2025年11月13日、Brazeが主催するリアルとデジタルを融合した顧客体験(CX)の高度化およびAI・リアルタイムデータ活用をテーマにしたカンファレンス「Braze City x City Tokyo ~デジタル・ボディランゲージ x AI で実現する次世代CX~」が開催されました。
本記事では、本イベントのセッションの1つ「博報堂とKFCが描く「顧客進化型CRM」とBraze活用の最前線」の模様をお伝えしていきます
【イベントレポート】博報堂とKFCが描く「顧客進化型CRM」とBraze活用の最前線【Braze City x City Tokyo】
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本セッションでは、まず博報堂のCRM(顧客関係管理)に関する考え方が話され、KFC(ケンタッキー・フライド・チキン )の具体的な事例について紹介されました。
登壇者は日本KFC DX推進本部デジタル戦略部部長の平田雄己氏と、博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局CRMディレクターの浜田晃生氏です。
KFCは2012年に公式スマホアプリをリリース。2022年にはBrazeを導入し、会員証やポイント制度(チキンマイル)で顧客基盤を築いてきました。
CRMの落とし穴と博報堂のアプローチ
冒頭、浜田氏はCRM領域でよく直面する5つの課題を紹介しました。
それは「ツール利活用」「データ利活用」「LTV最大化」「CRM施策」「リソース不足」の5つです。
例えば、せっかくツールを導入しても業務に活かせないケースや、蓄積したデータがビジネス成果につながらないという問題などが挙げられました。
こうした課題に対しては、「生活者を中心にした構想と実装」「事業の力点の明確化」「体験設計の持続性」などの視点が重要だと語り、博報堂ではそれに対応する多様なメニューを用意していると説明しました。
特に、LTVの高い顧客がどんな行動を経てロイヤル化したのかを深掘りし、類似パターンを促すシナリオ構築の重要性が語られました。
KFCのCRM戦略:日常に寄り添うブランドへ
KFCでは従来、「特別な日に食べるチキン」のイメージが強かったものの、現在はランチや夕食など日常利用を促す「エブリデイブランド化」に取り組んでいます。
平田氏は、全国展開しているとはいえ、誰もがKFCの店舗にすぐアクセスできる環境ではないと述べ、「顧客と密なコミュニケーションを取ることが、日常化を進めるCRMの鍵になる」と語ります。
そのため「顧客と密にコミュニケーションを取ること」が重要であり、CRMがまさにエブリデイ化のエンジンになると説明しました。
具体的には「①会員を増やす、②購買を促進する、③離脱を防ぐ」の3つを成長戦略の柱に据え、大規模なマスマーケティングから、来店客をアプリ会員として取り込み個別対応する戦略へとシフトしています。
従来、KFCではテレビCMや新商品投入で来店の“ピーク”を作り出してきましたが、現在は「ピークで来店したお客様に対し、並ばず商品を受け取れる仕組みを用意し、会員登録を促す」ことに注力しています。
その上で購買後はプッシュ通知やパーソナライズされたクーポンで丁寧にフォローし、チキンマイルを多くためた顧客には高額クーポンを出すなど“えこひいき”戦略を展開。こうして来店客を定着させ、一緒に育てていくことでLTVの向上を目指しているそうです。
Braze導入で加速する1to1マーケティング
KFCでは、デジタルCRM強化に向けて2022年にBrazeを導入しました。2024年には公式アプリを大規模リニューアルし、顧客データの収集体制を整備しています。
「お客様を見て仕事をするという1to1マーケティングがようやくできる状況になってきた」と平田氏は話しました。
昨年のアプリ刷新では、Brazeから「ユーザーにとってより良いアプリにするための設計提案」を受けたことが、大規模リニューアルの成功につながったと振り返っています。
グローバルに展開するBrazeのチームがアプリ開発に協力し、直感的で高品質なUX設計の実現を支援しました。
こうした支援のおかげで、アプリのユーザー体験設計や組織的なナレッジ共有が加速し、現在は、AIも活用しながらPDCAの高速化に取り組んでいるといいます。
アプリと店舗連携:会員プログラムと購買体験の向上
KFCではアプリと実店舗を連携させることでO2O(オンライン to オフライン)の顧客体験を強化しています。
公式アプリには会員証機能があり、来店時にバーコードをスキャンしてチキンマイルをためる仕組みを導入。
ためたマイルをもとにクーポンを配布するなど、会員プログラムを充実させています。
さらにオンラインオーダー機能も備え、アプリから注文した商品を店舗で並ばずに受け取れるようにすることで、顧客の利便性を向上しました。
こうしてアプリで会員登録した顧客の購買データを確実にCDP(顧客データ基盤)に取り込み、次回以降の個別コミュニケーションにつなげています。
顧客理解の深化:ロイヤルカスタマーの“ゴールデンルート”分析
KFCでは、会員の購買行動データを詳細に分析することで、ロイヤル顧客がたどった共通の購入パターンを明らかにしています。
平田氏は、「あるメニューをきっかけに別のメニューへと遷移することでプラチナ会員になる顧客が多い」と語り、そうしたルートを「ゴールデンルート」として定義しました。
該当のルートをたどる未ロイヤル層に対しては、あとひと押しのコミュニケーションでロイヤル化を促進する取り組みを行っています。
単なるクラスタリングではなく、個々の顧客の“登り坂”となる行動シナリオを解明することで、きめ細かな施策設計につなげています。
パーソナライズ施策とAI活用への展望
Braze導入後、KFCは多様なパーソナライゼーション施策を展開しています。
具体的な施策として、気象予報データを活用し、雨天時にデリバリー利用を促す配信を実施しています。また、来店頻度が減少し始めた顧客を早期に検知し、クーポンを送ることで離脱を防ぐ予測施策も行っています。
さらに、ユーザー行動に応じた最適なタイミングでプッシュ配信し、セグメント別の訴求やクーポンレコメンドもBraze上で精緻に設計しています。
一方で浜田氏は「多彩な施策を増やすほど高度な分析・実装が必要になる」という課題も挙げ、AIを活用してPDCAをさらに強化する考えを示しました。
平田氏は最後に、これまでの取り組みの成果を振り返りながら「おいしいチキンを届けることに全社一丸で取り組みたい」と語り、会場を大いに沸かせました。
KFCの顧客進化型CRMは、アプリと店舗をつなぎ、顧客ひとりひとりに最適化されたコミュニケーションを実現することで、日常使いブランドへと変革を進めています。
今後もBrazeやAIを活用しながら、より深い顧客理解とパーソナライズを追求し続ける意欲が感じられるセッションでした。
イベント概要
名称:Braze City x City Tokyo
~デジタル・ボディランゲージ x AI で実現する次世代CX~
URL:https://www.event-site.info/cbc2025/
日時:2025年 11月13日(木)12:15-19:30(受付11:45)
場所:ウェスティンホテル東京
〒153-8580 東京都目黒区三田1丁目4−1
主催:Braze株式会社