『日経トレンディ』12月号の「ヒット予測2025」にアプリとして唯一ランクインしたのは、テキスト通話アプリ『Jiffcy』でした。声を出さずに通話感覚でやり取りできるという新しいコミュニケーションスタイルが注目を集めており、2025年の大ヒットが期待されています。
その『Jiffcy』を手掛ける西村成城社長に、ヒットの背景や今後の展望についてインタビューを行いました。
『Jiffcy』ってどんなアプリ? 使い方や『LINE』との違いを具体的に知りたい方はこちら
テキスト通話アプリ『Jiffcy』が広げる新しいコミュニケーションの形とは? 2025年に向けた展望を社長に直撃
西村成城氏プロフィール
幼少期からシンガポールとタイに居住。各国の文化的違いを肌で感じ育った。大学生のときに起業、個人で開発したアプリの累計インストール数は400万、内75%が海外ユーザー。2018年1月株式会社穴熊を設立。2023年4月テキスト通話アプリ『Jiffcy』をリリース。世界150ヵ国以上で使われている。
『Jiffcy』を開発したきっかけは自分の引きこもり体験から
相手からの返信が届くのをただ待つしかない『LINE』のようなメッセージアプリと違い、『Jiffcy』は相手が応答した瞬間からやり取りが始まり、相手の入力をリアルタイムで確認しながら通話感覚でやり取りができるのが魅力です。
そんな『Jiffcy』を開発したのは、ご自身のある体験がきっかけだったと西村氏は語ります。
ー最初から若者(Z世代)の使うアプリとして狙っていたのでしょうか?
実は『Jiffcy』はマーケティング調査によって生まれたアプリではありません。私が実際に「こんなアプリが欲しい!」と思った経験から生まれたアプリなんです。
『Jiffcy』が生まれる前、私はさまざまアプリを開発していましたが、失敗が続き、落ち込んで家に引きこもっていた時期があったんです。
落ち込む中で、無性に友達と話したいと思ったんですが、通話をして話すような元気もない状態で……。かといってLINEで「いまひま?」などと送っても、なかなか返事はきませんでした。
数時間後に「どうした?」「何かあった?」と返事がきてもその時点では特に用事があるわけではなく、連絡したその瞬間に話がしたかっただけなので、何かが違ったんですね。そんなときに、通話ほどハードルが高くないけれど、今この瞬間に実際に会っているみたいに話せるアプリがあればいいなと思って生まれたのが『Jiffcy』です。
ー『Jiffcy』の名前の由来を教えていただけますか?
『Jiffcy』は瞬間という意味を持つスラングの「jiff」と、性質を表す接尾辞「-cy」を組み合わせた造語です。『Jiffcy』は今この瞬間の対面のようなコミュニケーションにこだわっているので、このような名前になっています。
ー実際にリリースしてみて、ユーザーの反応はどうでしたか?
リリースしてからいろいろな試行錯誤があったのですが、一貫して多かったのは対面で話しているような濃いコミュニケーション、本物のコミュニケーションにはかなり価値があるという声です。特に学生のときにコロナ禍を経験した学生や社会人には深く刺さっています。
『LINE』や他のメッセージアプリとの違い
コロナ禍を経てきた学生や社会人は、ほかのメッセージアプリと『Jiffcy』をどのように使い分けているのでしょうか。その実態について、運営側ではどのように見ているのか聞いてみました。
ーテキスト通話の応答率はどのくらいでしょうか?
応答率は75%で、従来の通話応答率よりも高い数値となっています。
従来の通話は環境によって発話できないことがあるのに対し、『Jiffcy』はあまり環境を選びません。また、音声通話は精神的なハードルが高いと感じる方が多いですが、『Jiffcy』はLINEのような気軽さで使うことができます
ー相手が応答してくれなかったとき、ユーザーは次にどんな行動を取るのですか?
応答してくれなかった場合のコミュニケーションとしては、緊急度が高ければ通常の通話が選ばれることが多いようです。『Jiffcy』を利用している人からすると、声を出しての通話は緊急事態のときに使うものという位置付けになっているんですよね。
そのため、例えば『Jiffcy』をあえてスルーした場合、その後に音声通話が着信するとおおごとが起こったシグナルを受け取ったことになり、対応するという感じになります。
ー『Jiffcy』の利用時間は、実際の通話と比べてどうですか?
テキスト通話の1回あたりの利用時間は、従来の音声通話に比べて何倍も長くなる傾向があります。
従来の音声通話では、家での通話中に家族が帰宅したり、徒歩での通話中に電車やバスに乗るタイミングになったりなど、環境の影響で途中で切り上げざるを得ないことが少なくありません。
一方『Jiffcy』は環境の問題で中断されることがほぼありません。さらに、声を出す必要がないので疲れにくいという利点があり、従来の通話より長いコミュニケーションが行われています。
ー当初は、トーク履歴が残らない仕様だったものが最近変わりましたよね。
私たちは当初、「残らないメッセージ」に価値があるのではないかと考えていましたが、実際は対面のようなコミュニケーション自体に価値があり、残らないこと自体に価値を感じる方は少なかったんです。
それよりも「仲が良い関係性の会話を後から見返せるようにしたい」という声が圧倒的に多かったので、トーク履歴を残すようにアップデートしました。
あえて招待制を廃止! 自由な利用へ切り替えた背景と戦略
リリース時に招待制を導入していた『Jiffcy』は、2024年7月にこれを廃止し、新規ユーザーがより使いやすくなっています。そこで、当初招待制を選んだ理由と、その後の変更の背景について深掘りしました。
ー招待制だと広がりやすい、などのマーケティング視点で招待制から始められたのでしょうか?
『Jiffcy』が当初招待制を採用した最大の理由は、安全面への配慮です。SNSは非常に便利なツールですが、一歩間違えると、不適切な目的で利用されるリスクもありますから。
そこで、最初から家族やリアルの友達、カップルで使うケースに絞り込みたいと考えました。その結果採用したのが招待制です。
利用するためにはすでに使っている人からの招待が必要。さらに招待できる人数を制限することで、数少ない招待枠をごく親しい一部の人に自然と割り当てる仕組みを構築しました。
ーそんな招待制を廃止された理由は何だったのですか?
一定期間、親しい人同士での利用に限定したユースケースを積み重ねた結果、『Jiffcy』は「リアルな親しい人と使うSNS」というイメージを確立することができました。
そして、口コミの多くが「親しい人と使う」という前提で広まったタイミングで、招待制を終了するに至りました。現在でも『Jiffcy』を出会い目的で利用する人はほとんどおらず、リアルな関係を重視した利用スタイルがしっかりと根付いています。
『Jiffcy』は30代、40代にも広がるか
現在は若者世代がユーザーの多くを締めている『Jiffcy』ですが、今後大人世代や海外への展開はどのように考えているのかを伺いました。
ーユーザー層を30代、40代以降の世代に広げていくことはお考えですか?
『Jiffcy』は30代、40代以降の世代に広がっていくと私たちは確信しています。 具体的な認知拡大方法として、まず若者層に浸透させ、その後、上の世代に広げようと考えています。
若者から上の世代に急速に広がっていくという現象は、SNSでは世界的に多く見られる現象です。『Jiffcy』でも実際に、学生が『Jiffcy』を使い始めて親に『Jiffcy』を広める、といったことが起き始めています。
ー海外での人気も高まっているそうですが、日本と海外、国ごとで使い方に差はありますか?
例えば、アメリカでは文化的に電車の中で通話をすることができるんですよね。なので「電車の中だから」というのは『Jiffcy』を使う理由にはなりません。
一方、「通話内容を聞かれたくない」「楽だから『Jiffcy』を使いたい」というニーズは世界共通ですね。
2025年はグループ通話の復活やAndroid版リリースの予定も
最後に、機能のアップデート予定ついてお伺いしました。
ーグループ通話が廃止された背景には、「大人数だと読みきれない」「発言の待ち時間が発生する」などの声があったのでしょうか?
グループ通話は、一度使うとやめられないほどの中毒性があり、大変好評でした。リアルなコミュニケーションに近いため、全員の会話をすべて読みきれなくても自然に話が進みます。また、複数のテーマで会話が同時多発的に展開することもあります。
現在は一時的に停止していますが、近々機能を強化して復活する予定ですので、ぜひ楽しみにしていてください。
ー最後に、Android版のリリースを待ち望んでいる方が多いと思うので、予定の目安があれば教えてください。
2025年を目処にリリース予定となっています。
『Jiffcy』Android版リリースに向け、ウェイティングリストを用意しているとのこと。希望の方は申し込んでみては?
Jiffcyジフシー テキスト通話アプリ Real Time
『LINE』を超えるスムーズなやり取りで新たな可能性
実際に『Jiffcy』使ってみると、『LINE』よりもテンポよくやり取りができて、「返信を待つ時間がない心地良さ」を感じました。通話とLINEの中間的なツールとして、緊急度に応じて使い分けられる存在となり、今後さらなる成長が期待されるアプリだと言えるでしょう。
(文・清 仁美)
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