2025年11月13日、Brazeが主催するリアルとデジタルを融合した顧客体験(CX)の高度化およびAI・リアルタイムデータ活用をテーマにしたカンファレンス「Braze City x City Tokyo ~デジタル・ボディランゲージ x AI で実現する次世代CX~」が開催されました。
本記事では、本イベントのセッションの1つ「贈り手と受け手の“両想い”を叶えるTVerのCRM戦略」の模様をお伝えしていきます。
【イベントレポート】贈り手と受け手の“両想い”を叶えるTVerのCRM戦略【Braze City x City Tokyo】
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国内最大級の民放公式テレビ配信サービス「TVer」は、9,000万ダウンロードを突破し、月間4,120万のユニークユーザー(MAU)と月間5.4億回の動画再生数を誇り、約800本もの番組を常時提供しています。
コンテンツ量が非常に多く配信期間も原則7日間と短いため、視聴機会を逃しやすいという課題があります。こうした中、サービス事業本部 PR部の後藤 雄大氏、松村 優衣氏が登壇し、ユーザーとサービスの“両想い”を実現するための同社CRM戦略を語りました。
Braze導入の決め手は配信性能とセグメント設計の柔軟性
後藤氏はまず、TVerがCRMプラットフォームとしてBrazeを採用した理由を紹介しました。
その決め手となったのは、大規模プッシュ配信に耐えうる性能(当時約2,400万通の一括送信が可能なこと)と、詳細なコンバージョン計測・セグメント配信の効率化と細やかな設計ができる柔軟性です。
また、完全手動で行っていた施策の一部を自動化し、工数削減を図れる点も重要だったと言います。
AIによるレコメンドの自動化で工数削減と効果向上
続いて松村氏から紹介されたのが、AIを活用したコンテンツレコメンド配信の自動化施策です。
特に番組数が多くセグメント設計の難しいバラエティ番組分野で、Brazeの「AIアイテムレコメンデーションズ」という機能を自社のデータ基盤(ビッグクエリ上の視聴ログや番組マスター情報)と連携し、週次・月次でレコメンドモデルを再構築してプッシュ配信(Braze Canvas)を自動運用しています。
導入するかどうかの判断のために社内でAI選定コンテンツと担当者の手動選定をABテストで比較したところ、いずれもAIのほうが高い効果を上げたため本格導入に踏み切ったと松村氏は明かしました。
この結果、番組やセグメントの選定や文言作成に費やしていた週8時間以上の工数がゼロになり、1日あたり配信できる番組数も平均4〜5本から約38本へと大幅増加。今まで届けられなかった番組もユーザーに届けられるようになり、プッシュ通知の開封率も 3.42%向上するなど成果が上がりました。
休眠ユーザーに効果的なジャンル別セグメント施策
4週間ログインや再生がない、休眠ユーザー向けには、ジャンル属性を活用したセグメント自動生成施策も有効だったと松村氏は話しました。
Brazeの新機能「コンテキスト」を用いて、各ユーザーが休眠前によく視聴していた番組ジャンルをカウントし、最も視聴頻度の高いジャンルごとにユーザーを自動セグメント化して配信を行ったところ、ドラマ・バラエティともに高い反応が得られました。
松村氏は「このジャンル別施策は今後他のジャンルにも拡大していきたい」と手応えを語っています。
「お気に入り番組」新着エピソード通知の完全自動化
ユーザーがお気に入り登録した番組に新エピソードが追加された際、これを知らせるプッシュ通知も最近になって完全自動化で実現できました。
従来は配信コンテンツ量の多さや局ごとに異なるメタデータ形式の複雑さから実施が難しかった施策ですが、サービス成長に伴い社内で必要なデータ整備と方針統一が進み、自動配信が可能になったといいます。
人の“推し”を生かす手動施策とキャッチコピー創出
多くの施策が自動化される一方で、「あえて手動にこだわる」取り組みも紹介されました。特にドラマ番組のレコメンド施策は、あえて担当者が手動でコンテンツ選定と配信文面の工夫を行っています。
ドラマはクール(放送クール=季節)ごとに完結する性質上、次の新ドラマへの橋渡しなど継続視聴を促す工夫が必要であり、単なるジャンルだけではわからない細かな“深み”などは現状のAIでは汲み取れないと考えています。
そのため、ドラマについてはドラマ好きの担当者が視聴したうえで、そのドラマの内容を汲み取った上で、おすすめするドラマを一つひとつ考えています。
実際、ドラマ施策では配信文言を工夫するだけでコンバージョンが32.2%向上した事例もあり、手間はかかるものの成果は大きいといいます。
また、リッチプッシュという画像付きのプッシュ通知もドラマおよび一部バラエティ番組で積極的に手動で活用しています。
こちらは番組サムネイル画像が不定期に更新される関係で現時点では自動化が難しく、担当者が毎日手動で最新画像をチェックして差し替える運用を行っているとのこと。「将来的にシステム整備が進めば自動化も検討したいが、現状は成果が出ているので手動で続けている」と松村氏は語りました。
AI×人力で磨くクリエイティブと継続的な改善
一方、プッシュ通知のキャッチコピー(文言)作成にはAIも活用しつつ、最終的なブラッシュアップは人間のセンスで行っています。
最後に松村氏は、「プッシュ通知は送りすぎるとユーザーに嫌われてしまう。だから1通1通を大切にし、私たち自身も楽しみながら施策に取り組むことが重要」という考えを示しました。
ジャンル愛あふれるチームメンバーの創意工夫と先端テクノロジーの活用によって、TVerはユーザーとのより良い関係を築き、まさに“贈り手と受け手が両想い”になれるようなCRMをこれからも追求していくことでしょう。
イベント概要
名称:Braze City x City Tokyo
~デジタル・ボディランゲージ x AI で実現する次世代CX~
URL:https://www.event-site.info/cbc2025/
日時:2025年 11月13日(木)12:15-19:30(受付11:45)
場所:ウェスティンホテル東京
〒153-8580 東京都目黒区三田1丁目4−1
主催:Braze株式会社