2024年は少々落ち着いた様相を呈していた動画配信(以下「VOD」)市場ですが、2025年は早速、新たな動きが見えています。
アプリ専門サイト「アプリブ」でもVODアプリは注目するカテゴリーのひとつ。
VOD市場のこれまでと2025年の予想をまとめました。
Netflixの座を揺るがすか? TVerの地位確立とショート動画の伸び。2025年、VOD市場の動きと期待
2024年の「落ち着いた様相」までを振り返る
VODの進化は2000年代から語らないといけないので詳しい話は割愛しますが、元々はレンタルショップにDVDを借りに行っていたのをインターネットで行えるようにしたのがVODです。
筆者自身の体験としても、それまで誰かの返却待ちとか、家の近くのTSUTAYAでは置いてないとかで「見たいのに見られない」とあきらめなくてもよくなった画期的な出来事でした。
また、定額を払えば見放題というスタイルを築いたことで、映画は休日に楽しむものから、気軽にいつでも楽しめる存在へと変化。
2010年代にはVODの各サービスが、作品の独占買付を強化したり、オリジナルの作品を制作したりといった、ラインナップでの独自性を追求したことで、「あの作品を見るためにVODを契約しよう」という動きが加速。
その後、コロナ禍の巣ごもり需要やスマートTVの発展が市場をさらに拡大させ、2023年には「動画作品を見るならVOD」ということが常識といっても過言ではない状態になります。
そして2024年、それまでの成長が激しすぎたせいか、この年は市場が少し落ち着いたように感じました。
現状のVOD市場
現状、各サービスの特色はどうなっているのでしょうか。
特にどんな作品を扱っているのかという目線でVODサービスをジャンル分けし、カオスマップを作成してみました。
NetflixとU-NEXTが一歩リード
あくまで取り扱っているラインナップや話題性、視聴者の満足度でVODサービスを見ていくと、『Netflix』はその強力なオリジナル性を武器に多くのユーザーに強く支持されていることがわかります。
最近でも『地面師たち(2024年7月配信)』『極悪女王(2024年9月配信)』『イカゲーム シーズン2(2024年12月配信)』などヒット作品を連発していますし、少々前にはなりますが『愛の不時着(2019~2020年配信)』や『サンクチュアリ-聖域-(2023年配信)』『トークサバイバー!〜トークが面白いと生き残れるドラマ〜(2022~2024年配信)』は作品が話題になって加入者を増やした例といえるでしょう。
そして、日本で支持されているサービスといえば、ラインナップの数が多く、扱うジャンルのバランスもいいと定評の『U-NEXT』。動画コンテンツだけでなく、絵本や漫画、雑誌もあるという守備範囲の広さを評価する声は少なくありません。
同じく総合に置いた『Amazonプライムビデオ』も近しいポジションにはあるものの、オリジナル作品がバラエティに寄りすぎている点と、無料で見ることのできた作品が急に課金のレンタルに変わる不安定さがマイナスポイントとなりました。
「NetflixとAmazonプライムビデオ」、「U-NEXTとAmazonプライムビデオ」のように併用するなら不足はなくなりますが、せっかく併用するなら「NetflixとU-NEXT」が今のところおすすめです。
ジャンル特化は必然的に
また、カオスマップは違うベクトルでも分けることができます。大きく2つ「ジャンル特化型」とそれ以外の「オールジャンル型」です。
オールジャンル型の代表格、NetflixやU-NEXT、AmazonプライムビデオというVOD市場で認知を取っている存在がある中で、それらが扱わない作品を配信するジャンル特化型でなければ、その他のサービスが戦うのは、正直、厳しい。
ジャンル特化で生き残りを図っているという言い方をする人もいますが、韓国・中国のドラマやミニシアター系の作品を見たいのであればU-NEXTやNetflixよりもジャンル特化型のほうがラインナップは充実しており、映画好きからすれば、そういうニッチなマーケットニーズに応えてくれる貴重な存在になっています。
Netflixが強い市場で、今伸びているVODサービス
市場で大きな存在感を持つNetflix。2024年の市場は落ち着いているように感じましたが、やはりその座をおびやかすサービスも出てきています。
今、注目のサービスを紹介しましょう。
伸びつづけるTVer
全国の800以上のテレビ番組が無料で見られるサービス『TVer』は、累計で 8,000万、2024年は1年で1,300万ダウンロードを獲得したそうです。
この伸びは、テレビ番組を「放送時間に合わせてテレビの前に集まる」視聴方法ではなく、スマホさえあれば「好きなタイミングに好きな場所で見られる」というスタイルで提供したこと、自宅のテレビでは不可能な全国のテレビ局の800番組を扱っていること、さらに、視聴期限による視聴習慣を植え付けたこと、そしてCMはあるにせよ「無料」で視聴できることにあると思います。
TVerは、テレビ局や他のVODサービスでは真似できない唯一無二の存在になっているといえるでしょう。
これから伸びるのはショート動画ジャンル
そして、2025年、VOD市場に変化をもたらすであろうジャンルがショート動画です。
2025年1月現在、すでに韓国、中国のショート動画作品を提供するサービスが人気の傾向にあり、さらに、日本の作品を扱う『BUMP』が国内最大級としてダウンロードを伸ばし、『Hulu』でも日本テレビの番組と連動してショート動画を強化しています。
これまでもショート動画はSNSの『TikTok』や『YouTube』で配信されていましたが、ここにきてVODサービス自体も認知され、しっかりとビジネスとしての形が整ったというところでしょうか。
今後、まだショート動画を扱っていないVODサービスでも「ショートドラマ」「ショートムービー」を独立したカテゴリーとして扱っていくと思われ、これは2025年以降に大きく市場を揺るがすものになりそうです。
今後のVOD市場の予測と期待
今、注目しているサービスは上記で書いた通りですが、では、市場の変化はどのようになるのでしょうか。
ショートの取り扱い強化により、リレー式に契約をする?
ショート動画は長編よりも制作費がかからないことからオリジナル作品を作りやすく、独占買付をしたとしても金額も抑えられます。ですから、もし、各VODサービスがショート動画に力を入れ始めた場合、配信作品の差別化がさらに激しくなると思います。
そうなると、話題の作品を追いかけようものなら、いろいろなサービスをリレー式に契約したり、これまでよりも多くのサービスに契約したりといったことが必要になるかもしれません。
楽しみなのはAIの進化によるひとつ先のレコメンド機能
この先、楽しみなのはレコメンド機能の進化です。現状の視聴履歴に基づいたものから、もっとユーザーに刺さる作品を提案してくれるようになると期待しています。
以前、ユーザーが今、移動中なのか寝る前なのか、休みなのか仕事終わりなのかなどの状態に合わせておすすめ作品を提案してくれるようになるという記事を目にしました。ですが正直、見たい作品はそこまで状況にとらわれない認識を持っています。
それよりも筆者が期待しているのは、ユーザーの心理に刺さる出合いです。
作品はたくさんあるけれど、しっかり探せないし、全部は見られません。貴重な1本を本当にユーザーが求めている存在にしてくれるか。例えば、「最近ストレスがたまっているから、涙活のために泣ける映画の『〇〇』はどう?」「流行りを語るのが好きなあなたは『〇〇』見ておいたほうがいいよ」といった新たな提案が可能になってくるのではないでしょうか。今後の進化に引き続き期待します。
(文・伊藤真二)