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  • 【必読レポート】Reproがスマホ新法を解説!アプリ事業者が今すぐ取るべき対策と公取委を交えて議論した「手数料不要」の境界線

2025年12月18日、「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(スマホ新法)がついに施行されました。

Repro株式会社では同日夜にセミナーを開催。「これまでと何が変わり、どこまで対応すべきか」をテーマに、Google・Appleの最新発表を踏まえた解説に加え、公正取引委員会を迎え、新ルールへの見解と戦略議論が交わされました。

アプリマーケターが今すぐ押さえるべき論点をまとめた、最速レポートをお届けします。

AppleとGoogleが発表した最新情報を整理

まずReproの中野氏が、施行当日朝に公開されたApple・Googleの公式発表をもとに、新ルールの全体像を整理しました。焦点となったのは、プラットフォーム開放とアプリ外課金・誘導に関する手数料体系です。

プラットフォーム解放による影響

今回のスマホ新法による大きな変更点、抑えるべきポイントは以下の通り。

【ポイント】

● 第三者アプリストア(代替マーケットプレイス)が“解禁された”
自社でアプリを配信できる可能性が示された一方、利用条件や併用可否には厳密な制約がある
● 外部決済が“使えるようになったが、実装・運用要件がある
Apple・Googleともに、外部決済の導入には契約同意、API実装、取引追跡・レポート提出などの対応が必須
● ストア最適化/導線設計の“やってはいけない”が増える可能性
ストアページに外部決済を案内する記載は原則NG。ストア内から直接外部決済へ誘導する表現は制限対象になり得るとして、運用面はグレーな部分が残る

アプリ内課金・外部決済の新しい手数料水準

多くの事業者が最も関心を寄せていた「手数料」について説明。

▲アプリ内課金・外部決済の新しい手数料水準(Repro)

Appleの場合

● 外部決済手数料:15%
○課金対象期間:ユーザーがリンクをタップから 7日間 の購入が対象
○決済代行手数料:Apple手数料に加え、別途決済代行(カード/ウォレット等)の手数料が上乗せ
 <適用対象>
 App Store Small Business Program等の参加者/⾃動更新サブスクリプション2年⽬以降 ⇒10%
 その他のアプリ外オファー ⇒15%

●IAP(アプリ内課金):30%⇒26%へ(4%減)
 ○プログラム参加状況・サブスク年次で手数料率が分岐
 Small Business Program/Mini Apps Partner/Video Partner/自動更新サブスク2年目以降⇒10%
 デジタル商品・サービスの販売(上記プログラム参加者とサブスク2年目以降を除く)⇒21%
 ○Apple In-App Purchase利用時の手数料5%がのる

●導入・運用上の注意点
 ○Apple Developer Program新規約への同意が必須(期限:2026年3月17日)
 ○ガイドラインに沿った開発が必要

注意点①:代替決済を出すなら、IAP併記が必須
 ○アプリ内で代替決済を提供する場合、購入選択肢としてApple IAPも同時に提示が必須

注意点②:取引追跡と月次レポート提出が必須(翌月15日まで)
 ○目的:適用手数料の計算・徴収のため、代替決済取引を追跡し、Appleへ報告する義務。
 ○期限:暦月末の終了後 15日以内 に月次で提供。

注意点③:ユーザー年齢に応じた外部オファー・導線制約あり
 ○年齢帯に応じて、外部オファー/導線・同意取得(ペアレンタルゲート等)を含む制約が存在する

今回のAppleの発表について中野氏は、「“外部決済手数料が15%”という数字だけを見るとインパクトが強いが、実際には決済代行手数料や実装にはかなり条件付きなので内容をよく理解する必要がある」と説明しました。

IAP(アプリ内課金)の手数料率見直しにより、代替決済・外部決済・IAPが混在する複雑な体系になったため、まずは自社アプリがどの手数料率・どの前提条件に当てはまるのかを正確に把握することが、Apple対応の出発点になりそうです。

Googleの場合

●外部決済手数料:20%
 ○対象:日本ユーザー限定、企業デベロッパーのみ(個人事業主不可)、13歳以上対象アプリ
 ○課金対象期間:ユーザーのリンククリックから24時間以内の取引
 ○決済代行手数料:Google手数料に加えて決済代行(カード/ウォレット等)の手数料が上乗せされる
 <適用対象>
 自動更新サブスク/年商100万ドル以下事業者:10%
 その他デジタルコンテンツ:20%

●IAP(アプリ内課金):30%
 ○サブスク年次で手数料率が分岐
 通常、サブスク初年度 ⇒30%
 サブスク2年目以降⇒ 15%

●Googleで外部決済(代替オプション)を進める手順
 ○申告フォーム提出し、利用規約同意する必要あり
 ○外部決済API統合 → Play Console登録

●外部決済の技術要件
 ○Google提供の外部決済API統合が必須
 ○Google Play決済との併用必須(外部決済のみは不可)
 ○取引レポート機能の実装(原則24時間以内)
 ○カスタマーサポート体制・返金プロセスの整備が前提

注意点①:ストアページ・アプリ内プロモーションでの外部決済訴求は原則NG

注意点②:外部決済リンク先・導線・表現に厳格な制約あり

注意点③:外部決済と「ユーザー選択型決済」の併用は不可

注意点④:利用可能なのは Google Play+外部決済APIの併用のみ

中野氏はGoogleの発表について、「Apple以上に技術要件と運用ルールが細かく定義されている」点を強調。外部決済は20%と明示された一方で、Google提供の外部決済APIを必ず経由する設計となり、Google Play決済との併用が前提であることが明確になっています。

また、ストアページやアプリ内導線で外部決済を直接訴求することは制限されており、「マーケティング施策としてどう使えるかは、まだ解釈が固まりきっていない」と指摘しました。

Repro中野氏

公取委・鈴木氏を迎えたディスカッション:「線引き」をどう理解するか

続いて、公正取引委員会の鈴木参事官を迎え、Reproの中野氏・平田氏を交えたディスカッションが行われました。

冒頭の中野氏によるApple、Googleの示した内容を踏まえ議論の中心となったのは、「どこまでやれば手数料対象で、どこまでなら手数料が発生しないのか」という導線設計の線引きです。

鈴木参事官(公正取引委員会)とReproの中野氏・平田氏
▲Apple/Googleのアプリストア関係手数料等一覧(公正取引委員会当日配布資料より)

▲Apple/Googleのアプリストア関係手数料等一覧(公正取引委員会当日配布資料より)

文字列誘導で、リンクがなければ“手数料ゼロ”になり得る

最大のポイントは、「文字列による誘導」の扱いです。

Apple、Googleの示した内容を踏まえれば、アプリ内において「外部ストアがあります」「そこでお得に購入できます」といった文言を文字情報として記載するだけで、具体的なリンク(URLリンクボタン)を設置しない場合は、そこで行われる外部ストア決済についてApple/Googleへの手数料は発生しないと考えられるという結論に至りました。

具体例な方法

●アプリ内のストア/設定画面に「詳細は公式Xのプロフィール欄をご覧ください」と文字だけを記載する

●実際の購入先リンクはXや公式サイト側にのみ置き、アプリ内では検索ワードやURL文字列を示すに留める
⇒この場合、アプリから直接外部決済サイトへリンクしているわけではないため、Apple/Googleが規定する「リンクアウトによる手数料」には該当しない、と整理できます。

要は、「リンクではなく文字列で、外にあるお得な購入窓口を知らせる」という方法が、手数料ゼロで外部決済に誘導する新しい実務的オプションとして浮上した形です。

平田氏はこれを受けて、「リンクを踏ませずに決済させる導線を持てるかが勝負になるだろう」と述べ、「インターネットビジネスをやってきた人にとっては、“アフィリエイトリンクのないアフィリエイト”のような発想で、工夫できる余地があります。」と整理しました。

なお、Googleについては、文字列案内は同様に整理できる一方で、外部決済を提供する場合は外部決済プログラムへの登録が必須であり、未登録の外部決済は規約違反となる点が注意事項として共有されました。

代替決済は割に合うのか:残り“数%”で運用コストを吸収できるか

代替決済・リンクアウトを導入する経済合理性も、議論の大きなテーマに。平田氏は、複数のゲーム・サブスクリプション事業者と意見交換した結果として、次のような試算を共有しました。

【想定されるシナリオ】

リンクアウトで外部決済を案内した場合:

Apple手数料:15%
決済事業者手数料:5%
⇒ 合計20%が先に差し引かれる

さらに、
・ウェブストア運用(開発/保守/分析)
・キャンペーンコスト(外部優遇価格等)
・代替決済トランザクション処理(報告/経理)

などが発生することを考慮すると、IAP(26%)との差分(仮に6%)では吸収できないと考え撤退を判断するケースが多いのではないか?

これに対し鈴木参事官は、今回発表された内容について、「現行の水準が十分ではないと考える事業者の方々もいると思います。引き続き事業者から情報を集め、実質的にアプリ外決済を妨げていないかを検証していきたい」と述べ、今後も検証と協議を続ける姿勢を示しました。

Q&Aで参加者から出た疑問

参加者から寄せられた実務的な質問と、公取委/登壇者の回答をまとめました。

Q1:BtoB請求書取引は手数料対象か?

A: アプリとは別経路での法人向け請求は、手数料対象ではありません。従来どおりの請求スキームが適用されます。

Q2:オフラインイベントでのシリアルコード配布は可能か?

A:事例の詳細によりますが、問題なく実施可能な場合があります。ただし、外部決済APIと組み合わせる導線の場合は設計配慮が必要です。

Q3:アプリ内から公式サイトリンク→ウェブストアという導線は許容されるか?

A:場合によっては「外部決済サイトへの直接誘導」と判断される可能性があると思います。ケースバイケースの判断となると思われるため、公取委に個別に聞いていただければ、可能な範囲で対応します。

Q4:タブレットアプリ(iPad/Androidタブレット)はスマホ新法の対象になるか?

A:スマホ新法は「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェア」を対象としており、現時点ではタブレット端末は規制対象に含まれていません。そのため、タブレット専用アプリやタブレット向けUIにおける決済・導線については、本法に基づく外部決済ルールや手数料規制の直接的な適用対象外となります。

ただし、スマートフォンとタブレットで同一アプリ・同一決済導線を共通実装している場合は、スマートフォン側のルールに引きずられる可能性があるため、設計・表現の切り分けには注意が必要とされました。

鈴木参事官は、典型事例が蓄積されれば、考え方を整理したものを公表することも検討していきたいとしつつ、まずは事業者側から事例共有してほしいと呼びかけました。

▲公正取引委員会の鈴木参事官

Repro代表・平田氏が語る、経営目線での本質整理と実践のヒント

イベント最終部で平田氏は、経営・事業戦略の視点からこの変化をどう捉えるべきかを整理しました。

「手数料という点だけで判断すると、外部決済導入が魅力的に見えるかもしれません。ただし、それは単純な減算ゲームではない。運用負債・税務対応・カスタマーサポートを含めた総合コストの観点で評価すべきです。」と意見を示しました。

【アプリ事業者にとって想定すべき追加負担の一例】

  • 税務対応(徴収・納付責任)
  • 代替決済トランザクションの記録・集計・報告(Appleの場合、月末から15日以内のレポート提出が必須)
  • 返金や購入履歴確認などのサポート体制
  • ウェブストアの開発・保守
  • KPI設計と人材配置
▲Repro平田氏

外部決済は単なる“手数料の差分”ではなく、事業オペレーションの形を変える意思決定です。「数%の改善余地」でこれらを賄えるのかは事業モデル次第であり、“外部決済をやらない”という選択も合理的になり得るという整理でした。

「リンクに頼らない」接点づくりが、中長期の最重要テーマになる

ディスカッションで明確になった文字列誘導の線引きも踏まえ、平田氏は、リンクアウトに頼らず外部導線を成立させるには、アプリ外でユーザーに情報を届けられるチャネルが鍵になると述べました。

設計されたマーケティングプロセスが必要であり、鍵になるのは、アプリ外決済を“ECと同じ構造”として捉え、KPIと施策を分解して積み上げることだと説明。

具体的には、次のような接点強化が挙げられました。

設計パターンとして有効な選択肢

  • アプリ内でのメールアドレス取得(クーポン配布などをフックにする)
  • メール/プッシュ/LINE等でのウェブストア案内
  • 公式X/公式サイトを起点にした「文字列誘導+外部リンク」の組み合わせ

これらは、外部導線が手数料対象にならないという現状ルールを最大限活かす方法であり、マーケターとしては最優先で検討すべき事項です。

「リンクに頼らない」ための具体的手段と実践ポイント

まず重要なのが、ファーストパーティデータの獲得です。アプリ内やウェブストア訪問時に、メールアドレス取得を最優先のゴールとして設定します。

その際、「登録してください」ではなく、無料アイテム付与やトライアル延長など、明確な対価を提示することが前提になります。いわゆる“コアラマットレス方式”として、訪問後数秒でシンプルなポップアップを出し、インセンティブと引き換えに接点を獲得する手法を紹介しました。

次に、外部決済ファネルの最適化です。文字列誘導→公式サイト→会員登録→決済という流れでは、各段階で大きな離脱が発生します。特に多いのが「決済手段が合わない」「このサイトで支払って大丈夫か分からない」という不安です。PayPayなど主要決済手段の用意に加え、遷移前・遷移直後に「公式サイトであること」「安全性」を明示するUI設計が、CVRに直結すると述べました。

さらに、インセンティブは一度で使い切らないことも重要な示唆です。増量・値引き・キャッシュバックを段階的に用意し、どこで動くかをABテストで検証する。特にキャッシュバック施策は、これまで一切課金しなかった層を初回課金に転換させる効果が確認されており、「F2まで到達すれば、その後のLTVで十分回収できるか」を基準に判断すべきだと整理しました。

最後に、平田氏は「アプリ内で完結していた課金体験とは別の競技が始まった」と表現します。今後は、メール・SNS・コミュニティなどを使った継続的な関係構築が、手数料を抑えて収益を最大化するための前提条件になります。

スマホ新法対応は、単なる決済ルートの選択ではなく、事業者自身がユーザーとの直接的な関係を再設計できるかどうかが問われている、と結論づけました。

公取委への情報提供・個別相談を有効活用し「攻めの選択肢」へ

公取委が申告フォームを設け、事例提供を求めている点についても、平田氏は「攻めの選択肢」として整理しました。

コスト構造の悪化や、実務上妨げられていると感じる事例、運用の不公平感などを具体的に共有することが、将来的なルール見直しの材料になります。グレーゾーンは抱え込まず、早めに相談し、事例を積み上げることが重要だとまとめました。

▲スマホ法違反被疑事実についての申告窓口([公正取引委員会公式サイト](https://www.jftc.go.jp/soudan/shinkoku/online_shinkokusumaho.html))

▲スマホ法違反被疑事実についての申告窓口(公正取引委員会公式サイト

この変化をどう捉えるか

今回施行された「スマホ新法」は、単なる法令対応ではありません。Apple/Googleの新ルールは、短期的には混乱とコスト懸念を生みますが、文字列誘導・外部導線設計の再定義という新たな戦略的選択肢を生み出しています。

本稿を通じて、現時点での情報を最大限に整理しましたが、Apple/Googleの具体的な適用詳細は段階的に変化する可能性があります。継続的な情報収集と、実務での迅速な検証・意思決定を強く推奨します。