一気に温めました。
そこから話題は、デジタル・ボディランゲージをどう読み解くかへと展開。顧客が発する膨大なサインを手がかりに、ブランドは貴重なファーストパーティデータを通じて顧客を深く理解しなければなりません。
AIの登場は、消費者の時間と注意を奪う新たな競争相手でもある一方で、リアルタイムのコンテキストを捉え、最適なタイミングで価値ある体験を届ける大きなチャンスでもある、と強調しました。
その鍵として提示されたのが、Brazeが掲げる「コンポーザブル・インテリジェンス」というコンセプトです。従来の「聞く / 理解する / 実行する」というフローを、「文脈 / 知性 / 相互交流」を推進することで、“デジタル上のおもてなし”を実現していくと強調しました。
これは、ホスピタリティ以上の配慮、正確さ、そして共感の考え方であり、単に自動化を加速するだけでなく、マーケターの仕事そのものを高めるための戦略的なフレームワークとして紹介されました。
さらに、家を売買する不動産エージェントや、世界的人気アーティストのコンサートビジネスの比喩を用いながら、AIエージェントの可能性にも言及しました。ブランドのメッセージやビジネス目標を理解した複数のエージェントが連携することで、マーケターは運用メカニズムから解放され、「体験全体を指揮するコンダクター」へと役割を拡張できると言います。
最後に、Brazeが管理する、数十億の月間アクティブユーザーとの関係、昨年1年間で送信された数兆のメッセージ、そして2025年には10兆を超えるデータポイントが処理されているというBrazeの規模に触れつつ、「今こそ、マーケターの力が本領を発揮するときだ」と呼びかけました。
AIが可能性を広げる一方で、次に来るものを導く責任は依然として皆様全員にかかっている――Opening Keynoteは、その強いメッセージでイベント全体のトーンを印象的に示していました。
Braze プロダクト戦略
ビル・マグヌソン氏に続き登壇したBraze共同創業者兼CTOのジョン・ハイマン氏は、Brazeのプロダクト戦略として「AIが顧客エンゲージメントのルールをどう書き換えるか」を語りました。
従来のマーケティングは「もし○○したらこのメッセージを送る」といった静的なルールと事前定義セグメントに依存していましたが、Brazeは「文脈 / 知性 / 相互交流」を組み合わせる“コンポーザブル・インテリジェンス”により、この前提を根本から更新しようとしています。
AIは、静的なビジネスルールを強化し、それを動的に解釈し、インテリジェンスをもたらすものにします。
AIによる意思決定(Decisioning)の革新
セッションの中核として紹介されたのが、一般提供が開始されているBrazeAI Decisioning Studioです。
これは強化学習ベースのAIエージェントのコレクションであり、個々の顧客の数百もの異なる特性とリアルタイムの行動コンテキストから学習し、「誰に・いつ・どのチャネルで・どんなオファーを届けるか」といった個々の顧客に最適なチャネル、メッセージ、オファー、配信タイミングなどエンゲージメントのあらゆる側面を、1人ひとりに合わせて最適化します。
ハイマン氏は、解約リスクの高いユーザーを例に挙げました。同じ「ビジネスシューズ好き」というセグメントに属していても、ランニングを始めたユーザーAにはランニングシューズの情報コンテンツを、来店時間が取れないユーザーBにはモバイルアプリダウンロードの案内をレコメンドするなど、従来のルール設計では不可能な粒度で意思決定を自動化します。
Taco Bellでは、Braze AI Decisioning Studioを活用し、既存顧客からのトランザクションを最大化することができ、意思決定エージェント導入によりパフォーマンスが向上。その結果、キャンペーン成果が従来比2.6倍に伸びた実績が紹介されました。
新たな顧客接点とマーケター支援ツール
AI活用は意思決定だけにとどまらず、マーケターの生産性を高めるツール群へと拡張しています。Brazeでは、外部AIプラットフォームとBrazeを直接接続することを可能にし、マーケターは環境を離れることなく会話ベースでキャンペーン分析や改善案の抽出が可能になりました。
また、OpenAIの ChatGPTカスタムアプリ 連携を業界で初めて実現し、ChatGPT上の対話からファーストパーティデータを収集してBrazeのセグメンテーションやメッセージトリガーに活用することで、新たな顧客接点をエンゲージメント基盤に組み込めるようになりました。また、先日ChatGPTがリリースした新しいAtlasブラウザ対応のWeb SDKも即日リリースしました。
あわせて、マーケター自身の働き方もAIで変えていきます。現在ベータ版のBraze AI Operator(AIオペレーター)によりキャンペーンの構築、データの分析、タスクの自動化を支援。さらにBraze AI Agent Console(AIエージェントコンソール)は、AIエージェントを作成、管理、配備できます。
これらのエージェントは、Google GeminiやOpenAIなどの主要なLLMをモデルとして選択でき、複数のエージェントを組み合わせて機能させることが可能です。
エージェントコンソールを使った施策では、顧客からの非構造化されたテキスト回答をリアルタイムに解釈し、CV率約9.5%向上・年間約330万米ドルの利益増という成果も示されました。
データ基盤の強化とオーケストレーション
AIを支えるデータ基盤の強化も進められています。Brazeは、クラウドにデータを集中化する多くのブランドに対応するため、データをコピーせずに活用できるZero Copy Segmentation(ゼロコピーセグメンテーション)に加え、DWH内テーブルから直接Canvasジャーニーを起動するZero Copy Canvas Triggers(ゼロコピーキャンバストリガー)を提供。
これにより、データのコピーや進行中のデータ同期を管理する必要がなく、エンジニアリング作業を大幅に削減します。
さらに、複数キャンペーンが競合する状況で、定義された優先順位付けルールに基づき、「どのユーザーにどのメッセージを優先的に届けるか」を制御するMessage Prioritization(メッセージの優先順位付け)のベータ提供も始まっています。
日本市場向けには、LINE公式アカウントのチャネルの強化も進められており、クリックトラッキングとLINEイベントのデータエクスポートが一般提供されています。また、ユーザーごとに内容を変えられるパーソナライズLINEリッチメニューを今後提供予定です。
ジョン・ハイマン氏は最後に、「AI時代においても、データの統合・活性化・配信、クロスチャネル配信基盤の信頼性と拡張性といった“これまで重要だったこと”は変わらない」と強調しました。
そのうえで、マーケターは目標、戦略的アプローチ、クリエイティビティを定め、詳細な意思決定はAIに任せる世界へ移行していく——Braze AI Decisioning Studio、AI Agent Console、AI Operatorは、その新しい顧客体験を実現するための“フォースマルチプライヤー”(戦力倍増装置)であると締めくくりました。
Braze プロダクト&パートナー戦略・パネルディスカッション
第3部では、Brazeのパートナー戦略をテーマに、ヤプリの市川氏とBraze新田氏のディスカッションが行われ、Brazeは日本市場を最重要市場と位置づけ、LINE連携に続き、今年はモバイルアプリ領域に強みを持つヤプリとの新たな協業を発表しました。
アプリマーケティングの転換点:AIで実現する「使われ続けるアプリ」
ヤプリはアプリ開発プラットフォーム「Yappli」だけでなくノーコードCRM「Yappli CRM」、Web構築プラットフォーム「Yappli WebX」も提供し、顧客体験最大化を目指す「デジタルエクスペリエンスプラットフォーム」を展開しています。
現在、企業が直面する課題は「アプリをリリースすること」から「いかに継続的に使われるアプリを作るか」へと進化しています。
顧客体験設計の大きな課題として、次の3つを提示し、
アクティブ化:離脱ユーザーへの再訪促進、配信時間最適化
購買促進:カート落ち対策、属性に応じた情報提供、クーポン配信精度
エンゲージメント:顧客の行動に合わせた“おもてなし”の実践(予約リマインド、評価依頼など)
特に3つ目は「いかに顧客目線で寄り添う設計ができるか」が重要であると市川氏は述べました。
今後の展望:BrazeとYappliの連携をよりスムーズに
新田氏は、UI/UXに強いヤプリと、データ活用を得意とするBrazeの相性の良さを指摘しています。市川氏も「アプリ内コンテンツのパーソナライズが次の段階で重要になる」と述べ、両社の協業が“使われ続けるアプリ”の実現につながると期待を寄せました。
両社は、顧客の声を聞きながら連携を深め、日本のアプリマーケティングDXを加速させていく戦略を示し、セッションを締めくくりました。
AI時代のCXを切り拓く──Brazeが示した次の進化へのロードマップ
本イベントは、顧客との関係性を一段階引き上げるための戦略的ヒントやマーケティング・CXの次時代を形成する最先端のテクノロジーを体験する場として開催されました。
急速に多様化する顧客接点において、顧客が発信する「デジタル・ボディランゲージ」を正しく捉え、AIを活用した次世代CXへとつなげる具体的な手法が紹介され、顧客エンゲージメントの未来像が明確に示されました。
進化を続けるBrazeの取り組みが、今後のマーケティング・CXの未来を大きく前進させていくことが期待されます。
イベント概要
名称:Braze City x City Tokyo
~デジタル・ボディランゲージ x AI で実現する次世代CX~
URL:https://www.event-site.info/cbc2025/
日時:2025年 11月13日(木)12:15-19:30(受付11:45)
場所:ウェスティンホテル東京
〒153-8580 東京都目黒区三田1丁目4−1
主催:Braze株式会社