2026年9月9日、アプリグロースの最前線をテーマに、アプリマーケティングを支援するReproとAdjustが共催した「App Marketers' Festa 2026」。本イベントのスペシャルゲストとして、株式会社ビックカメラ 営業企画部の齊藤志奈氏が登壇しました。
「売上至上主義ではない、顧客とコネクトし続けるアプリ体験」をテーマに、社内の要望や現場の声とどう向き合って意思決定しているか、機能を盛り込むのではなく削ぎ落としていく「引き算」の開発方針への転換など、全国に大型店舗を構える企業ならではの葛藤と工夫が赤裸々に語られた当日の模様をレポートでお届けします。
【レポート】ビックカメラ登壇、「売上至上主義ではない、顧客とコネクトし続けるアプリ体験」を語る(App Marketers' Festa 2026)
ビックカメラ
登壇者プロフィール
ビックカメラアプリの足跡――EC重視から「顧客との継続的な接続」へ
初めてアプリがリリースされたのは2012年、当時はEC専用アプリとしての性格が強く、大きな転換点となったのが2018年の現行アプリへの大規模リニューアルでした。
リニューアルを主導したのは、当時マーケティング部長としてEC部門を統括していた現・代表取締役社長。Eコマースでの成長を重視していた現社長の思い入れが色濃く反映された施策として、アプリは社内でも高い注目度を持つプロダクトだったと齊藤氏は振り返ります。
リニューアル後もアプリの基本構造はEC機能を軸としたものが続きましたが、「お客様に使っていただきたい場所・タイミングで使ってもらうシーンをつくる」という発想のもと、「お客様とつながる」「使い続けてもらう」「アンインストールされない」というシンプルな軸への再定義が、昨年(2025年)頃から始まったそうです。
売上と顧客体験の調和――「実店舗」を軸にした体験設計
続けてRepro中野氏から、「アプリ経由のEC売上を伸ばしたい」という声が業界で増えている中、短期的な足元の売上と、アプリ・店舗・ECの体験のバランスをどう取っているのかという事業者目線の問いが投げかけられました。
齊藤氏は「アプリに関わる方であれば、皆さん同じ悩みをお持ちなのではないでしょうか」と共感を示したうえで、「売上と顧客体験はトレードオフではないと思っています。お客様のニーズに向き合った結果として、売上がついてくるのが本質だと思っています」と答えました。
▲成果指標の再定義(株式会社ビックカメラ 登壇資料より)
その考え方を支えているのが、ビックカメラならではの強みである実店舗の存在です。アプリの位置づけはこれまでEC向けが中心でしたが、2026年、2027年を見据えたときに向き合うべきは、店舗設備やお客様の購買体験だといいます。
短期的な数字を追うのではなく、店舗スタッフが自信を持っておすすめできる状況をつくり、現場の声を聞きながら開発を進めること。それこそが、結果的に売上にもつながっていくという方針を掲げ、体験価値を軸にした指標づくりは今まさに模索を続けている段階だと説明しました。
来店前・来店中・来店後で描く顧客体験――現場に残るリアルな壁
顧客の行動プロセスを軸にした考え方を取り入れ始めてからは、「ECか店舗か」ではなく、顧客の行動そのものを主語に据え、来店前・来店中・来店後の3段階でアプリの体験を整理しています。
▲アプリの体験設計について(株式会社ビックカメラ 登壇資料より)
顧客行動を主語にした設計
- 来店前(調べる):検索・比較・在庫確認
- 来店中(確かめる):会員証・売場・接客
- 来店後(続ける):保証・使いこなし・買い替え
アプリは単なる「買う場所」ではなく、来店前から来店後まで、お客様の意思決定を途切れさせない橋のような存在を目指しているといいます。
この、来店フェーズでの「確かめる」を支えている会員証機能において、現場ならではの課題からアプリを改善した事例が共有されました。
久しぶりに来店したお客様にレジで「アプリの会員証を出してください」と案内すると、操作に手間取ってしまい、後ろに列ができてしまう。「会員証を出してもらうこと」自体が顧客体験を損ねては本末転倒であるため、レジ前でスムーズに提示してもらえるよう、ホーム画面の上部にポイントカードを設置しました。
しかし、こうした来店時の工夫だけでは、「お客様にアプリを開いてもらうこと」自体のハードルは解消されません。家電量販店が扱う白物家電やテレビなどは頻繁に購入する性質の商品ではないため、顧客が日常的にアプリを開く動機になりにくいという構造的な弱点があります。
そのためビックカメラでは、日用品、消耗品、雑貨、医薬品などの品揃えを訴求し、接触頻度を高める工夫を行っています。
試行錯誤から得た学び――「つながりつづける」設計への転換
ビックカメラは今、獲得して終わりにしない、関係を続けるための設計へと転換を進めています。そこに至るまで試行錯誤する道のりについて、齊藤氏はこれまでの取り組みを振り返り、率直に語りました。
同社では、「毎日使ってもらうために機能を盛り込む」という発想のもと、2018年のリニューアルでは先進的な機能やトレンドを数多く取り入れるなど、機能拡充に力を入れてきた時期もあったといいます。しかし、数年間の運用を経てわかったのは、「お客様が実際に使う機能はごく一部に限られている」という実態でした。
▲アプリ改善に向けた取り組み(株式会社ビックカメラ 登壇資料より)
齊藤氏によれば、この経験から、アプリの機能を増やすのではなく、お客様が必要な瞬間に使ってもらえるよう、開発方針を「文脈に合う体験をつくる」へと見直しました。
社内からのさまざまな要望に対しては、開発・改修コストに対する説明責任を果たしながら、店舗現場のスタッフの声や本当の顧客ニーズを後ろ盾にして意思決定を行っていく姿勢が強調されました。
「必要な瞬間に使ってもらう」という発想は、店舗の接客現場にも及んでいます。先述のレジでの会員証提示の改修も、その一例といえるでしょう。
こうした取り組みの先に見えてきたのが、獲得施策の成功だけでは関係は続かないという考え方です。「ダウンロードしてもらう」「会員になってもらう」ことをゴールにするのではなく、その先もお客様と「つながりつづけてもらう」ための設計こそが、今のビックカメラアプリが目指す姿だといえます。
全社員が自信を持ってお客様にすすめられるアプリへ
セッションの締めくくりとして、齊藤氏はビックカメラアプリが目指す将来像を語りました。
「メンバーと大事に共有しているのは、お客様にとって何ができるかというところに尽きます。店舗が強い会社なので、店舗で毎日接客しているメンバーの経験値を、アプリの中にどう落とし込めるか。大量の機能や最先端のテクニックを入れるというよりは、使っていただくために『引き算』していくという考え方が必要だと思っています」
▲齊藤 志奈氏(株式会社ビックカメラ 営業企画部 次長)
その根源にあるのは、店舗でお客様に「アプリを使ってください」とすすめてくれるメンバー自身が、自信を持ってすすめられるものをつくりたいという思いです。
齊藤氏は「まずは社員全員がみずからインストールして、周りにもすすめたくなる。それが最後にはいいアプリなんだろうと思っています」と語り、そうした考えをメンバーと共有しながら、コストをかけすぎずスピード感を持ってお客様の要望に応え、事業全体に貢献する窓口になるアプリをつくっていきたいと締めくくりました。
イベント概要「App Marketers' Festa 2026」
日時:2026年9月9日(水)17:00-21:00
場所:赤坂インターシティ コンファレンス the Amphitheater
東京都港区赤坂1-8-1 4階
主催:Repro株式会社、Adjust株式会社
イベントページ:https://repro.io/events/20260909/
株式会社ビックカメラ 営業企画部 次長 齊藤 志奈氏
大学卒業後、サッポロビールに入社。その後ショップチャンネルを経て、ビックカメラに入社。現在は営業企画部にて広報、データマーケティング、ウェブ広告を担当。趣味は三味線とお酒を飲むこと。