Adjust、Braze、Moloco、Moonplateが運営するモバイルアプリマーケター向けコミュニティ「MOBILE STARS」による第6回目となるイベント「MOBILE STARS Christmas 2025」が、2025年12月12日に開催されました。
本セッションでは、登山アプリ『YAMAP』の﨑村 昂立氏と、サブスクリプション管理プラットフォーム『RevenueCat』の上田 善行氏が登壇。
時に事例を山になぞらえながら、YAMAPにおけるサブスクリプション「YAMAPプレミアム」の成長戦略や、RevenueCatを活用した「ペイウォール(課金の壁)」の具体的な改善事例について語りました。
【レポート】山のように積み上げるサブスク成功体験 YAMAPが挑むペイウォール最適化とは(MOBILE STARS)
YAMAPとRevenueCatが手を取り合うまで
YAMAPは、ダウンロード数540万超*を誇る国内最大の登山・アウトドアプラットフォームです。その最大の武器は、電波の届かない山の中でもスマートフォンがGPSで現在地を特定できる「オフライン地図」機能で、登山の安全性を高めるインフラとして広く支持されています。また、利用者の登山記録は「活動日記」として日々蓄積され、それを次の登山の参考にする行動が生まれるなど、「登山ジャーニー」を支えているといいます。
一方、RevenueCatはアプリ内課金の実装・管理、および売上向上を支援するプラットフォームです。iOS、Android、Webなど複数プラットフォームの課金情報を一元管理でき、エンジニアでなくてもスピーディーに課金画面のA/Bテスト等を実施できるこのサービスは、世界中で5万以上のアプリで利用されています。
この2つがなぜ手を組んだのか。それは、YAMAPが収益の柱として位置づける「YAMAPプレミアム」の成長を推進するためでした。
登山への情熱を収益に変える YAMAPプレミアムの設計と「ペイウォール」の定義
YAMAPの有料サービス「YAMAPプレミアム」は、地図ダウンロードが無制限になったり、ルート外れ警告のように登山をより安全で楽しくする機能が使えたりするなど、主に登山頻度が高い方向けの機能を提供しています。そこで﨑村氏が重要視したのは、「もっと山に行きたい」という気持ちの高まりとともにプレミアムの価値を感じてもらい、自然に加入してしまう構造をいかに作れるかでした。
この無料と有料の境界線となる課金画面や課金への導線こそが「ペイウォール」です。
▲AIによるイメージ図(©YAMAP Inc.)
YAMAPプレミアムを山になぞらえて、AIに画像化させたというイメージ図が示すのは、以下の構図です。
・頂上:YAMAPプレミアムへの加入
・メインルート:エンゲージメント向上
・最後の壁:頂上の前に現れる課金という最後の難所
山における壁は困難の象徴。中でも、太陽が当たらない「北壁」は雪や寒さで非常に険しい「死の壁」ともいわれ、登攀には困難を要します。ペイウォールも、アプリビジネスにおいてはまさに北壁。そこで今日はペイウォールを「ペイ壁」と呼ぶと、﨑村氏は笑みを交えながら語り、どう登っていくのかについて解説を続けました。
▲株式会社ヤマップ 﨑村氏
ユーザー体験を損なわない戦略 「いつ」「どう」課金導線を見せるか
ペイウォールの攻略は、ユーザーの体験を阻害しないことが大前提です。実は過去、露出を増やすため頻繁にプッシュ通知を送った結果、アプリのNPS(推奨度)が低下してしまい、ストアレビューにも悪影響が出そうになったことがあるのだとか。ユーザーの気持ちやタイミングを考慮しないプッシュは、限定的な効果しか生まないことを学び、これらの教訓から、YAMAPでは単なる露出数ではなく、いかに最適なタイミングと表現を見つけるかに注力をしたそうです。
いつ課金訴求を行うか
WTP(Willing To Pay)を意識する
・ユーザーの気持ちの高まりを捉える(ユーザーは登山者であるが一生活者でもある)
・突然声をかけてもユーザーは振り向いてくれない
・YAMAPでいえば...
└山にいく計画をしているワクワクしている瞬間
└下山後、山の楽しかった思い出を振り返っている瞬間
└(ほかにも)年始は「今年はやろう」という気持ちが高まり、年プランに入りたくなる
文脈・導線の深さと浅さを意識する
・何の脈絡もないプッシュでは反応してくれない。ユーザーのアクションや状況に応じてペイ壁が現れることに徹底する
・導線が深すぎてはそもそも辿り着けないが、浅すぎては文脈をつくりきれずCTRが上がらない
・そもそも導線が深い機能は利用率も上がらず、当然ペイウォールも表示されない
└特に設定を自身で行う系の機能は要注意(YAMAPでいえば、ルート外れ警告など)
間違いなく「加入できる場所」を記憶してもらう
・ユーザーが「ここに行けば入れる」という場所をわかりやすいところにつくる
・その場所をユーザーが記憶することが大事。そのため、安易に場所は変えない方がいい
└「コーラ飲みたい」→「自販機かコンビニ行こう」と無意識に行動できるような状態をつくっておけるか
・YAMAPでいえば、マイページからの加入が多い
まず重要なのはタイミング。ユーザーの気持ちが高まっているときにコミュニケーションを取ることはもちろん、そのための導線設置も考慮が必要です。
また、登山前後以外にも、寝る前にアプリを見て山のことを考えるなど、通常の生活中にもコミュニケーションのタイミングがあることを忘れがちなので、そこも大事にしていると語りました。
どう見せるか
前の画面とペイ壁画面の関係性(ex. なぜペイ壁に飛んでいるのか?)をつくる
・「なぜ今自分はペイ壁を見ているのか?」と思われてはだめ。ユーザーの頭の中に「?」が一瞬でも浮かべば離脱の原因となる
・管理工数を考えると、各種導線を共通のペイ壁でまかないたくなるが、ユーザーがちゃんと状況を理解できるようにペイ壁を使い分けた方がユーザー体験としても数字としてもポジティブ
決済画面までの遷移をできるだけ減らす
・当然ではあるが大事。CVRの向上という意味で再現性が高い
・ただ、上で示している通り文脈の説明を省いてOKという意味ではない
└ユーザーの不本意な加入など、ダークパターンに陥らないよう細心の注意
アンテナを張って、試せるものは試す
・ペイ壁はアプリ課金の全てを通るメインストリートだけに、CVRが改善すれば貢献度が大きい
・他社のアプリを使ったり事例を集めたりして、良いと思ったものは抽象的に整理してからテストしてみる
└ジャンル、ユーザー層、アプリの時間軸や頻度などの差異を無視してそのまま採用してもうまくはいかない
▲MOBILE STARS Christmas 2025 登壇資料より
その次は表現と導線です。 無料の上限に到達したユーザーに対し、画一的なペイウォール(ペイ壁)を出すのではなく、どの機能を利用していたかによってメッセージやクリエイティブを出し分けるパーソナライゼーションが求められます。
とはいえ、管理工数を考えると、汎用的なものを1個作ってそこに全部飛ばしたいと思いがち。しかしRevenueCatを使うことで、画像のように簡単に複数の画面を作成・管理できたといいます。
RevenueCat導入でエンジニア依存を解消
▲MOBILE STARS Christmas 2025 登壇資料より
導線管理の懸念をクリアしたRevenueCatは、YAMAPのほかの課題も解決させました。
以前のYAMAPでは、ペイウォールの改善にはエンジニアのリソース確保が必要で、細かなテストをスピーディーに回せないという課題があったといいます。
しかしRevenueCatの導入で、エンジニアの手を借りずともテスト可能な状況に。マーケターとデザイナーだけで課金画面のクリエイティブ切り替えを完結できるようになったことで、仮説検証や施策を回すスピードが飛躍的に向上。上記画像にもある地図からの導線の事例では、「導線を短くすればCVRが上がる」というシンプルな仮説をRevenueCatで即座にA/Bテストでき、結果として10%以上のCVR改善につながっています。
ペイウォール最適化は終わりのない「山登り」
▲MOBILE STARS Christmas 2025 登壇資料より
セッションの最後、﨑村氏は「ペイウォールの最適化は、登山の何合目かわからないほど、終わりのない道のりです」と述べました。ユーザー体験を阻害せず、適切なタイミングと表現で価値を伝え続ける姿勢は、まさにYAMAPの提供価値と重なります。
今後は、これまで培ってきたデータを連携させ、より高度な分析とパーソナライズされた体験の提供を目指していくとのこと。YAMAPプレミアムの成長という名の「山登り」は、これからも続いていきます。
アプリマーケターが集うコミュニティ“MOBILE STARS”
モバイルアプリマーケターのためのコミュニティイベント「MOBILE STARS」は、今回で6回目の開催となりました。本イベントは、Moonplate, Inc.を中心に、Adjust、Braze、Molocoといった運営企業が連携して運営しています。
MOBILE STARSでは、今後もマーケターにとって、学びとつながりが得られる場を継続的に提供していく予定です。今回のクリスマス特別企画は、Adjust、Braze、Moloco、Moonplate, Inc.の運営に加え、スポンサーであるRevenueCatとLiberteenz、そしてメディアパートナーであるアプリブの協力のもと開催されました。
アプリ業界の発展を願う多くの有志・関係者のご支援により、本イベントが実現していることに、この場を借りて深く感謝申し上げます。
次回のMobile Starsは2026年4月21日(火)に開催予定です。
アプリマーケティングに従事するみなさんの成長に貢献できるコミュニティとして、今後も継続的にこうした場をつくってまいります。