2026年9月9日、アプリグロースの最前線をテーマに、アプリマーケティングを支援するReproとAdjustが共催した「App Marketers' Festa 2026」に、全国45都道府県に700店舗以上を展開し、店舗数日本一を誇る「カラオケまねきねこ」(株式会社コシダカ)から、事業開発部の横井研二氏と田口吉洋氏が登壇しました。
「カラオケ行こう」を「まねき行こう」に変える“指名来店”を生むアプリ戦略、をテーマに、コモディティ化が進むカラオケ市場でいかに「指名来店」を生み出すか、同社のアプリ戦略が語られました。店舗を構えながらも他社との違いが伝わりにくいと悩む企業にとって、明日からの施策に活かせるヒントが詰まった当日の模様をお届けします。
【レポート】カラオケまねきねこが示す、コモディティ化を破り「指名来店」を生むアプリ戦略(App Marketers' Festa 2026)
株式会社コシダカ
登壇者プロフィール
株式会社ボルテージへ新卒入社し、ゲームマネジメントに従事。株式会社レットや株式会社ユアマイスターでのPdM・マーケティングを経て、2024年4月に株式会社コシダカデジタルに入社。現在はアプリ・会員基盤・店舗DX・CRMなどを横断し、顧客体験と事業成果の両立を目指したプロダクトづくりに取り組む。店舗DXやAI活用、ゲーミフィケーションなどに関心を寄せる。趣味はアカペラ。
「こだわりがない」利用者が過半数を占める市場でいかに「指名来店」を生み出すか
冒頭、マーケティングを担当する横井氏から、カラオケ業界が直面する構造的な課題が提示されました。それは「強烈なコモディティ化」と「顧客のこだわり不在」です。
同社の調査データによると、カラオケ利用者の3〜4割は「店舗ごとの違いがわからない」と回答しており、利用するカラオケ機種へのこだわりまで含めると、「機種にこだわりがない」と答える利用者は実に約6割にのぼります。
さらに、二次会などの利用において「その場で同行者に誘われてなんとなく同伴しただけ」というユーザーが全体の85%を占めるとのことです。
▲アンケート調査の結果(株式会社コシダカ 登壇資料より)
全国700店舗以上という店舗網によって「まねきねこ」というブランドの認知度は極めて高い状態にあるものの、「カラオケに行こう」「今週末出かけよう」といったタイミングで、いかに最初に頭に思い浮かべてもらうか、そして自社を選んでもらうかは最大の課題だといいます。
▲横井研二氏(株式会社コシダカ 事業開発部 グロースマーケティング課 課長)
このコモディティ化を破るため、同社ではターゲットごとに刺さる独自の差別化施策を展開しています。
例えば、高校生向けに平日の室料が無料になる『ZEROカラ』、大学生・専門学生向けにセルフでお酒が飲み放題になる『セルフアルコールバー』、さらにはPairsとコラボしたマッチングイベントやスポーツの試合を大画面で楽しめるパブリックビューイングなど、ターゲット層ごとの生活スタイルに寄り添った多彩な施策が並びます。
▲カラオケまねきねこによる多彩な店舗施策一例(株式会社コシダカ)
事例1:アプリを起点にリアル店舗行動を後押し、店舗運営放置ゲーム「ポケまね」
競合ひしめく市場で指名来店を促す施策として、プロダクトマネージャーの田口氏から紹介された1つ目の具体事例が、公式アプリ内に組み込まれたゲーム「ポケまね」です。
「ポケまね」は、ユーザーがゲーム内でまねきねこの店長となり、店舗を育てていくシミュレーションゲーム(店舗運営放置ゲーム)です。一見すると自社キャラクターを使った普通のミニゲームに見えますが、その真価は「ゲームの進行とリアル店舗での顧客行動が連動している点」にあります。
▲公式アプリ内のゲーム「ポケまね」における改善事例(株式会社コシダカ 登壇資料より)
ユーザーがアプリ内のゲームで自分の店を育てるにあたって、店舗での行動がそのまま有利になるという仕掛けにすることで、ゲームが「送客装置」として機能しています。
「ポケまね」の仕掛け
店舗来店連動:実際の店舗に来店すると、ゲーム内の放置報酬や売上倍率がアップ(来店回数に応じて倍率が上がっていく仕組み)
メニュー注文連動:店舗で実際に「ポテトフライ」を注文すると、ゲーム内のポテトアイテムが生み出す収益効率がアップ
自社端末連動:自社オリジナルカラオケ機種「E-bo」の部屋で歌うと、ゲーム内売上がさらにブーストされる
リリースから1年弱が経過し、店舗送客の売上として月間4桁万円、アプリのMAUも平均5〜10万人を維持できており、広告費を一切かけないマーケティング施策として高い成果を上げています。
▲ポケまねにおける改善事例_効果測定(株式会社コシダカ 登壇資料より)
「ポケまね」による成果
店舗送客売上効果:月間で4桁万円規模の送客売上を創出。
アクティブユーザー:MAU(月間アクティブユーザー)で5万〜10万人を常時維持
獲得コストゼロ:自社アプリの既存ユーザー基盤を活用しているため、外部広告費は一切なし。さらにゲーム内の課金や広告収益により、ゲームの運営費自体も単体黒字回収
また、ゲームの報酬を「店舗に来店すると回収しやすくなる」仕組みへ改善したところ、それだけでプレイ回数が大きく伸びたとのことです。単に「店舗に来ると得をする」というわかりやすさが、ユーザーの行動を後押しするカギになったといえます。
さらに特筆すべきは、オフライン店舗における効果計測の設計です。
「ポケまね」を開始したユーザーと、同時期に開始しなかったユーザーの前後の来店回数差分を比較検証。季節要因を排除するため、同じ条件で始めた人と始めていない人の差分を見る形で分析した結果、「ポケまね」をプレイしているユーザーは、開始前後で月間の来店回数が増加していることが確認できたといいます。
これに対し、Adjustの高橋氏から「アプリの起動率を上げるために占いやニュースなどのミニ機能を入れようというアイディアになりがちですが、なぜ放置ゲームだったのか」という質問が飛ぶと、田口氏は設計思想を明かしました。
「理想は毎日アプリを開いてもらうことですが、カラオケアプリの構造上、毎日の起動を強要するとユーザーは疲れてしまいます。コンセプトは『長くゆるく続けてもらうこと』です。ゲームのことを忘れていても、1ヵ月後に店舗に来た時にアプリを開けば、放置されていた売上が溜まっていて、すぐに続きが遊べる。毎日の起動を求めない余裕のある設計だからこそ、長期間のエンゲージメントが維持できると考えています」
▲田口 吉洋氏(株式会社コシダカ 事業開発部 プロダクト課 課長)
そして、「ポケまね」の利用者は、まねきねこ全体の利用者数と比べるとまだ一部にとどまっており、この裾野をどう広げていくかが今後の課題だとし、「将来的には広告出稿による新規獲得も選択肢になりうるとしつつ、現時点では課題が残っているため、まずはそこを解消することが先決」と語りました。
店舗に来ていなかった人が、ポケまねを気に入ったことをきっかけに店舗に足を運ぶようになる――そんな流れが実現すれば、既存顧客のロイヤリティ向上にとどまらず、新規顧客の獲得チャネルとしてもゲームが機能する可能性があるといえます。
事例2:自社オリジナル機種「E-bo」連動イベント――歌唱数を跳ね上げる熱狂体験
続く事例として発表されたのが、カラオケをはじめとしたさまざまなコンテンツが楽しめるまねきねこのオリジナルカラオケ機種「E-bo(イーボ)」とアプリを連動させたイベント施策です。
E-boで歌唱すると、アプリ内に「うたポイント」が自動で蓄積され、クーポンや特典と交換できます。この仕組みを活用し、年間約10回にわたりアプリ内で「歌唱数ランキングイベント」が開催されています。
エントリー、リアルタイムランキングの確認、ポイント付与、クーポン交換までの一連のフローがすべてアプリ内で完結する仕組みで、歌い終わった瞬間にアプリ上のランキングが即時更新されるため、ユーザー同士の熾烈なデッドヒートが発生します。
▲「E-bo」を活用したイベント事例(株式会社コシダカ 登壇資料より)
実際に行われたイベントでは、2週間の開催期間中にランキングトップのユーザーが合計2,580回歌唱するという予想を超える記録が生まれました。1日平均約180曲、時間にして毎日約12時間歌い続けた計算になります。
このランキングイベントは1回あたり10万人以上が参加する規模に成長しており、歌唱数が増えるとルームに長く滞在してもらえるため、店舗の重要KPI向上にもつながっているといいます。
歌唱数が増えれば滞在時間が延び、結果としてフードやドリンクの注文量が増加、アプリ内のイベントを通じて顧客の「もっと歌いたい」「ランキングを上げたい」という熱狂を引き出し、店舗の滞在時間増へとつなげるプロダクトループが形作られています。
▲「E-bo」を活用したイベント事例の成果(株式会社コシダカ 登壇資料より)
また、直近ではカラオケの採点結果を活用した「デジタルビンゴイベント」もアプリ内で実施されています。先述の歌唱数ランキングとは異なり、運が左右する面白さがユーザーに好評だと紹介されました。
こうした企画のアイディアは、プロジェクトチームが日々顔を合わせて話す中から生まれるといい、オフラインでのコミュニケーション機会の多さが、スピード感のある企画立案を支えているそうです。
デジタルの領域だけに閉じこもるのではなく、全国700店舗を超えるリアルな現場とユーザー体験を直結させ、スピード感を持ってPDCAを回すコシダカの取り組みは、OMO時代のアプリマーケティングにおける有力な事例のひとつといえるでしょう。
イベント概要「App Marketers' Festa 2026」
日時:2026年9月9日(水)17:00-21:00
場所:赤坂インターシティ コンファレンス the Amphitheater
東京都港区赤坂1-8-1 4階
主催:Repro株式会社、Adjust株式会社
イベントページ:https://repro.io/events/20260909/
株式会社コシダカ 事業開発部 グロースマーケティング課 課長 横井 研二氏
新卒から一貫してベンチャー企業でWebサービスやアプリのデジタルマーケティングに従事。オンライン英会話サービス、訪日外国人向け旅行アプリ、留学サービスのスタートアップ/ベンチャー企業を経て、シェアフル株式会社へ入社。CM放映を含むマス戦略から広告運用による獲得領域、アプリインストール以降のグロース領域まで、マーケティングの全領域をフルファネルで経験し、マーケティング部のマネージャーとしてtoC・toB双方の獲得〜グロース施策の戦略立案や人材育成にも携わる。現在は株式会社コシダカ 事業開発部 グロースマーケティング課 課長として活躍。