Adjust、Braze、Moloco、Moonplateが運営するモバイルアプリマーケター向けコミュニティ「MOBILE STARS」による第6回目となるイベント「MOBILE STARS Christmas 2025」が、2025年12月12日に開催されました。
この日の締めくくりとなる最後のセッションは、「クリスマスに考える〜限られた接点でどう顧客の心を掴むのか〜」をテーマに、株式会社エーアンドエス(サザビーリーググループ)の飯塚 泰輔氏と、株式会社タカラトミーの井上 慶人氏が登壇しました。
前編の株式会社エーアンドエスに続き、後編では、多彩なブランドを展開しながら直販EC「タカラトミーモール」を軸にD2C・CRMを強化するタカラトミーが、どのように顧客理解と体験設計を行っているのかをお届けします。
【レポート】A&S × タカラトミー登壇、限られた接点でどう顧客の心を掴むのか(MOBILE STARS)後編
前編はこちら
タカラトミーのコアファンを起点にした、複数チャネル×データドリブンの購入導線設計
タカラトミーは、プラレール、リカちゃん、トミカ、ベイブレードをはじめ、歴史が長く多彩なブランドを展開する玩具メーカーです。同社はメーカーという特性上、エンドユーザーであるお客様と直接接点を持つ機会は限定的でした。
その中でタカラトミー公式ショッピングサイト「タカラトミーモール」は、お客様と直接のコミュニケーションが可能なだけでなく、購買データや顧客の趣味嗜好といったデータの分析・活用も進めており、事業成長とデータ活用の両方の観点から重要な役割を果たしています。
売上は右肩上がりで伸長し、直近では過去最高売上を更新。社内からの期待も高まっているといいます。
「タカラトミーモール」の役割とファン構造
「タカラトミーモール」は、単なる直販サイトではなく、お客様と直接つながるタッチポイントです。ECを通じて得られた知見を分析し、お客様一人ひとりの趣味嗜好に寄り添った施策へと活かしていく。そうした「顧客をより深く理解するための起点」として位置づけられています。
顧客構成は大きく二つあり、一つは、お子さま向け購入となる「子ども&ファミリー層」、もう一つは自分買い購入となる「大人層」。比率は自分買いの大人層の方が高めだという。
この“自分買い”の大人層の比率が中心だからこそ、ブランドごとに異なるファンの熱量や楽しみ方をどう設計し、いかに最適な購買体験を設計できるかが、同社にとって重要なテーマになっています。
▲井上 慶人 氏(株式会社タカラトミー)
商品アンケートとCDPによる「見えなかった顧客」のデータ化
タカラトミーでは、CDP(Customer Data Platform)を導入し、ECの購買・閲覧データをはじめ、Webサイトのアクセスデータ、さらには商品購入者からのアンケート結果などを統合し、IDベースで顧客を把握する取り組みを進めています。
アンケート施策では、 商品にQRコード+シリアルコードを封入し、アンケート回答者を対象に抽選でおもちゃの詰め合わせが当たる独自のキャンペーンを実施。
回答時に得た会員情報を、CDP上で「タカラトミーモール」のデータと統合することで、これまで見えにくかった店頭購入者をデータ上で把握し、継続的にコミュニケーションできる状態へ引き上げています。
アプリを起点にした、コアファン向け“即時購買導線”の設計
タカラトミーはブランド別にアプリがあるが、「タカラトミーモール」は全体のショッピングアプリとして機能しています。
▲App画像引用元:App Store
ECアプリは、アプリ限定のクーポン配布、プッシュ通知による最新情報・商品情報の配信に加え、「黒ひげ危機一発」などの自社ブランドを活用したミニゲームを不定期で展開するなど、遊び心を意識して設計されています。。
特に、自分買いをするような熱量の高いコアファン層に対し、「今すぐ行動してもらう」ためのチャネルとして、発売タイミングや在庫情報をタイムリーかつダイレクトに届けている点がポイントです。
ブランド特性とチャネル特性を踏まえたコミュニケーション設計
限られた接点で顧客の心を掴むために、同社では “ブランドごとの購買行動 × チャネルの役割” を掛け合わせた設計を行っています。
【チャネルごとの役割分担】
・メール
読み物としてコンテンツを楽しみたいコアファン層向け。トランスフォーマーなどホビー系商材のストーリーや仕様を丁寧に解説し、「読むこと自体が楽しい」クリエイティブを配信。
・LINE公式アカウント
タカラトミー全体の新商品情報を、幅広い層に届ける“告知ハブ”。ブランド横断で網羅的な情報を届ける役割。
・アプリ(プッシュ通知)
アプリ利用ユーザーは自分買いをする大人層、かつタカラトミーの商品への熱量が高い人が多いため、「今すぐ手に入れたい」モードの顧客に対して即時性の高いメッセージを配信し、短い導線で購入行動につなげる
データから見えた、ブランドごとの「買われ方」の違い
データ分析から、ブランドごとに顧客の動きが大きく異なることも分かっていると井上氏は言います。その事例の1つが「デュエルマスターズ」と「リカちゃん」で異なるアプローチ方法です。
【ブランドごとの反応の違い(例)】
デュエルマスターズ
・プッシュ通知を送ると「すぐに購入されやすい」傾向
・通知文も「今すぐチェック」といった即時購買を促すトーンで設計
リカちゃん
・プッシュ通知からの直接CVは比較的少ないが、後日のアクセス・購入を追うと間接CVとして数字が積み上がる
・家族と相談したうえで購入するプロセスを念頭に、即時性より“きっかけづくり”を目的としたメッセージ設計
クリスマスという「年に一度のイベント」における体験設計
クリスマスは、タカラトミーモールにとっても顧客にとっても特別なタッチポイント。
同社では、電池を使用した玩具の事前チェックを呼びかけるメッセージや、初めて“サンタ役”を務める親に向けたガイドなど、「その日の体験が、お客様にとってより良いものになるための配慮」にも力を入れています。
さらに、サプライズを守る工夫として、配送時には箱の中身がおもちゃだと気づかれにくい無地のダンボールを採用するなど、“開封の瞬間のサプライズ”を守る工夫も施されています。
クリスマスは、休眠顧客や新規顧客との接点創出において大きなチャンスである一方、井上氏は「そこで終わらせず、他のシーズンでも継続的にご購入頂けるようLTVを伸ばすことが重要です」と語り、季節イベントをきっかけに、その後も顧客と関係を積み上げていくことが、同社CRMの焦点になっていると示しました。
「限られた接点」で心を掴むための、タカラトミー流アプローチ
D2CとCDPを軸に、「見えなかった顧客」をIDベースで可視化
タカラトミーモールでの購買行動や商品アンケートなどを起点に、継続的なコミュニケーション基盤を構築。
ブランド特性とチャネル特性を掛け合わせ、最適なメッセージと導線を設計
デュエルマスターズ/リカちゃんなど ブランド ごとの“買われ方”の違いをデータで把握し、メール・LINE・アプリで役割を分けてコミュニケーションを最適化。
クリスマスのような「年に一度の特別なイベント」を心に残る体験の場として設計
購買体験の最大化を目指し、サプライズの維持まで含めた顧客体験をデザインすることで、信頼と好意を積み上げる重要なタッチポイントとして活用しています。
こうした、おもちゃ会社ならではの“遊び心”と、“購買体験の設計”を両立させるタカラトミーの取り組みは、限られた接点の中でも顧客の心を深く理解し、ブランドごとの最適な距離感で寄り添うことで関係性を育てていく成功事例と言えるでしょう。
感情を揺さぶる丁寧な設計とデータに基づく顧客解像度の向上が重要
MCを務めたBraze・佐藤氏は、「購入頻度の低い商材では、プッシュ通知を送ればアプリに来て、すぐに商品を買ってくれるような単純な構造ではない」と指摘し、それぞれの商材特性に応じた丁寧な設計と、顧客解像度を高めるデータ活用の必要性を強調しました。
日常的に購入される商材ではないからこそ、「どの瞬間に、どの情報を、どんなトーンで届けるべきか」を緻密に設計することが求められ、そこに企業のCRMにおける成熟度が表れます。
本セッションは、“顧客を深く理解し、適切なタイミングで適切な体験を提供すること”こそが、長期的な関係構築の鍵であるという普遍的な示唆を提示する機会となりました。
アプリマーケターが集うコミュニティ“MOBILE STARS”
モバイルアプリマーケターのためのコミュニティイベント「MOBILE STARS」は、今回で6回目の開催となりました。本イベントは、Moonplate, Inc.を中心に、Adjust、Braze、Molocoといった運営企業が連携して運営しています。
MOBILE STARSでは、今後もマーケターにとって、学びとつながりが得られる場を継続的に提供していく予定です。今回のクリスマス特別企画は、Adjust、Braze、Moloco、Moonplate, Inc.の運営に加え、スポンサーであるRevenueCatとLiberteenz、そしてメディアパートナーであるアプリブの協力のもと開催されました。
アプリ業界の発展を願う多くの有志・関係者のご支援により、本イベントが実現していることに、この場を借りて深く感謝申し上げます。
次回のMobile Starsは2026年4月21日(火)に開催予定です。
アプリマーケティングに従事するみなさんの成長に貢献できるコミュニティとして、今後も継続的にこうした場をつくってまいります。
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